創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(530)「葉巻はいかが?」でグランプリを採りました。

『DDBニュース』 1969年8月号より


カンヌ国際映画祭でテレビ・コマーシャル部門のグラン・プリを与えるとき、審査委員たちはこう言うのがいつものことである----「私たちの見解だが、これこそ世界最高のコマーシャル」

2年前にDDBは、バーリントン靴下の「ダンス」で、この催し14年目にしてはじめてグラン・プリを勝ちとった。


TV CF for Burlington Mid-Length Socks


今年、カンヌでは、グラン・プリが再びDDBの、全米脳性小児麻痺基金のために創られた「葉巻はいかが?」というタイトルの、とても淡々と訴える公共広告のコマーシャルに授与された。

クリエイティブ・チームは以下の通り。



左から担当プロデューサーのフィル・ウースター、C/W ジャック・ディロン、 A/D デイヴ・ラーソン。


彼らは受賞したにもかかわらず、きわめて謙虚である。


「公共広告コマーシャルの評価は、寄付金となって累積されるのです」と、ジャックは言います。
「実が挙がんなきゃあ、ね」とデイヴ。 「興奮や感傷を演出してみせる必要はないんです。寄付金の合計額がすべて----」


「そう、事態を明確に話すこと」とジャックが付け加える。「公共広告で感情的な衝撃を創りだすのは製品コマーシャルよりもむずかしい」


そうは言っても、公共広告キャンペーンの制作に志願する多くのクリエイティターたちは、委員会側のあいかわらずの言い分にしたがってしまうために、もてる創造性を十分に発揮させているとはいいがたい。


「全米脳性小児麻痺委員会には、そういう問題はなかった」とジャックは肩をすくめた。 「ネッド・ドイルとともに私たちがストーリー・ボードを見せたとき「一人の委員が重箱の隅をつつき始めたが、ネッドはすぐにその委員を説得してしまった」


「葉巻はいかが?」は、チームの最初のコマーシャルだったのか?


ジャックとデイヴは、ブリーフィングを受け、するべきことは2つと決めた。
1) 過去のキャンペーンが、脳性小児麻痺という事態の事実を包んでいるセロファンは取り外すこと。そうすれば、
2)脳性小児麻痺の事実が明らかになり、寄付金をより多く集める方法が見つけられるはず。


「私たちは確信していた」たとジャック。「私たちがそうであったように、多くの人々は、 脳性小児麻痺というものを、多発性硬化症筋ジストロフィといっしょくたに考えている」
脳性小児麻痺とそうでないものとの区別をはっきりさせる必要があった。さらには、同じように同情心に訴えて寄付を求めている競争相手とは違うのだということを訴え必要があった。


「DDB以前のキャンペーンは、《幸福は援助の手から》というスローガンを掲げていた。松葉杖の子供のビジュアルに、回復しつつあると---。つまり、あなたの寄付でこれらの子供たちが助けられたと言っているにすぎないものであった。私たちの感じた---このアプローチが問題をセロファンに包んではぐらかせている---そのセロファンを取り去って、問題をじかに手ざわりしてもらおう」


public TV-CM のYouTube
YouTube


産院病棟で公衆電話をかける男A「おかあさん、生まれたよ。
五体満足、バカでもないし気狂いでもない。
だけど---普通じゃないんだ。どっかがおかしいんだ。
脳に障害があるんだ---その、ある部分が---脳性小児麻痺っていわれたよ。
訓練すればよくなるかも知れないが---、
誰も悪いんじゃないよ。
誰のせいでもないんだ。
きょうはヘレンに会わないほうがいいと思うよ。
それがいちばんいいんだ、いまは---」
電話を終えると、ボックスの前で次を待っている男Bに、
「男の子が生まれたんです」
と、胸ポケットに用意していた葉巻を、
「葉巻はいかが」
とすすめる。
電話ボックス内の声が聞こえなかった男Bは「おめでとう」とばかりに受け取る。
男は、足早に産院の出口でシガレットに火をつける。

アナ「みんなで力を合わせて助けてあげましょう。脳性小児麻痺協会があなたからの寄付をお待ちしています」

このあとに寄付金送付先のクレジット・フィルムがつづく。

chuukyuu注:】欧米では、子どもが生まれると葉巻を配る習慣がある。
初めて父親になる若い父親も、葉巻を用意して産院で誕生を待っていた。無事、誕生---が---、悲痛さを隠して葉巻をすすめる。
自分は吸う気分にはなれない。

「実をいうと、このコマーシャルには、誇張があります」 ジャックとデイヴは説明した。 「誕生したばかりの赤ん坊が脳性小児麻痺かどうかは、分からないのです、1年後のその瞬間を、1年早く設定したのです」しかしそれで、このコマーシャルは感動的な出来栄えになった。

ジャック・ディロン氏とのインタビュー
(1234567了)

J.ディロン氏のもう一つの自選作品



われわれが広告代理店を変えるなんていうのは、
根も葉もない噂でしかない。

われわれは、やっと、信頼できる代理店に
めぐりあったばかりなんだ。

アメリカン航空


氏の自選の弁


このコピー---ある問題の最も良い解決法の一つであるように思ったので、自分が好きな広告としてこれを選びました。
数年前、『ニューヨーク広告界ニュース』紙が、主要広告代理店のいくつかが、アメリカン航空のアカウントを獲得するために大プレゼンテーションの準備をしているとの記事を第一面を載せました。
アメリカン航空は、この記事によって当惑し、同紙に、アメリカン航空は、DDBに満足しているといてった意味の広告を出したいと依頼し、代理店を変える意志は全く持っていないと断言しました。
これは気はずかしい課題でした。
あなたは、どのように自分に関して書いて、あなたのクライアントの名前にそれ調印しますか?
(また、あなたは他の広告代理店にDDBを特別扱いしていること示す機会があったらどうしますか?)
これは私たちがした広告です。
私は、これが掲載された日に、大ショックがマジソン街を走ったと聞きました。


A/D マーヴィン・ファイアマン