創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(24)「あまりにも無秩序な」(3)

              副社長アート・スーパイザー ビル・トウビン


<<「あまりにも無秩序な」(1)


大西洋の写真を破って、飛行時間の短縮を告げ、人びとに強烈な印象を残したELALイスラエル航空の広告から4年がすぎたころ、ELALの20倍以上の広告予算をもっているアメリカン航空が39番目のアカウントとして1961年に入ってきました。
そのころには、トウビン氏は、ELALを若くて才能豊かなアートディレクターであるバート・スタインハウザーにまかせて、次々にやってくる新しいアカウントを担当していました。


>>DDBのアートディレクター---バート・スタインハウザー



アメリカン航空では、おぴただしい量の反復業務をやっています。


空の族をよくなさる方は、たいていアメリカン航空をお選びになります。スチュワーデスが美人で、食事事がおいしいからというだけではありません。
アメリカン航空は信頼できるというのが、大きな理由です。たとえば:
アメリカン航空の新威力アストロジェット機(最初のファン・ジェット・エンジソつき)は、在来のジェット横より巡航速度が速いのです。より静かに飛びます。定時到着厳守のための余力がたっぷりあります。
DME(距粧測定装鑑)を完備したジェット機陣を擁しているのは、アメリカン航空だけです。これは(レーダー以上)の空路誘導のもっとも価値のある進歩です。
当社のバイロットたちは、世界中のどのバイロットのグルーブ上りも多くのお客さまを運んできました。700万マイルの飛行記録保持者なんてザラにいます。
当社の飛行機は、最大級の地上整備工場で、最高のコンデイションを保つよう整備されています。
3,000人以上の熟練杭空整備士が、当社の全機の各部分を定期的に点検しています。
旅なれた旅行者は、当社の整備がお好きで、しかも、当社の細心なやり方がお好きです。次の機会にも、アメリカン航空をご利用ください。


トウビン氏からELALイスラエル航空を引き継いだバート・スタインハウザー氏の次には、ユーモア感覚が鋭いシド・マイヤーズ氏がアートディレクターとして腕を振るった。


>>シド・マイヤーズ『ニューヨークのアートディレクターたち』より


座席についておりますベルトをお締めください。ベルトをゆるめておくつろぎになつて---雑誌ですか? 枕? コートをお調べになりました? 乗り心地はいかがてしょう? いいえ、奥様--- ELALの意味は「大空へ」でございます。ただボタンを押していただけば---のぶをひっばって--- ベルトをお締めください。-------シャロム。テルアビブからずっと歩いてきたって感じ。

「あまりにも無秩序な」(3)


このアート=コピー・セッションは、必要な手段だが、正式に開かれるものではありません。2人の合意のもとにおこなわれるものです。
ブレーン・ストーミングとは違います。グループ式討論とも似ていません。高度にクリエイティブな人間が2人いるだけ---それがアートディレクターとコピーライターで、2人が静かに働くだけなのです。


2人のこれまでの功績とは無関係に、豊富なアイデアがほとばしり出るというものでもありません。かかえている課題をめぐってアイデアのやりとりが進行するだけです。思いつきを検討したり、評価もしたり、つくり変えてみたり---。
終結果は、セールスあるいはサービスの課題を助ける広告のアイデアに到達することです。
そのアイデアが、アカウント・スーパパイザーの了解をとったあとで、コピーライターはコピーに仕上げ、アートディレクターはきちんとレイアウトし、写真について考えはじめるのです。
写真を選ぶにあたって、われわれはふつうアーティーな写真は避けるようにしています。それが広告の受け手のレベルから見て行過ぎだったり、関心を持たれないものだと感じるからです。
またわれわれは、いわゆる流行りを見習ってみたりもしません。もちろん、そのことを避けるためにわれわれの課題からそれることもしません。
課題の核心に触れないようなギミック(目くらまし、擬態)をこそ、避けるのです。ロバート・ゲイジがこう言っています---われわれが逆立ちの男を使うことがあったとしたら、それは小銭が絶対に落ちないポケットつきのズボンを売るときだけだろう、と。
DDBが写真を選ぶ基準は、アート=コピー・セッションで発展した広告のコンセプトが、いかに強調されているかという点においてです。


この点については、最近のELALイスラエル航空オーバックス百貨店の広告を見ていただきたい。
それぞれのキャンペーンにおいて、写真、アート、レイアウト処理は一つ一つその広告すべき課題のための特別注文品です。
これだけ多様だと、キャンペーンというより、シリーズと呼んだほうが適当かもしれませんね。


(了)