創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(294)[シーヴァス・リーガルの広告](5)

感心した制作物を自分流に翻案したい---という意欲は、志が高ければ高い人ほど、絶えることなく湧きます。クリエイティブの手法の一つでもありますしね。DDBのような、仲間同士で競い合い高めあう雰囲気の場所だとなおさら。とりわけ目標になるのが、VWビートルのシリーズであることは容易に想像がつきます。シーヴァスのチームもやりました。


VWシリーズの中でも、とりわけ奇想天外なのが、イラストレイション部分になんにも置いてない、



5,000,000台目のワーゲンを
ご覧に入れようとおもいましたが、売れてしまったのです。




We'd like to show you the 5,000,000th Volkswagen. But it's been sold.

この広告が、ドイツVW本社のPR本部の責任者に拒否され、ノルトホフ社長(当時)の「1字1句といえども変更してはならない」との、鶴の1声で、めでたく陽の目をみたことは、
2008年8月25日[フォルクスワーゲンの広告](86)に紹介ずみです。
ひと言葉つけくわえると、1961年秋---各雑誌の10月号と11月号に新車の広告が出揃うときに、アッといわせるために創られてのです。

シーヴァス・リーガルのチームがやったのは、

写真スタジオにシーヴァス・リーガルを
置いてたのが、間違いのもと。

1976.3.15『フォーブス』




It's hard to keep a bottle of Chivas Regal around a photographer's studio.


いささか楽屋落ちのアイデアともいえますね。とはいえ、これをO.K.したシーヴァスの担当部をほめることを忘れてはいけません。まあ、シーヴァス側としては、VW本社のノルトホフ社長が「1字1句といえども変更してはならない」と命じたのを聞いていたでしょうから、自分のところがダメをだしたら、DDB内はおろか、マジソン街中で笑い者になるとも思ったことでしょう。
つまり、大胆な広告を通すには、通してもらえるところから攻めよ---ということでしょう。


もう一つは、VWビートルのシリーズの中でも、白眉といわれている、



小さいことが理想。


Think small.


【全訳は】『効果的なコピー作法』(2-4)
この、ひと目でメッセージが分かり、かつ、読み手の人生観まで変えてしまった傑作をもじって、

シーヴァスなど、とても手がとどけかないとお考えかも知れません。
ところが実際には、数ドルしか違わないのです。

1973年5月号『エスカイヤ』




Chivas may seem beyond your reach. But it's actually only a few dollars away.


Esquire, June 1973

エスカイヤ』の読者なら、1年ほど前に大話題になったVWの"Think small" を記憶している人がほとんどでしょうから、ニヤリと微笑んで、「やったね!」と、その夜はシーヴァスで乾杯したかも。

もっとも、「Think small」をもじるなんて、そんなおそろしいことを---と、シーヴァス・チームが意識していたのは、こっちだという説もあります。

ロー・プライスに驚いて逃げ出さないでください。 


1,575ドル。
フォルクスワーゲンの新車の値段です。
でも、この車を買わない人もいます。その人たちはもっと高価なものが自分にふさわしいと感じいるのです。これが私たちがつけた価格に対して私たちが支払う代償なのです。
この車を買うことを恐れる人もいます。その人たちは、私たちがどんなふうにしてこの車を安っぽく見せずに安い値段でつくり出すのか理解できないのです。
ご説明しましょう。
かぶと虫の形は毎年同じです。ですから私たちは毎年工場を直さなくてもすむのです。
外見に関して節約したものを、私たちはもっと多くの人にこの車を買っていただけるようにするための改良にそそぎます。
大量生産はコストを削減します。そしてVWは、史上に存在したいかなる車よりも大量に生産されました(今日までに1,000万台以上です)。
また、空冷式リア・エンジンも、ラジエター、給水ポンプ、ドライブ・シャフトを不要にしてコストの削減に一役買っています。
押しボタンで操作する奇抜な装置もついていません(押しボタンはドアについているだけです。しかもこの装置も手動です)。
フォルクスワーゲンをお求めになれば、払ったお金にふさわしいものが手にはいります。手にはいらないのは安っぽい装飾です。
無駄なものについては1円も支払うことはないのです。

いや、VWビートルの最強チームだってチーム内での対抗意識のほかに、幹部にたいしても燃やしているんです。

DDB制作部の重鎮---ロバート・ゲイジ氏の有名な言葉に、「逆立ちした人物の写真を使ってもいいのは、ポケットから硬貨がこぼれスラックスの広告をするときだけだ」というのがあります。
で、VWのチームは、それ以外にもあります---と、これを創ったんです。


私たちがかぶと虫を殺すことがあるでしょうか?


とんでもない。
どうしてそんなことができます?
フォルクスワーゲンを世に出したのは、ほかならぬ私たちなのです。何年も何年も育てあげてきたのです。
そのスタイルが世間の物笑いの種になった時も、世界中の人と仲よくでくるように---と助けてきたのです。そして今や800万の人と友だちになっています。
私たちは、この車を決して流行遅れにならない(ましてやこの世から消えるなんてことは、決してない)とこの人たちに約束しました。
もちろん、かぶと虫が年々変わってきたことは否定しません。でも、ほとんど気づかれないほどの変化です。
1949年以来、私たはVWに5,000ヶ所に及ぶ改良をほどこしてきましたが、それらはすべて、車の性能の向上と長もちにつながるものばかりでした。
少数の潔癖家は、私たちが改良のたびにかぶと虫を殺しているって感じているようですが、やむをえなかったのです。
それが必要な時には、かぶと虫を殺さなければならないのです。
これこそが、かぶと虫が死に絶えるのを防ぐ唯一の、そして確実な方法なのですから。


刺激しあい、感激しあい、誉めあい、琢磨しあい、奮起しあう---環境にいてこそ、よいアイデアが浮かぶという、このブログの趣旨の証明でもあります。


chuukyuuアナウンス明日も、シーヴァス・チームからのちょっとしたイデアオマケを追加します。