創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(273)ダヴィッド・オグルビー氏とのインタヴュー(7)

今日でオグルビーのシリーズは終わるが、かつて松岡茂雄くんとの共訳『ある広告人の告白』について、深入りすることができなかったのが残念。7刷までいったこともあるがそれより、鮮明におぼえているのは、上梓後、電通・島崎専務に松涛だったとおもうが〔かづお〕という高級料亭に招かれ、日本の広告界のためにいい本を出してくれた」とオメガの高級時計をいただいた。電通からの仕事なんかしてなかったし、その後も仕事の関係はなかった。純粋に日本のためになる---ということだったと、いまでもおもっている。その訳書だが各刷とも、定年したとき、多摩美術大学図書館に寄贈して手元にない。あれば、幾項目か抜粋・紹介できるのだが。
この数日間のテキストの入力はC.E社の制作プロデューサー水口さん黒木さんの志願によるものです。若いお2人への感謝の言葉ををコメント欄へ残してください。前段の赤星さん、染川さん、浅利さんの入力奉仕がなかったら、この試みは実現しなかった。


>>ダヴィッド・オグルビー氏のインタヴュー 目次


 才能のある人たちの供給についてなにか?
オグルビー たいがいの代理店──すべての代理店でそうなんですが──コピーライター、腕の立つライターが不足しています。そして優れたライターはひじょうにオーバーワークで、一つの仕事や会議から別な仕事へヨロヨロ歩きしているありさまです。彼らは、それを火曜の午後までにやり上げ、それから、それのOKをとらなければなりません。そんなふんい気の中で、不滅の広告を生み出すことは、たやすいことではありません。
 平凡な質問を一つさせてください。あなたが広告の仕事について知っていらっしゃることでもあり、またOBMの社長として、もしあなたの息子さんがコピーライターになりたいとしたら、どんなアドバイスをしますか?
オグルビー まず、これから広告界にはいりたいと望んでいる若者たちは、たいがいコピーを書きたいと思っていません。たとえば、私の代理店では、ハーバード、コロンビア、ダートマス、などのビジネス・スクールから、22人の青年をとりました。これら22人の若いビジネス・スクール出身者は、たいへん驚くべき青年たちです。コピーライターなど一人もいません。全部アカウント・エグゼキュティブの道を選んだのです。それにもし私の息子が──彼は22歳ですが──私のところへきて広告をやりたい、コピーライターになりたいといったら、私は「よせ」というでしょう。私の蔭からどうして脱けだすか、というような重大な問題から出発することになる、と彼にいうでしょう。人びとは「親父ほどではない」とか「親父よりはいい」とかいうでしょうから。それで私は彼にいってやります。「おまえは22歳だ。お前が最初になにか別のことをやってからでなければ、コピーライターになるべきではないと思う。」人によっては、大学をでてすぐコピーライターになる人もいますが、私の代理店にそうした人はほとんどいません。それはむずかしいことだと思います。前にもいったように、私は39歳のときはじめて広告を書きました。そしてすぐ相当うまい具合にいったのです。しかし、もしはじめにたくさんの仕事をやらなかったら、そうはいかなかったでしょう。私は戸別訪問して、調理用ストーブのセールスをやったし、調査の仕事でも働きました。つまり私は、最初の広告を書くにあたって、たいへんな重要な経験をもっていたのです。しかし、もし私の息子が、コピーをどうしても書きたいといいはるなら、私は一生懸命にやるようにいいます。椅子にすわって39もの下手くそで気の抜けた形容を書く前に、その製品を知り、それをすっかり学べといいます。広告を読めといいます。
私は雑誌をたくさん読みます。ずっとそうしてきましたが、記事はぜんぜん読みません。広告を読むだけです。私は息子に、適度に高いレベルの代理店にはいれと忠告します。そこで彼はミッチリ訓練を受けるでしょうし、よい指導を得られるでしょう。どれが優れた広告で、どれがそうでないかをわきまえている代理店ならばです。
 コピーに俗語を使うことはどうですか?たとえば「ウィストンのうまさ、タバコ本来のうまさ」というような使い方です。
オグルビー 私は学校で英文法を習ったことがないので、文法の規則を知りません。「ウィストンのうまさ」のいい方が文法的に間違っているという話はよく耳にします。しかし、なぜ間違っているのか、わかりませんね。まったく正しいと思います。間違いだというような人びとは、いやらしいペダントだと思います。しかし、彼らは文法家で、私はそうでないというだけのことかもしれません。
他の人になにかさせよう、なにか買わせようと説得するときは、彼らのことば、彼らが毎日使っていることば、彼らがそのことばで考えるようなことばを使うべきです。
私の代理店では、俗語で書くように努めています。この点でレオ・バーネットは、じつにみごとです。ある人から聞いたのですが、バーネットは机の上に箱をそなえつけておいて、俗語に出くわすたびに、書いてその箱に入れるのだそうです。私はあまりうまくありません。
私は外国人なので、アメリカの俗語については達者でないからです。私が俗語を使ってみると、きまって失敗するのです。しかし、他のライターの場合には感心しています──一人の人間が別の一人に話しかけるように書く能力、つまり俗語のことです。
 ちょっとおたずねしてみたいのですが、なにかアイデアを思いついたとき、それをファイルにしておく箱をおもちですか。とりとめのないアイデアを考えたことを、どのように書きとめていますか?
オグルビー オフィスに、そうしたものを入れる引き出しがあります。またベッドの傍にメモ帳をおいて、真夜中でもなにか書いたりします。なにか書きとめるポケット・ノートをもとうと、ここ数年思っているのですが、いつも忘れてしまうのです。どうも効率の悪い話です。(おわり