創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(40)VWビートルの広告(12)

このシリーズ…VWビートルの広告(11)は、水飢饉に悩むニューヨーク市民に[節水]にことよせて、空冷式エンジンのメリットを訴えたものでした。
なに、水冷式エンジンに注入されている水なんて、たいした量ではないんです。
ですから、ニューヨークっ子は、VWチームのウィットに拍手を送ったのです。


さて、このシリーズ…VWビートルの広告では、これまで、
http://www.aden.co.jp/page_works/vw/index.html
に掲載されているVWの広告の再録は避けてきました。しかし、解説を付したほうがより理解が深まるというものについては再掲載もいとわないことにしました。
これもその一つ…。
同じ水がテーマでも、これは、ニュー・ビートルにも共通する気密性を訴求しています。


フォルクスワーゲン独自の構造が湿気を閉め出します。

ここ数年来、水に浮くフォルクスワーゲンのことが評判になっています(この写真を撮影した写真家は42分間浮かんでいたと主張しています)。
なぜ沈まないのでしょう?
フォルクスワーゲンの腹部は普通の車のそれとはできが違います。1枚の鋼板が車の腹底部全面をおおっており、ぴっちり密封されているのです。
とはいえ、変てこなボートをつくるためにこんなことをしているのではありません。ただただよりよい車をつくるためです。腹底部が密封されているので、VWは、水、ほこり、塩害から守られています。
車を食べつくしてしまう道路上のすべてのいやなものからです。
フォルクスワーゲンの上部もまた、航海に耐えうるものです。気密にできています。本当に気密なので、窓をすこし開けなければ、ドアが閉めにくいといわれています。
もう一つ、フォルクスワーゲンを所有なさったら、心にとめていただきたいことがあります。確かに浮きはしますが、いつまでもというわけにはいきません。
ですから、大きな水たまりでは迂回してください。とりわけ、名前がつけられているほど大きな水たまりは…ね。




Volkswagen's unique constraction keeps dampness out.

For years there have been romors about floating Volkswagens. (The photographer claims this one stayed up for about 42 minutes.)
Why not?
The bottom of the VW isn't like ordinary car bottoms. A sheet of flat steel runs under the car, sealimg the bottomfore and aft.
That's not done to make s bad boat out of it, just a better car. The sealed bottom protects a VW fromwater, dirt and solt.All the nasty things on the road thateventually eat up a car.
The top of a Volkswagen is also very seaworthy. It's practically airtight.So airtight that it's hard to close the door without rolling down the window just a little bit.
But there's still one thing to keep in mind if you own a Volkswagen. Even if it could definiely float, it couldn't float indefinitely.
So drive around the big puddles. Especially if they're big enough to have a name.


ボディ・コピーの末尾…

大きな水たまりでは迂回してください。とりわけ、名前がつけられているほど大きな水たまりは…ね。


ウィットといいますか、VWコピー流の「捨て台詞」といいますか。
これを嫌い、「広告なんだから、もっとマジメにやれえ」という米国人もいます。
しかし、スマートで、知的なウィットを楽しむ米国人も50%以上います。VWチームは、買う買わないは別にして、その50%以上の米国人に語りかけているのです。
やがて、人生観を変えて、見栄えよりも経済、丈夫で長持ちを心がけるようになるだろうと。

ただ、不思議は、広告主の側に、ふだんはとてもスマートな方なのに、自社の広告だけには、「もっとマジメにやれえ」派に急変なさること。