(489)パーカー夫人のスピーチ(3)
1960年から80年にかけての20年間におよぶぼくのDDB取材は、この人がいらっしゃったからつづけられたのだと、いま、つくづく、幸運をかみしめています。
先日のブログにも書きましたが、DDBのクリエイターたちをごっそりと招いての大ホーム・パーティを2度ももよおしてくださったり、あまり快くなかった元上司のメリー・ウェルズ女史への紹介の労をとり、アップ・ステイツのTVCM撮影現場まで連れていってくださったり、いたれりつくせり、実の叔母でもやってくれそうもないほどの心づくしでありました。
それで、DDB取材がつづけられたようなものてす。
TV−CMもDDB制作のをずいぶん持ち帰らせてくださいました。棹尾に置いた、パーカー夫人が志願したという公共広告---対がん協会の[乳がん早期発見]のためのCMもその一つです。
DDBのクリエイティビティの秘密(3)
講演者:ローリー・パーカー夫人
DDB 副社長兼 コピー・スーパバイザー(1966年当時)
アートディレクターとコピーライターの関係
さて、アートディレクターとコピーライターは、ちょうど2個のスポンジのように資料をじゅうぶんに吸収した上で、ひざをつき合わせてクリエティブ活動に専念します。
これはほとんどは、アートディレクターの個室で行ないます。
アートディレクターが、コピーライターと話しあいながらザラ紙の上にラフ・スケッチを描きつけることができるからです。
広告代理店の中には、コピーライターが自分で広告を書き上げ、コピーに、コピーライターの考えたラフ・スケッチを添付して、アートディレクターのもとに送りとどけるというシステムを取っているところもありますが、そのようなやり方はしません。
また、アートディレクターのほうで美しい写真を準備して、その下に「ヘッドラインの位置はここ」と、コピーライターに指定するところもありますが、それとも違っています。
DDBでは、2人がパートナーとして、いっしょに働いています。
作業は、2人の会話だけで、それ以外は何もありません。
商品について話し合うだけです。
広告のもって行き方を研究します。
コピーライターのほうからビジュアル面のアイデアを出すこともありますし、またその逆もあります。心に浮ぶアイデアを、編集しないで、ありのまま持ち出します。
パートナーの一人が 「そのアイデアはよくないと思う。その理由は云々----」とか言うこともありますし、場合によっては「陳腐なアイデアだ」とさえ言うこともあります。
しかし、ときによると、「そいつはおもしろい。それを使うと、きっとこうこうなる・・・」
こうなると、しめたもの、こうやってキャンぺ-ンの骨子ができ上っていくのです。
これは、ちょうど、ピンポンみたいなもので、球をサーブし、一方が打ち返し、相手が打ち返すのと似ています。
違いは、我々の場合は、相手が球を落さないよう気をつけるだけです。
自分のアイデアが相手のもとに行き、打ち返す毎に、だんだん形をととのえてよくなって来るのは、たいへんな喜びです。
アイデアのピンポン球が打ち返えされていれば、キャンペーンができ上って長時間にわたってきます。
そして、自分と相手の両方がゲームの勝利を納めることになるのです。
あるキャンペーンができ上ってしまうと、チームのどちら側が最初のアイデアを思いついたか思い出すことがなかなかできません。
そのようなことはどうでもよいのです。
DDBで「私の考えたキャンペーン」と言うのは、重い罪悪です。
DDBでは必ず「われわれのキャンペーン」です。称讃のコトバも、みんなで分ち合うと同じに、非難も分ち合います。
私がDDBに入社して以来、ビル・バーンバックが「君たちのうち、どちらがこのアイデアを出したのだね」と質問したのをただの1回も耳にしたことはありません。
バーンバックのOKをとるまで
DDBへの訪問者の中には、私たちの仕事ぶりを見るために、アートとコピーのやりとりに腰をすえて見学される方があります。
腰をおろして、すばらしいアイデアがひらめく「不思議な瞬間」がいつくるか、お待ちになるというわけです。
しかし、少々失望することになります。多分、
こういった人たちが期待しているのは、私たちが夢うつつの状態で静かに坐りつづけ、突然、頭の上のランプがつき、ベルがなり出すという状態ではないでしょうか。
見学者が目にするのは、程度の高い会話をしているたった2人の人間です。
キャンぺーン・アイデアというものは、静かに序々に形づくられてきます。運がよければ。2〜3時間ででき上るかもしれません。
が、たいていは数日、数週間、ときには数ヶ月もかかります。
また、人が違えば、仕事のスタイルも違います。
アートディレクターのビル・トウビンは、一晩で難問を解決するのを得意にしていますし、有名なヘルムート・クローン(アートでイレクター)はキャンペーンひとつを6ヶ月もかかって、たんせいこめて完全な形に仕上げます。
キャンペーンが誕生しますと、コピーライターの上司とアートディレクターの上司、両者の承認を得なければなりません。
担当者がスーパーバイザー自身である場合には、このステップはいうまでもなく、はぶかれます.
次に、できたキャンペーンをアカウント・グループに示します。最後に、ビル・バーンバックのもとへ持って行きます。これがすべてです.
DDBには見る人すべてを喜ばせるかどうかをチェックする---その結果、誰にも何も訴えないようなキャンぺーンを作り出す結果になるのですが---クリエティブ・レビュー・ボードのようなものは存在しません。
パーカー夫人の作品
コーヒー1杯で、これだけのすばらしいショーが見られるところが、ほかにありますか?
この次フランスへいらっしゃる時は、旅行者であることを忘れてください。一番手近かなカフェで楽しさをともにしてください(どんなに小さな田舎町でも、きっと1軒はありますから)。
椅子を引いて靴をけとばし、通り過ぎていく世界を観察してください。
1杯のコーヒーで1日中座っていてください(ウェイターは、あなたがコーヒーを飲みにきただけではないということをちゃんと知っています)。
羊乳製チーズでブランデーを飲んでください。コニャックでチーズをちびちびかじってください。
詩か絵葉書を書いてください。真昼間に恋をしてください。
休日のすべてをフラススの舗道のカフェで過ごしてもいいんですよ。コーヒー1杯分の値段で、多くの観光者が一生かかって見るよりもっと多くのものを見ることができます。
舗道のカフェの休暇は、計画するだけでも楽しいものです。
with art director: Bill Taubin
【参照】
ロール・パーカー夫人とのインタヴュー
(1・2・3・4・5・6・了)
がん協会のための、乳ガンの早期発見の公共広告。
アナウンスは、女性ががシャワーのついでに乳房にさわり、異常を発見することは、みだらな行為でもなんでもない---と、自己簡易検診をすすめる。
あなたが女性なら、ご自分の生命が救われる方法を探しましょう。
月に一度、月にたった一度だけ、シャワーを浴びている時とか、体を乾かしたりスプレーする前の時間をほんのすこしだけ割いて、ご自分の胸を押すちょっとした仕草をなさってみてください。
ご自分の躰を大切にするために、乳房をご自分で調べてみてください。これが出発点です。
たいした検査でもありません。面倒なものでもありませんし、あなたを傷つけもしません。
また、そのために要する時間は、ほんの2分間です。
その方法をご存知なかったら、医師にお尋ねください。
あるいは、私ども米国対ガン協会にお尋ねください。
やり方を記した簡単な小冊子をお送りします。
あなたの余生をお考えください。
1ヶ月にたったの一度、たったの2分とは、ずいぶん安い保険でしょう。
そうお思いになりませんか?
恐れることはありません。あなたを傷つけることでもありません。お電話ください。
If you are a woman, what you are about to seek to save your life:
Once a month, just once a month.
While you are taking a shower when you have a few moments before you dry or spray, do any of those little things to pump yourself.
Do something to take care of yourself.
Examine your breasts ; that is where it begins.
It's nothing like examination really, it's uncomplicated.
It doesn't hurt. Then it only takes about two minutes
If you don't know how, ask your doctor to show you or ask us, the American Cancer Society.
We'll send you a simple little leaflet to show you.
Consider all the years ahead of you.
Two minutes of your life once a month.
It's very cheap insurance. Don't you think?
Don't be afraid.
It's what you don't know that can hurt you.
Please call.