創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(141)レン・シローイッツ氏のスピーチ(1)

"My Graphic Concept" Lecture by Leonard Sirowitz in Zurich 1967 Spring
1967年春、チューリッヒでの「マイ・グラフィック・コンセプト」と題するスピーチ。氏の快諾を得てDDBドキュメント』 (誠文堂新光社 ブレーンブックス 1970.11.10)に翻訳掲載したものの転載。

【略歴】
当時---DDBクリエイティブ・マネージメント・スーパバイザー兼副社長
(1969年退社し、ハーパー・ローゼンフェルド・シローイッツ社の共同経営者)
1932年 6月 25日、ニューヨークのブルックリンで生まれた。以後 33年間、ニューヨークに住み,、現在はハドソン河を見下せるマンハッタンのアパートに、夫人と2人の子供とともに暮している。DDB代理店のアート・スーパパイザーとして活躍中。
プラット・インスティテュートで広告デザインを専攻し 1953年に卒業。すぐに薬品関係の広告代理店 LW.プロリッチに入社したが。6ヵ月いただけで徴兵。2年後除隊すると、NBC担当としてグレイ・アドバタイジング代理店に入社。1年半後には CBSの故 W.ゴールデンのもとで仕事をすることになった。
1957年、新しいテレビ局 NTAのアート部門をまとめていく仕事についた。その仕事でNYアート・ディレクターズ・クラブ、アメリカ・グラフィック・アート協会、NYタイプ・ディレクターズ・クラブなどから数多くの賞を得た。
1959年,世界最高の代理店 DDBに志願し、採用された。そして、NY・ADC第43回(1965)展では「ベター・ビジョン協会」のキャンペーンで特別大賞を受賞。
1968年と70年には「The Number One Art Director in America」に選ばれ、1985年、NYADCから「名誉の殿堂入り」を指名されている。

講演
グラフィックはアイデア伝達の道具 

私は、今日のこのチューリッヒでの講演を、「グラフィック・コンセプト」を解析することから始めたいと思います。
それは一般的に考えているような「グラフィック・コンセプト」とはまったく異なったものです。
私がここで述べようと思うのは、広告における「アイデア」についてなのです。
皆さんの中にもこれが重要な問題であることをど存じの方も多いと思います。
人は「アイデア」を記憶するものです。
そのアイデアを表現する道具・手段が「グラフィック」であり「コピー 」なのです。
それで私の講演の題目をいい替えれば、DDB社がこの問題にどう対処しているかをお話しようというのです。
DDBがいかにして今日このように成功したかをお話しようと思うのです。
最新の統計によると、広告代理店は年間 20億ドル以上の広告を扱っています。18年前(1949)ビル・バーンバック、そしてネッド・ドイルとマックスウェル・デーンはまったく新しい種類の広告代理店を作りました。
それは自らの能力を信じ、自らの信念をかかげ、クライアントには彼らの製品の広告に関しては、彼ら自身で行なうよりもより有効に行なうことができる---と信じさせるような広告代理店でした。
DDBの成功の秘密の一つは、私たちがどのようにすれば読者の心に、頭脳に、そして最終的には財布の中にまで入りこむことができるかを知っていることにあります。
DDBはどのようにすれば読者の目をひき、DDBの広告に引き込み、そしてDDBがオーディエンス(メッセージの受け手)に告げたいと思っていることを記憶させることができるかを学びました。
DDBは、現代のアメリカにおける最大のムダの一つは、効果のない広告に費やさていれるお金であると信じています。
ライフ誌の 1ページの広告料は5万ドルですからね。
DDBはまた、読者を尊敬し、彼らに教養ある人間として訴えかけねばならないことを学びました。決して見下したような調子で語りかけてはなりません。
この点についてのもっとももよい例は、フォルクスワーゲン・キャンペーンの驚くべき成功です。
他の代理店は彼らが最低・最大公約数とみなしている人びとにアピールするよう努めているのに対して、DDBは、最初の出発点から、オーディエンスを同等の人間として扱い、呼びかけました。
DDBでは、真実のそして信頗できる広告ということを主張します。


緑のフェンダーは58年のもの。
青のフードは59年もの。

ベージュのフェンターは64年もの。
ドアは62年。
VWの部品は何年型のものでも交換可能。

私たちは人間にかかわる、実生活から生み出された広告を作るように努めています。
これはアイデアによってのみ達成できることで、グラフィック・デザインやトリックによってではありません。
この点をとくに強調するのは、私がいつもヨーロッパの代理店の仕事を、ヨーロッパ年鑑によって見て知っているからです。
私に言わせればも、それらの仕事はアメリカの美術学校で行なわれている仕事以上のものとは思われません。それはセールス・アイデアとはなんの関係もないグラフィック・テクニックの集積でしかありません。
私はヨーロッパの広告の伝統がデザインされた色彩豊かなポスターにあることを知っています。しかしながら、これらのポスターと、製品の長所を巧みに限定・強調して人びとにそれを買わせるような広告との間には、ほとんどなんの関係もありません。
いくらかの例外はあるものの、私に言わせれば、ヨーロッパでは、アイデアよりもグラフィックを優先させすぎています。
皆さんは、言葉に対してほとんど関心を払っていません。一つの広告の中に両者の技術をどのように結合させるかをご存じない。


続く >>