創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(40)フィリス・ロビンソン夫人とのインタヴュー(6)「娘の協力でできたポラロイドのCM[動物園]」


Mrs. Phyllis Robinson
>>A Interview with Mrs. Phyllis Robinson ( in English )


出産と子育てに、創業時からのコピー・チーフを勤やめたロビンソン夫人が、夫と娘を出演させたCMがニューヨーク近代美術館(MoMA)に永久保存作品に選ばれた。その撮影秘話を語る。

娘の協力でできたポラロイドのCM[動物園]


chuukyuu「この数年間のうちになさった仕事のうちで、もっともお気に入りのものを2点あげてください。そして、その理由と、それを作った時のエピソードを話してください」
ロビンソン夫人「ポラロイドかしら、気に入っているものの一つは。[動物園]というタイトルのTVコマーシャルです。ニューヨーク近代美術館のフィルム・ライブラリーに収蔵されています。
私たちが作った数多いコマーシャルの中でも初期の作品です。しかし、それまで作られていたコマーシャルから脱皮した、新しくてしかも成功したものなので、自分自身、興味深く思っています。
このコマーシャルは、父親が小さな娘をセントラル・パークの動物園に連れて行き、楽しい時を過ごし、たくさんの写真を撮り、最後には馬車に揺られながら眠ってしまった娘の横で、父親が写真に見入るというものです。
私は思うのですが、どうしてみんな、自分の人生上の個人的な出来事を仕事に生かさないのかしら。その点、私たちは、自分たちの個人的な経験をフルに仕事に生かしているんですよ。
このコマーシャルを作った時、とくにそのことを強く感じました。


このコマーシャルは、ボブ・ゲイジさんといっしょに作ったのですが、出演した私の娘が、私の知らない面を見せてくれたのです。初めは、コマーシャルの主題としては感傷的すぎるように思えたのですが、主人と娘との暖かい結びつきを見ることで、結果にすっかり満足しました。そこに真実を見たような気がしたのです。暖かい味わいのあるものに仕上がったので、効果的なコマーシャルになったと思います。
私には、コピーライターの多くが、人間的な暖かみに触れることを恐れているのではないかと思われて仕方がないのです。
(もちろん、ユーモアがコマーシャルの中では大きな位置を占めているのは、確かです。印刷広告でも、同じですが、コマーシャルではとくにそうです)。
コピーライターは、微妙で純粋な人間の感情を取り入れることを極端に避けているような気がするのです。これは細心の注意をもって扱わなければならないものです」


ロバート・ゲイジ氏の名前がでたついでなので、2人のコンビについて紹介しておきます。
2人のコンビは20年間つづいているもので、すでに100点以上ものキャンペーンをつくってきました。
ロビンソン夫人が語ります。


「ボブと私は、お互いにたいへん長い間、親しく仕事をしてきたので、2人だけに通用する言葉を持つようになったほどです。どちらかが片方の眉をあげれば、口でいわれなくてもその意味は十分に理解できます。
今日では、ボブはあまりにたくさんのアカウントに従事していますから、つかまえるのがたいへんなことがよくあります。でも、2人が寄れば、ブンブンと、やにわに景気づきます」
「ボブといっしょに働くことでいちばん刺激になるのは、彼がいつも変化を求めているということです。
彼は決まって、私たちが仕上げてしまった作品には満足していません。ゲイジの典型的な言葉は『あれはもうやりあげた。何か変わったことをやろう!』です。(CA誌 1966年Vol.2)


本来なら、YouTubeでご覧に入れればいいのですが、ビデオテープに入れたCM集を6年前に講師を辞めた時、多摩美術大学の図書館へ寄贈してしまったので、コマ割り画面で提示。


動物園では象などが写っている間は音楽だけ。帰り、パーク内を走っている馬車の座席で、いまは父親に抱かれて眠っているが、1分前に撮ったばかりのポラロイドをはがすと、1分前のあくび姿が写っている(映写時間2分)。
(デジカメが登場する前、ポラロイドの製品コンセプトは、1分間写真。したがって、広告コンセプトは、手軽な1分間写真の楽しみを売ること)。

幕切れにアナウンス「人生には記録しておきたい瞬間がありますね」

日本ではスポットの時間が15秒とこまぎれになったため、せわしないだけのCMの花ざかりとなってしまった。まあ、その短い時間でも感動的なコマーシャルをつくるのがクリエイターの腕かも。

続く

from YouTube


DDBのみごとなコピーライターたちとの単独インタヴュー(既掲出分)
デビッド・ライダー氏とのインタヴュー
(1)(2) 
ロバート・レブンソン氏とのインタヴュー
(1)(2) (3)(追補)
ロン・ローゼンフェルド氏とのインタビュー
(1)(2)(3)(4)(5)(了)