創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(60)『かぶと虫の図版100選』テキスト(5)


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1970年3月20日フォルクスワーゲン・ビートルに関する2冊目の編著書の新書版『かぶと虫の図版100選』をブレーン・ブックスから上梓しました。

そのテキスト部分の転載です。

「これは正直な車だ」がバーンバックのセリング・プロポジションだった


米国VW社の指名によってVWの広告代理店となったDDBは、さっそく、ネッド・ドイル筆頭副社長をはじめ、コピーライターのジュリアン・ケーニグ、アートディレクターのヘルムート・クローンらのVWチームをドイツのウルフスブルクの本社工場へ送りこんだ。資料収集のためである。
彼らは数日間滞在し、生産工程や設計ぶりを取材した。「解けた金属が固まってエンジンになるのと一緒に歩き、そして、すべての部品が最後に定められた場所に納まるまで歩きつづけました。われわれは最後にの人がハンドルをとって、生まれたばかりのかぶと虫に最初の生命を吹きこみ、それが初めて動き出すのを見ました」と、DDBのバーンバック会長が書いているとおりの取材がつづいたのであろう。
しかし、こうした取材は本格的な広告制作を心がけた場合にはさして珍しいことではない。重要なのは、工場取材によって、いうべきことを見つけることであろう。
「われわれは、VWのつくり方をすっかりのみ込むことができ、テーマは何にすべきかを知ったのです。われわれは、何がこの車を他の車と区別させているのかを知りました。われわれは、何を米国の大衆に告げなければならないかを知ったのです。われわれは、いわなければなりませんでした。
『これは正直な車だ』---これが、われわれのセリング・プロポジション(広告命題)でした。
われわれは、使用される部品の品質を見ました。
われわれは、間違いを避けるためにとられている、信じられないぐらいの予防措置を見ました。
われわれは、車を何回も引き返えらせ、その代わりにお客さまからは決して突き返されることのないようにする、莫大なお金のかかった検査システムを見ました。
われわれは、この信じられないぐらいの安い値段で、このすばらしい品質を可能ならしめている印象的な能率を見ました。
ほれわれは、作業員たちの、定められた基準よりもずっと自分をすぐれたものにしている熟練の誇りを見ました。
そうです。これは正直な車です。われわれは、セリング・プロポジションを見つけたのです」
これは、バーンバック会長が1962年の4A(全米広告業者協会)の総会で講演したものの一部である。ぼくは、つい最近まで、これらの言葉のすべてを信じていた。これこそ、VWの広告キャンペーンの本質だと思っていた。
ところが、そうではなかったのである。いや、セリング・プロポジションは違ってはいない。
セールス・プロポジションが表現に結晶するのは、バーンバック会長がいうようには、そう、簡単にはいかなかったのである。


キャンペーンが始められた、1959年に掲載された広告の1例。

 

       
198ポンドフォルクスワーゲンのアルミ・エンジンが、つねに進んでいるわけ)

重いエンジンは、効率の敵です。
飛行機のエンジンがアルミ製になっている理由も、ここにあります。フォルクスワーゲンのエンジンがアルミニウムとマグネシウムの合金(アルミよりもさらに軽い)で精巧に鋳造されている理由も、これです。
フォルクスワーゲンは、ほかの方法でも、この死重---を減らしています。エンジンは、空冷式です。カサぱるラジエイターがありません(冬には凍り、夏には沸騰する水がないのです)。また、リア・エンジンにすることで、普通の車が持っている重いドライブ・シャフトがなく、後車輪にジカに動力を伝えます(ぬかるみや、砂地、氷原や雪道など、他の車がスキッドするところを、あなたはドンドン走れます)。
つまり、フォルクスワーゲンのエンジンの重さは、たった198ポンド、その1ポンド1ポンドが生きているのです。1ガロンの燃料で確実に32マイルは走れます(普通のカソリンで、普通の運転で)。さらに、交換時期までオイルの補給もいらないはずです。また、エンジンは非常に効率がよいので、トップ・スピード時と巡航速度が同じです。1日中、時速70マイルで走りつづけても平気です。
こうしたことが、中古のVWでも、新車とほとんど同価値をつけられている理由のいくつかです。VWのディーラーが、もっと他の点についても見せてくれるでしょう。




198 lbs.
(why Volkswagen's aluminum engine is still years ahead of its time)

Dead weight in an engine is the enemy of efficiency.
That's why airplane engines are made of aluminum. Why Volkswagen's engine is ingeniously cast of aluminum and magnesium alloys (even lighter than aluminum.)
Volkswagen reduces dead weight in still other ways. The engine is air-cooled---no bulky radiator.(No water to freeze in winter, or boil over in summer.) And placing the engine in the back gets rid of the conventional heavy drive-shaft while giving direct power to the wheels.(In mud, sand, ice, snow, where other cars skid, you go.)
As a result, the Volkswagen engine weight only 198 lbs. and every pound works. You get an honest 32 miles to the gallon (regular gas, regular driving.) and will probably never oil between changes. And the engine is so efficient, top and cruising speeds are the same. You can go 70 mph without strain, all day long.
These are some of the reasons a used VW is worth almost as much as a new one. Your VW dealer will show you the other.


>>(6)に続く。