創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(197)ロン・ホランド氏とのインタヴュー(了)

Lois Holland Callaway Inc. Executive Vice-President, Secretary



自信家のジョージ・ロイスとうまくやっていくコツ

chuukyuu 「ロイス氏を芸術家肌の人間という人もいるようですが、彼はむしろ社交的という言葉がビッタリする人ではないでしょうか? クリエイティブ・ワークのためこ、彼とうまくやっていくコツ、といったものをあなたはお持ちでか?」
ホランド 「ペストを尽すこと、予備知識をたくわえておくこと、誠実であると、これがジョージとうまくやっていくコツじゃあないかな?  彼が芸術家肌の人間であるかどうか私にはわかりませんが、とにかく、彼は寛大で、格式ばらない人ですよ。あるいは彼についてのうわさを聞いたかもしれませんが、とかく、クライアントはおろか、婦人に、家族に、子どもたちに、あるいはだれにでも見せる彼の礼儀正しさは、エドワード七世時代を思わせますこの世の中でジョージが恐れる唯一の人間は、彼の二人の息子なのですよ」
chuukyuu 「ロイス氏は、米国でもっとも才能に恵まれたアートディレクターですね。そのような才能の持ち主であるから、彼はコピーを、あるいは少なくともヘッドラインを書くことも時にはあるのですね。そうなると、今日の米国の広告界では、アートディレクターの仕事とコピーライターのそれとの間にひかれていた線がかすんでいく傾向にあるのではないでしょうか? その点をコピーライターであるあなたはどうお考えになりますか?」
ホランド 「こいつは長い質問ですね。すこしずつ答えていくとして、第一にロイスが今日の米国でもっとも才能あるアートディレクターであるといことは確かだと思います。ペストなアートディレクターは誰かという質問に恐らくはみんながロイスと答えるでしょう。しばしば彼はヘッドラインも手がていますし、実際私が自慢しているコピーの中にも、彼の手になるヘッドランが入っています。それにボディ・コピーにしたって実に驚くべきものを書くのですよ。彼は、どんな商品にしたってそうなんです。コピーライティングの規律といったものを鋭く研究し、明解で思慮深く、とどまるとろを知らないのではないかと思うくらいに---まるで簡単なことのように」
chuukyuu 「アートディレクターの仕事とコピーライターの仕事を分けている線がからなくなっていることについてはどう思いますか?」
ホランド 「そんなことはないんですよ。ジョージ・ロイスの場合は異例なんです。彼のような人はめったに現われませんからね。
彼は広告という仕事、宣伝してものを売るという仕事の究極を極めていて、消費者の心の中に商品のイメージを確立し、なぜ買うべきなのか手際よく説明します。ぼくは、アートディレクターとコピーライターの関係はとても密接なものであり、だからこそ、より効果的なものが生まれてくると思っています。しかし、だからといってこの両者の間にひかれた一線がなくなりつつあるとは考えません。コピーライターはやはりコピーライターであり、またアートディレクターも同じなのです」


好きな作品は証券会社エドワーズ&ハンリーの広告

chuukyuu 「これまでにつくった広告の中で、とくに気に入っているものを二つ挙げてください。そして、その理由や何かエピソードでもありましたらついでに」
ホランド 「誰でも自分のつくったものは全部好きといっても決して不思議ではありませんが、私が気に入っているのはエドワーズ&ハンリーの広告です。これが劾黒的な広告であったことは事実ですが、それとは別に、私がこれを気に入っているのは、開店後間もない私たちの代理店に最初に仕事を依頼してきたのがこのアカウントだったからなのです。
この広告でエドワーズ&ハンリーは一躍有名になり、私たちもその恩恵を受けて人に知られるようになりました。これがあったからこそ私たちはつぎの一歩が踏み出せたものであり、さらにはもっとも早く成長した代理店にもなり得たのであると私は確信します」


エドワーズ&ハンリーよ。おれがお前を必要としていた時、お前はどこにいたんだい!」


私たちはジョー・ルイスが若きチャンピオンだった頃のすばらしい写真を手に入れました。
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chuukyuu 「最後の質問ですが、これからのアメリカの広告界の姿といったものをどうご覧になりますか?」
ホランド 「現在の姿をそのまま残すのではないでしょうか、かって1923年ごろだったと思いますが、偉大なコピーライターであったジョン・ケネディアルバート・ラスカーに広告とは何かと教えました。『それは簡単なんだ、広告とは、印刷を通してのセールスマンシップなのさ』と言ったんです。これは当時の話でで、むろん今日では、テレビ、ラジオを通してのセールスマンシップでもあるのです。セールスシップそのものは昔も今も変わっていませんが、私には広告とは何か特別のものであるとか、そこには不思銭な力があるとはどうしてえられません。広告とは訓練を受けたわざであり、広告の新しいタイプといったものはあり得ないと思います。あらゆることが異なり、また同じなのです。
広告の仕事は『売り込む』ことなのですから、それは効果的なもの、十分に説得できるもの、経済的につくられるものでなくてはなりません。ロイス・ホランドキャラウェイを含めて、私たち広告界にいる者は、決して人びとを辱めてはならないし、彼らがもっているわざをより効果的にするために言葉を飾るようなことも決して許されないのです。こうした広告が無為であるとわかれば、クライアントのほうから拒絶してきますし。もし自分がこうと思う広告がつくれないようなら、私たちは決して未練たらしくこの会社に留まるようなことはしません。