創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(376)エド・マケイブ(Edward McCabe)氏とのインタヴュー (了)

米国の広告業界紙・誌を眺めていて、どのアカウントがどの広告代理店へ移った---といった記事が眼にとまると、そのクライアント、あるいは広告代理店が興味を抱いていた社であれば、それから8ヶ月後に現われる広告キャンペーンを注目するわけです。アカウントが移ると、受けた代理店は6ヶ月かけてキャンペーンを準備・制作し、その結果が雑誌などに現われてくるのはさらに2ヶ月後ですからね。米国の広告界におこっていた38年前のクリエイティブ革新の形相は、そんな小さな記事から注目・期待をはじめました。まあ、東京にいる個人がやるには、いささか無理なウォッチングでしたが、若さがそんな無謀をやらせたのですね。


スカリ・マケイブ・スローブス(Scali,McCabe,Sloves,Inc.)社
副社長兼コピー・ディレクター(1968年)


ライターよ、アートディレクターに頼りきるな


chuukyuu  「若いコピーライターの指導法について・・・」
ケイブ 「そのコピーライターによりますね。コピーライターの中には、とても注意して慎重に扱わなければならない人もいますし、ただ部屋へ入って、なんのアドバイスもしないでスーツと出てきてしまってもいい人もいます。
その人の個性によって、指導法は変わってきますね。他の者よりも、もっと明確な特別な扱いを要求する者もいますね。いっしょに仕事をしている人の個性がどんなであるかを見抜くのが、スーパパイザーの仕事なのです。
コピーライティングにとって、もっとも大切なことは書くこと、しかもうま書く訓練ではありません。それはコピーライターがしなければならない根本的なことです。もっとも大切なことは、ロジックとコモン・センスなのです。
コモン・センスにあふれた人なら、どうやったらうまく書け、良いコピーライターになれるかを教えることができると思います」

chuukyuu 「若いコピーライターは経験あるライターにアドバイスを求めるべきだとお考えですか?」
ケイブ 「それはもちろん、数少ない方法の一つだと思いますよ」

chuukyuu 「(アートディレクターの)スカリさんとのコンビは、実際にはどのように組まれていますか?」
ケイブ 「彼がヘッドラインを書くこともあれば、私がビジュアルのほうを思いつくこともありますね。私は、アートディレクターとライターがいっしょになってうんぬんっていうやり方には、反対なのです。それは、昔のライターが、アートディレクターのドアの下にコピーをおいてくるというやり方と同じぐらい愚かなものだと考えます。
そうやることで、私たちはライターをなまけ者にし、アートディレクターにたよりすぎる傾向に追いやっているのですよ。
ほんとうにすぐれたコピーライターというのは、オフィスに一人ですわって、一人でアイデアを思いつき、アートディレクターの助けなしに書きあげることができる人だと思います。
もちろん、いっしょに働くことで、より良いものを思いつくことができるかもしれません。でも、アイデアの点で、ライタ-はアートディレクタ-にたよってしまうことになりますし、いっしょに働くことは、大いなるナンセンスだと思います。アイデアを思いつかないのは、そのせいじゃないのでしょうか? 
ライターはいつかは、こんなふうにいいますよ。 『アートディレクターといっしょにでなくちゃあ、何もできないよ。何もやれないよ』
自分で考えられないようなシステムじゃあ、悪いシステムに違いありません」



ケイブ氏は、DDBがつくりあげたアートとコピーのペア・チーム・システムについて、何かがいいたいのでしょう。しかし、それは、この程度の発言でしかなされませんでした。
そして彼は、もっと詳しく聞きたければ自分を日本に招待してくれと、冗談とも真面目ともつかないような言葉をつけ加えてインタヴューを終わりました。
確かに、マケイブ氏の提案には一理あります。能力のある人なら、一人でアイデアをつくり出すこともできます。一人でつくり出せる人なら、アートディレクターと組んでも、アートディレクターにたよりきることはないでしょう。
アート=コピーのペア・チームによるアイデア創造法は、一人立ちできるコピーライターとアートディレクターが組んでこそ意味があるのであって、そのシステムそのものを教育法と見るのは誤っている・・・とマケイブ氏はいっているのではないでしょうか?
いずれにしても、このマケイブ氏の発言は、今後、大いに物議をかもしそうな、きわどい発言だということはいえます。

ケイブ氏のカール・アリー広告代理店時代におこなわれたSASの広告の一例。



この美しい娘は、なぜ微笑んでいるのでしょう?


だれもが仕事をもち、食べるものも十分あり、
犯罪が存在せず、スラム街も特殊部落もなく、
150年間も戦争のなかった国に住んでいるからです。


スカンジナビアを訪れた80%もの人が、もっと長く滞在できたらって望むのが不思議だって? SASは、ニューヨーク、 ロサンゼルス、シカゴ、アンカレッジ、モントリオールからコベンンハーゲン、オスロ、ベルゲン、ヘルシンキ、そして美しい娘の住むストックホルムへと飛んでいます。ヨーロッパでは、SASは、大西洋を越えるどの航空会社よりもたくさんの都市でお役に立っています。


chuukyuuアナウンス】
明日からは、1週間の予定で、 『効果的なコピー作法』 [第4章 コピーの視覚化]をアップの予定です。


>>[効果的なコピー作法]目次