創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(575)そして、「世界受賞作品賞」も---

『DDBニュース』1969年12月号の片隅に、「そして、[世界の受賞作品賞]も」と題した、小さなコラムが、つつましく掲載されていました。[世界受賞作品賞]なんて、初めて目にする賞です。日本ではいまだかって紹介されたことがないのでは?


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DDBが創った、例の脳性小児麻痺の「葉巻はいかが?」に最も最近与えられたのは、アイルランドのコーク市で毎年開催されている映画祭での[世界受賞作品 '69年賞]である。この賞は、その年に世界中で大きな賞を受けた作品の中から、最優秀の作品を選ぶきまりになっている(つまり、その年の世界最高ってわけだ)。

public TV-CM のYouTube


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産院病棟で公衆電話をかける男A「おかあさん、生まれたよ。
五体満足、バカでもないし気狂いでもない。
だけど---普通じゃないんだ。どっかがおかしいんだ。
脳に障害があるんだ---その、ある部分が---脳性小児麻痺っていわれたよ。
訓練すればよくなるかも知れないが---、
誰も悪いんじゃないよ。
誰のせいでもないんだ。
きょうはヘレンに会わないほうがいいと思うよ。
それがいちばんいいんだ、いまは---」
電話を終えると、ボックスの前で次を待っている男Bに、
「男の子が生まれたんです」
と、胸ポケットに用意していた葉巻を、
「葉巻はいかが」
とすすめる。
電話ボックス内の声が聞こえなかった男Bは「おめでとう」とばかりに受け取る。
男は、足早に産院の出口でシガレットに火をつける。


アナ「みんなで力を合わせて助けてあげましょう。脳性小児麻痺協会があなたからの寄付をお待ちしています」


このあとに寄付金送付先のクレジット・フィルムがつづく。


chuukyuu注:】欧米では、子どもが生まれると葉巻を配る習慣がある。
初めて父親になる若い父親も、葉巻を用意して産院で誕生を待っていた。無事、誕生---が---、悲痛さを隠して葉巻をすすめる。
自分は吸う気分にはなれない。


この[葉巻はいかが?]は、カンヌの映画祭のテレビ・コマーシャルの部でグランプリを受賞しているから、とうぜん、コークの映画祭にノミネートされたわけ。
(カンヌでの受賞の『DDBニュース』の記事は↓)
Have a Cigar, We Won the Grand Prixクリック


英国の業界誌『Campaign』は、9月のCork Festivalについての記事で、
「[Worldwinner '69年]賞は、カンヌでグランプリを獲った脳性小児麻痺の感動的なコマーシャルに与えられた」「DDBが創ったこのコマーシャルは、すべての国際的なフェスティバルで聴衆に大きな感動をもたらし、審査員の選択には拍手が鳴りやまなかった」
コマーシャルのクリエイティブ・チームは、C/Wがジャック・ディロン、A/Dはデイブ・ラーソン、プロデューサーはフィル・ウースター。


このコマーシャルは、セリフが理解できないと感動が伝わらないが、世界各国の審査員たちは英語に通じていたのでしょうね。
日本では、訳をつけても感動のコメントをつけてくれない。