創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(491)ロッサー・リーブス、広告の不変の原則(8)

資料庫に入りました。「ありました!」 ロッサー・リーブス著『宣伝術』(箕浦弘二訳 新潮社 1963.11.20 390円)原題 "Reality in Advertising 1961" 箕浦氏訳「宣伝広告の真相」。電通が社内資料として試訳したときは「広告における真実」。元原稿は1960年にテッド・ベイツ社の社内で配布されたらしいです。道理で、1959年8月からはじまったフォルクスワーゲンかぶと虫のキャンペーンの成功については、270余ぺージ中、1語もふれていません。もっとも、リーブス氏の自慢は、パーケージ・グッズについてのものですから、クルマや航空会社についてはノー・コメントなんでしょう。
帯の文章(表側のみ)を写してみます。「全国的選挙戦に初めて、一回わずか20秒のスポット放送を活用、アイク当選の決定的勝機を掴んだ男。コルゲート・パーモリーブのアメリカ制覇と日本上陸作戦を指揮した男。フィルター付タバコ売込みの参謀長……現代の大戦略家リーブスが自由競争の決定的戦略を説く1冊の本」
このころ、日本の広告人は、リーブス氏はスパルタ、バーンバックさんはアテネ……なんて知らなかったのです。




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 ごぞんじでしょう。



リーブス
 それなら、あなたの質問の答えは、もう出ていませんか。


 そうです。
しかし、失礼ながら、あなたはここで顕著なことを一つ見逃かしてます。
それは、見て楽しいことをかく必要はないけれど、それでは売れないということです。
洗濯機から腕がでてくるあのコマーシャルヘの批評は、そのことにあると思います。
見て楽しくないのです。
見て楽しく、しかも売れるものをかくこともできると思います。


リーブス あなたが、なにを楽しいと考えていらっしやるのか、私にはわかりません。
それは、きわめて主観的なことがらです。
ダビッド・オグルビーが、はじめて薬の広告を扱ったときのことを、おぼえています。
彼は、有名なギリシャの彫像を使いました。
そのことを、あなたの雑誌は年中、いままでの広告の中でもっとも異議のある、ひどい広告だといっていました。
私は、ダヴッドに手紙をやりました。
「あなたは、いま、製薬業をなさっています。あなたが『正しく』やろうとしたら、『アド・エイジ』誌や『マジソソ・アペニュー』誌、あるいは「プリソターズ・イソク」誌とうまくいかないでしょう。もし、『正しくなく』やれば、仕事を失うでしょう」。

ダヴッドは返事をよこしました。
「わかりきったことですよ」とね。

私たちは、25年のあいだ、ある製薬会社の広告について、あらゆる実験(コピー)を試みました。
映写室に、いますぐご案内しましょう。
そして、コマーシャルをお見せしましょう。
あなたが、美学的にどんな定義をし、「見て楽しい」とはなにを意味するのか知りませんが……。

ともかく、ひじょうにチャーミングで、楽しい作品を、20点(一つの製品の)見せましょう。
しかし、それは失敗作だったのです。
あなたがメーカーだったら、どんな広告をつくるでしょうかね。
広告のゼミナールをひらくのは、広告人だけです。
大衆は、ゼミナールをひらかない。
審査もしません。
大衆は、行動するか、しないか、です。
私の広告が大衆を行動させ、あなたの考えている楽しい広告が大衆を行動させなかったとしましょう。
そこで、あらためて、私は、あなたがほんとうに楽しいと思ったかどうかを聞きましょう。

 さあ、私は……


リーブス 悪趣味のものや、みにくい広告は、好きじゃない。
しかし、アイデアを伝える広告は、ときにマジソン・アペニューの他の連中が探しているのではないかもしれません。
テレビを見ている人の目の前に、二つのコブシを差しだしても、これはとくに美しいものではありません。
「どちらの手にM&Mチョコレートが入っているか?」
ときかれても、例のバスのポスターにあったスエーデソ娘のように美しくはありません。


 私は、作品の批評家として、ここへきたのではありません。
しかし、チャーミングでウィットに富んだ、暖かいコピーでは売れない、と考えていらっしやるように思えるので、いくぶん驚いているのです。


リーブス いや、チャーミングで、ウィットのあるコピーでは売れないといっているのではありません。
たくさんの、そのようなJピーが売れなかった、といっているのです。(一息入れる

私は前に、コピーの効果と商品の売上げを相互に関連させるのはきわめてむずかしい、といいました。

自動車のばあいなど、とくにそうです。
しかし、ぴったりと相互関係をもつ分野が一つあります。薬です。


 認定規準に従った薬ですか。
それとも特許売薬ですか?


リーブス 後者のばあいです。
これには、セールスマソはいりません。
「ライフ」誌で見てみましょう。(リーブス氏は、「ライフ誌」を取りあげ、Iクセドリソの載っているペ
ージをひらいた

エクセドリソという、ブリストル・マイヤーズ社の製品の広告は、よい例です。
楽しい広告だと思いますか? ビンを手でもっているところだが……。


 楽しいと思いません。だが、異議をとなえようとも思いません。


リーブス ウィットに富んでいますか? 
チャーミングですか? 
読んでみましょう。「3,100万人以上のかたが、新しいエクセドリソを、超強力痛み止めだと認めてきました。
錠剤中の錠剤。頭痛止めには、アスピリンよりも50%も強い」。


 いやだとも思わないし、ひじょうによいとも思いません。


リーブス 私は、よいと思う。なぜなら、私は、この製品の競争相手の広告をかいているし、過去2年間、エクセドリソはこの広告で、頭痛剤シェアの7%を占めてきたのを見ているからです。
あなたはとくによいとは思っていないようだけれど、頭痛がする2億人の米国人のうち、ほとんどがよいと思うらしく、このうちの7%が、いまはエクセドリソを飲んでいるのです。
これこそ、ゲームというものだ、と思います。


 頭痛がしてきました(笑い)。
が、まじめな話、私はここへ批評家しとしてきたのではありません。(訳:岡田耕


明日に、つづく。