創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(429)マンガーノ氏、新任アソシエイト・クリエイティブ・ディレクターに(上)

「なぜ、38年も40年も前の米国の広告を、1円のお金にもならないのに、貴重な余生を注ぎ込んで、やってんの?」
痛烈! 答えに窮するようなことを、若いクリエイターに訊かれました。
彼女は、さらに言いたかったとおもいます。「DDBに勤めたこともないくせに---」
「温古知新」なんてことを持ち出すと、余計に軽蔑されるんだろうなあ。
こう言えば、彼女もわかってくれるかしら。「いま、ブログにあげているDDBやそれに同調したクリエイターたちの記録は、放っておくと、広告の歴史の[ゴミの島]に埋まってしまうんだ。ぼくが逝ったら、それらが存在したことすら、誰も気づかないんだよ。だから、ネットにあげて記録しておくのさ」


「監督のしすぎだなんて感じられないのが、なにより」




          DDBの新先任副社長 アソシエイト・クリエイト・ディレクター  
                              マイク・マンガーノ


ブルックリンのセント・ジョンズ大学では英語と生物学をとりながら、ライターか医師の両天秤をかけていた。
「でもね、医師になるだけの資力がなかったんで、ライターへの道を選びました」
それが正解だった。


去年の秋、36歳で、DDBのアソシエイト・クリエイティブ・ディレクターに指名されたんだから。業務を支えてくれるように指名したのは、クリエイティブ・ディレクターのマーヴィン・ホーニグ。
マーヴが出張していたり、手いっぱいだったときに、すぐに代行するということで。ところが、任命されたすぐのころ、マイクを取材したら「いや、適当にってとこ。職務分担がはっきりしてない感じ」


でも、肩書きに「スーパバイズ(監督)」ってのがついているんだから「クリエイティブな局面でのかかわり方について話しあいました」


「でね、監督のしすぎだなんて感じられないのが、なにより---ってことに落ち着きました」とマイク。「自分のやり方を押しつけないってこととでも言えばいいかな」


「もっとも、作品そのものにか、アカウント部からの指示に問題があれば、どこが問題なのかを徹底的に話しあい、お互いが納得するまで部屋から出ないくらいの意気込みでやるのです」

マイクは、魔法は、スーパバイジングにあるのではなく、クリエイター自身の中にあると信じている。「スーパバイザーとして助言はできるけれど、魔法そのものを産みだすのはクリエイター自身なのです」


>>(下)に、つづく



これが、35.7km/ℓのフォルクスワーゲン


すべての車メーカーが燃費テストをやっているご時勢なので、フォルクスワーゲンでもひとつやってみることにしました。
まずはボディを修正---そしてエンジンも。
その上、ちょっとズルやって、体重が特別軽い人物に運転させました。
あら不思議、1リッターで35.7kmも走りました。
馬鹿馬鹿しい? こんなものを運転する人がいるものか? そのとおりです。
公表されたほとんどのテスト並みに運転できる人などいやしないのです。
フォルクスワーゲン:正真正銘リッターあたり10.6km。

art director;Charlie Piccirillo
copywriter:Mike Mangano

TV-CM 30秒



art director;Charlie Piccirillo
copywriter:Mike Mangano


狩りには、機敏で、悪賢く、精妙で
狡猾なアウディ・フォックスが一番

フォックスはなにしろ敏捷(0から50へあがのに10秒)。
健脚(前輪駆動)。
逃げ足も、悪賢くって、狡猾(セダンなのに、ス−ポーツカー・タイプのステアリングとサスペンションを装備)。
急停止もお手のもの(特別設計のブレーキとステアリング・システム)。
食欲もたいしたことなし(ガロンあたり23マイル)。
なによりなのは、3400ドルで、フォックスが手にはいるってこと。


art director:Helmut Krone
copywriter:Mike Mangano


あなたの奥方がお求めになりたい
アウディ・フォックス・シルバー
は、これ。


私たちの艶々してて、スポーティなフォックスは女性を魅きたてます。
柔らかくて計算しつくされた室内は5人まで坐れます。 しかも、外観がすばらしく整っており、乗り降り、出し入れがスマートにこなせます。 食欲? 1ガロンあたり25マイル。
そして、最もすてきなのは、私たちのフォックスは、ミンク以下のお値段だっていうことでしょうかね。


art director:Helmut Krone
copywriter:Mike Mangano


このシリーズについて、アートディレクターのヘルムート・クローン氏の自賛のコメントが『DDB NEWS』(1974 June issue)に。


うんと以前のものは別として、ぼくの現在のお気に入りは「銀ギツネ」です。 (マイク・マンガーノはコピーを担当)。
この広告がとてつもなく好きな理由は、合理的であるというより感情的であり、私のために転機を示していてくれるからです。
齢をとってくると、消費者の心臓へ直接に働きかける広告をつくりたくなるものです。消費者の頭脳にではなくって---。




>>(下)に、つづく