創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(298) [クリエイティブの核心](3) by Bill Bernbach

引用の広告図版は、1973年---つまり、35年前の石油ショックの時のものである。『トゥルー True』誌11月号に掲載されていた。端正なビートルの写真に語られせるVW独特のスタイルから、マンガ調のイラストレイションにしている。「もう、端正になんか気取ってられない」という怒りも感じられる。ビートルのパトカー、タクシー---トラックやスクールバスへの改造車も描かれているのもガソリン高騰への庶民の怒りを凝縮。こんどの原油高騰に怒った庶民の声を反映した石油会社や車メーカーのCMを目にしたことがないのは、テレビの視聴時間が極端に少なすぎる人間だからであろうか。


ガソリン配給制に代わる配慮ある案。


この絵のどこに配慮があるかって? そう、もしこれが実現したら、毎年280億5600万ガロンものガソリンが節約できるという点。
どうしてこういう数字がでたか? 私たちは全国平均を得意とする国民性のおかげで、普通の車が年間735ガロンものガソリンを使うことを知っています。かぶと虫は399。そこで現在路上を走っている8500万台の平均的車種を全部カブト虫に代えたら、28,560,000,000ガロンのガソリンを節約できわけです。(多少の誤差はありましょうが)。
かぶと虫の空冷エンジンのおかげで、水や不凍液がどのくらい節約できるかはまだ計算してみたとはありません。
駐車スペースがどんなに増えるかもちょっと計算できませんでした。
フォルクスワーゲン世界でどんなにお金を節約できるかはもちろん。
でもこれがとっぴな考えでないことに私たちは確固たる自信があります。すでにオシニングではかぶと虫のパトカーが登場しています。L.A.では自家用運転手付カスタム・かぶと虫。そしてホンデュラスの町中ではフォルクスワーゲンのタクシー、そしてミズーリではかぶと虫が家畜の群れを導いています。
ガソリンの価格が上がり、配給制が実現されそうな今ほどかぶと虫が美しく見えたことはないでしょう。いえ、見事にと言っても過言ではありません。

この世にフォルクスワーゲンほどの働き者は、まず、いません。


chuukyuu補】"rationing(配給)" って用語がのこっていたなんて---第2次大戦中の米国の市民生活の名残りですかね。60数年前、米国ですらガソリンは切符制だったらしいことをしのばせる、なつかしい用語。

AD:Wally Arevalo
CW:Jane Talcott



A rational alternative to rationing gas.

What's right with this picture? Well if it were true, we'd be saving 28 billion, 560 million gallons 01 gas every year.
How did we arrive at that figure? Since we're a notion of notional overages, we know the overage car uses about 735 gallons of gas a year. The Beetle, 399.
Turn the eighty-five million overage cars on the road right now into Beetles, and it works out to a saving of 28,560,OO0,000 (give or take a few gallons).
Now we haven't figured out all the waler and antifreeze that would be saved with the Beetle's air-cooled engine.
Nor can we compute the extra parking space that would be around.
Not to mention all the money people would be able to save in a world of Volkswogens.
But we know for sure that this is no piple dream. There already are police car Beetles up in Ossining. And a custom built, chauffeur-driven Bug in L. A. And Velkswagen toxis all over Honduras. And a Beetle that herds cattle in Missouri.
So with gas prices going up and rationing becoming a reality, the Beetle never looked so good. In fact, you might almost call it beautiful.

Few things in life work as well a Volkswagen.


True Magazine, November, 1973
AD:Wally Arevalo
CW:Jane Talcott


「クリエイティブの核心」
ウィリアム・バーンバック氏 (坂本登 訳)
AAAA(全米広告代理業協会) 1971年 年次総会スピーチより


何をいうかだけでなく  
   どのようにいうかが問題。


それだけで十分だろうか?
それだけが広告の目的のすべてだろうか?
ノーである。
広告が成功するためには、その他いくつかの鍛練を必要とするまでに世の中は進歩しているのである。
今や正しいこと、商品について関連性のあることだけをいう鍛練では不十分なのである。
洗練され、冷笑的で、不信感の強い世間の人々に対して、どのようにいうかがより重要なのである。
そこで第二の鍛練---美学的鍛練が必要なのである。モノをいう技術が必要である。
この前のANA総会で述べたことが参考になるかもしれない。

正しい広告だけでは商品は売れない。 ところが、私の見たところ、たいていの企業は正しい広告をつくることにきゅうきゅうとしているようだ。もちろん正しい広告は行なわねばならない。
しかし正しさを求めるあまり、不景気とコンシューマリズムの高まりのダブルパンチを受けて最近では広告の第一の目標---注目を集めること---が見失われかけている。今日のビジネスで最も罪深い金の浪費は、注目されない退屈な広告に金を使うことである。企業は日夜の努力によって正しい製品を開発し、正しいパッケージングをしながら、最後の段階で消費者を取り巻くコミュニケーションという大海のもくずと消えてしまうような広告をつくって、これらのマーケティングの技術を役に立たないものにしてしまっている。今、メーカーにとって最も望まれ、かつ重要なことは、自社の広告の内容に神経を集中させ、一つ一つの広告がコンシューマー・サービスの役割を果たすよう気を配ることである。
しかし、自社の商品の利点をくどくど書きたてたり大声で説明することがその解決策ではない
消費者が一種のコンピュータのように、広告を読んで商品についてのあらゆる情報を記憶し、その結果、完全な評価ができるのならよいが、悲しいかな、われわれ人間は、あらゆる種類の精神的・体的な要素を寄せ集めた生物体である。
われわれを退屈させる危険性のないものはないのである。 
最初の宇宙飛行のことを思い出していただきたい。われわれはみな昼食に行く時も小型ラジオを持って行った。あの偉大な冒険の一瞬たりとも見のがすまいとした。
それからあと、月着陸の場合を除いて宇宙飛行について、あの時ほどの興奮を覚えただろうか?
今になっては、宇宙飛行の話は世界の最大の関心事とはいえないのではなかろうか?
今日の広告についても同様のことがいえる。
確かにわれわれは広告なしにはやっていけい。
そうはいっても広告は正当な評価を得ていない。
広告予算に限っていえば、関係者が広告の力を信じるまでは正当な広告予算すら組めない。関係者は、広告の内容がわからなければ広告の力を信じない。
広告を見聞きしなければ広告の内容がわからない。広告が面白くなければ広告を見聞きしようとしない。
広告は、その表現が新鮮で、独創的で、想像力に富んだものでなければ面白くないのである」


明日は「意見は測定するのではなく つくり出すものである」


chuukyuu補】バーンバックさんのこのスピーチは、1971年の初夏におこなわれたものである。アポロ11号の月面着陸の成功は、計算どおり、1969年7月21日午前11時56分20秒であった。

DDBによるVWビートルの広告


不恰好ですが、運んでってくれますよね。


copywriter:Larry Levenson
art director:Jim Brown

chuukyuuのちょっぴり自慢】
ぼくたちが、その日をねらいすませて創った新聞広告。当時、銀行は、新聞広告は大蔵省の指導で、3段以上、出せなかった。いちど、1ページ広告をやってみたかった。3段の予算で。



読売新聞1969年7月21日夕刊


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