創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(412)ゲイジ、ロビンソンさん、25周年を語る(3)


DDBでテレビ・プロデュース部のドン・トレバー部長から[よいCMをつくる心構え]を聞いたメモが見つからなくて、ウロ覚えの一つに、「人生の一断面 slice of life を描け」---というのがありました。きょうの会話にある、ポラロイドのCMがまさにそれですね。

ほかには、「写実が向かなかったらユーモアで行け」とか、「デモンストレイションは信じられやすい」とか、あと2つばかりあったけれど、いずれ資料庫の隅からでてきたらご紹介します。

今日の末尾で話題に出ているクラッカー・ジャックのTV-CMを1本、ネットで見つけました。ぜひ、クリックして観てくだい(邦文末)。[ユーモアで行け]の傑作サンプルです
記事は『DDB News』1974年6月号 25周年特集号より意訳)



:作品から匂う、ほっとする温かさで人びとに人間味を感じさせるんでしょ、ボブ。


ゲイジ:フィリスとぼくは、長いあいだポラロイドの広告をつくってきました。それは、人は、自分がいつくしんでいる人を撮るということを根本に置いていたんです。それが伝わる情景を設定してきました。とてもたくさんの情景を表出してきました。
でも、コマーシャルには、いろんな制約があります。時間の制約もそうです。だから人生を撮るとしても、その一断面に凝縮させるわけです(身振りをつける)。広告のメッセージをそこに埋め込みます。だから、フィリスと---それまで、だれもやったことのない場面---たとえば、それが自然であれば泣くような場面すら撮るのです。そうそう、こんな会話を交わしたこともあります。<アリア>を歌って人物が1分間泣きっぱなしというのもいいね、と。で、やりましたよ。


ロビンソン:そうそう。ボブも私も『ウエスト・サイド物語』に衝撃を受けたんだけど、ボブったら、こんなことをつぶやいたんですよ。「あそこで<アリア>を3分半も聴かされたけど、ぽくなら、1分で同じ効果をあげられるのに」だって。



:それって、ポラロイド・カメラためのCM---「動物園」でした?

ポラロイドのCM「動物園」



>>フィリス・ロビンソン夫人とのインタヴュー「娘の協力でできたポラロイドのCM」

chuukyuu注ニューヨーク近代美術館に収蔵された最初のCMである。


ロビンソン:たしか、いっとう最初のCMだったような---。


ゲイジ :そう。[動物園]と同時に、2、3本の他のCMをつづけて撮ったよね。[列車][キャンプ][結婚式]---[結婚式]はすごい出来になったね。あのとき、予想以上のことが起きて---<愛情>をみごとに表現した---すごく好きなものの1本になった。

[列車]の雑誌広告版



この写真は、ポラロイド・ランド・カメラで10秒で仕上がりました。とり直しのいらない写真です。こういうシーンは撮れなくても、ポラロイド・ランド・カメラをお持ちなら、撮るチャンスにうんと恵まれます。このカメラがすごく優秀な先生だからです。10秒写真を1枚撮るごとに、あなたはよりすばらしい写真家になるのに有用な勉強をしているのです。今ポラロイド・ランド・カメラをお求めになれば、この安芸には、もつとうまくご家族の写真が撮れるようになりますよ。そして初春までには、同じカメラでカラー写真もお撮りになれることでしょう。


ふり返ってみると、人生の一断面を切り取ってエモーションを抑さえ気味に仕上げればいいコマーシャル---感動的な作品になるんだよね。自分にはない暴力とか怒りとかほかのどんなものからでも笑いがとれれば---笑わせたそのすぐあとで泣かせられれば、最高です。まあ、それができるのは偉大なコメティアンだけとしてもね。


:お聞きしていて、お仕事には、作り手の人柄が反映するんだなって思いました。 つくづく、そう、感じました。


ロビンソン:そうよね。ボブと私は、人柄の反映物の一つである温かさって、拒否すべきものではないって思っているんです。その表出を恥ずかしいとも思うべきではないの。エモーション(情感)を利用することを、拒否する民族もあるけど、人間感情の一つですからねえ、取り去ったらギスギスしたものになるでしょ。私たちは恐れずに使ってきました。


:あなたが推進役だったんですね。


ロビンソン:あら、ボブだって当然のように容け入れたわよ。


ゲイジ :最高のレンチ(締め具)はね、人生を1分間に凝縮するってことです。いまでは30秒の短さになってきつつありますがね。
いや、次には30秒以下ってことになんるでしょうね。ぼくたちは、2,3のCMですでにやってはいますが。ただ、その秒数のCMで、受け手にちゃんと伝わったかどうかはまだわかっていませんけれど。ぼくとしては、温かいエモーショナルな訴えで、うまくいくだろうとは思っていますがね、ともかく、冷たいよりはいい。
涙でなくユーモアで届けるやり方もあります。スナック菓子のクラッカー・ジャックで、温かいビートで試みて成功しました。十分に楽しませながら、製品へのイメーシを親しいものに創りあげていきました。



(クリック) クラッカージャック傑作CM
http://www.youtube.com/watch?v=o4t3WnOYe-Y


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