創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(28) ロン・ローゼンフェルド氏のインタヴュー(2)

ロンの現夫人とは、パーカー夫妻が催してくれたホーム・パーティで会いました。
ちなみに、夫人はかつてDDBでコピーライターだった女性で、ジャマイカでデートしていた時は別の代理店(サドラー&ヘネシー社)へ移っていたそうです。


1968年秋に再会したとき、ロンの4人の子どもたちのためにブルックリン地区に家を建てたと言ったあと、「まだ片付かないけど、いつか、ぜひ、来てください」と誘ってくれました。
もっとも、そのころは、ジャマイカ観光委員会は、ロンの手を離れて、ロール・パーカー夫人のチームへ移されており、担当のコピーライターの部屋の本棚には、ジャマイカに関する本が並んでいたのを覚えています。
パーカー夫人が「彼女もロンに負けないようにやっているんだけど、ロンの名文には、とてもかなわないわね」と苦笑しながら、説明してくれました。


米国のある広告評論家も、ジャマイカのシリーズ広告を評して「今日の広告の世界において、もっともすぐれた文章は、たぶん、ジャマイカのそれであろう」「よく練られており、市場の願望を非常に鋭く反映している」と。
さらに言葉を足して「非常にすばらしいフォーマットを用いている。ジャマイカというどでかいロゴが誌面の上部に置かれている。これは単に<ブランド>の明記であるばかりでなく、アートディレクターのボブ・ゲイジのレイアウトに、ドラマチックな衝撃力を加える」と。
もっとも、ジャマイカというロゴの扱いは、観光先を示す広告だから可能ともいえます。これが製品ブランドだったら、その声高の厚かましさに、見手は辟易、反感を持つかもしれません。


ところで、ロンと現夫人とのデートの食事代とは無関係に、数字を示すと、ジャマイカ観光委員会がクライアントとしてDDBに来たのは1963年。
シリーズ広告が本格的にはじまったのは1964年。
1964年には、対前年比で39.6%増しの観光客が訪ね、その年、観光業界で最高の伸びを示したのです。
1966年には38万5,000人の米国人客の誘致を予定し、フランスや英国のそれが50万人前後であるのに比べても、あの小さな島国にしては、とてつもなく大きな目標数字です。


私は、観光広告に対して、一つの見解を持っています。
団体での旅行に依存する場合は、既定のコースからはずれた個人の探索欲をみたすだけの対象を取り上げてはいけない…そんなことを薦めると、そこの市民のプライベートな生活が迷惑をこうむる。
そういう個人の探索欲をそそるような対象の観光広告は、プライベートな一人旅ができるようになった、観光馴れした人たちだけに薦めるべきである…というのです。
ロンが、一般観光客が行かないようなところも政府の担当者に案内してもらったといっているのは、『ニューヨーカー』誌とか『ナショナル・ジオグラフィック』誌のように、定期読者にスマートな旅行者が多い雑誌向けの広告ソースとしてでしょう。


chuukyuu「ジャマイカの広告は、たいへん名文だといわれています。サム・カッツ(DDBのコピーライターで、その後、恋人のスウェーデン女性と一緒に暮らすために退職。ストックホルムの広告代理店で働いている)も、そう言ってました」


ロン「サムはぼくのチームにいたからね。そのころは、週末になるとスウェーデンのフィアンセのところへ飛び、火曜日の朝にでてきていたよ」


chuukyuu「ジャマイカへ取材に行ったのは?」


ロン「ボブ・ゲイジ、写真家のアーウィッツとでは3回。私一人で1回」


chuukyuu 「ジャマイカの広告(注:>>[6分間の道草](27))の、あの魅力的な女性を見つけたのは?」


ロン「マーケットを歩いている時、ボブが偶然にスカウトしたんです」


>>(3)へ続く


ちょいと勇気をふるって、200メートルの滝を
ジャマイカのターザンと登ってみませんか。
「お孫さんへの武勇伝になりますよ」


郷に入れば郷に従え、ですよ。燃えるように赤い花を折って髪に挿しませんか。それから、サロンかそれに最も近いものをお巻きなさい(男性は腰巻をお持ちください)。そして、涼しく楽しいダンの滝へ降りて行きましょう。
ビンセントがお連れしますよ。頂上からはちょっとこわいかも知れませんが、ご安心を。ビンセントは滝歩きのベテランです。いままでに一人の怪我人もだしたことがないのです。
本滝のいちばん底へ着いたら、あなたは海岸に出ているのでびっくりなさいますよ。人里離れた、美しいところです。さりとて、あなただけがそこにいらっしゃるというわけにはいきません。ジャマイカ人の家族の幾組かが、いつもここでカリビア海に飛びこんたりしています(これらの優雅なジャマイカたちは、生き方というものを知っているのです。彼らは観光客と同じように、美しい世界を楽しんでいます。そして、その世界を熱愛するすばらしい外国人たちとともに楽しむことを嫌だとはほんのすこしも思ってはいません)。
ジャングル生活をおつづけになると、10センチものバビリオ蝶を、あなたはファーン・ガレイのそばで追いかけることになるでしょう(ここは熱帯植物ガレースのように生い茂っていて、太陽が大地にとどかないほどです)。
あるいは、人跡未踏の奥地深く探検に行ってごらんなさい。地図にも載っていないところ、植民地の逃亡者もすまなかったところです。それとも、海岸をドライブしてワニを撃つのもいいですね(島唯一の野生動物です)。
それからリオ・グランデに登り、竹のバナナ・ボートに乗って動物狩りを楽しんだり、急流下りを満喫しませんか?
太陽が西にゆっくりと沈むころ、そしてその日のジャングルの叙事詩を心ゆくまで味わったころには、あなたはジャマイカの高度に文明施設のととのったホテルへお戻りになるのです。ホテルでは<ジャングル人>よりも<文明人>としての最高の夜をお楽しみいただけるようになっています。


Be a little daring,
Climb down a 600-foot waterfall
with the Jamaican Tarzan.
(You'll have something be tell
your grandchildren.)


Do something corny. Break off a scarlet flame tree blossom for your hair. And wind into a sarong or the closest you can come to one.(Men, bring your loincloth.) Then, splash your way down cool, musical Dunn's River Fall, with Vincent in the lead. From the heights, it looks scary. But relax. Vincent is a professional waterfall walker−−and he hasn't lost a climber yet. When you reach the base of the falls, you'll find yourself standing, surprisingly, on a beach. Remote and lovely. You won't have it all to yourself, though. There's always a family or two of Jamaicans splashing in the Caribbean here. (They know how to live, there beautiful Jamaicans. They enjoy their delightful world as much as visitors do. And they don't mind sharing it with other nice people who have a passion for it.)
To continue your jungle life, you might chase after a six-inch Papilio butterfly through nearby Fern Gulley (so laced with tropical greenery, the sun barely touches the ground). The Land of Look Behind.
Strange, largely unmapped. And inhabited by descendants of plantation runaways. Or drive to the south coast, to shoot alligators (the only wild beasts on the island). Or, to the Rio Grande, for tamer sport, to shoot rapids---on a bamboo banana raft.
When the sun sinks slowly in the west, and you've had enough of this jungle epic for the day, head for one of Jamaica's highly civilized hotels. Any of them can provide you with an evening that will be more
man-of-the-world than man-of-the-jangle.


DDBのみごとなコピーライターたちとの単独インタヴュー(既掲出分)


デビッド・ライダー氏とのインタヴュー
(1) (2)

ロバート・レブンソン氏とのインタヴュー
(1) (2) (3) (追補)

ロン・ローゼンフェルド氏とのインタビュー
(1) (2) (3) (4) (5) (了)

フィリス・ロビンソン夫人とのインタヴュー
(1) (2) (3) (4) (5) (6)

ジョン・ノブル氏とのインタヴュー
(1) (2) (3) (4) (了)