創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](10-4)


この項でも、M・デボー準教授の”Effective Advertising Copy"からの「長いコピーが許されるケース」のリストを引用していますが、これを輪読していた20代の半ばの生意気ざかりのころは、このリストに「学者さんというのは、よくもまあ、わかりきったことをきちんと整理して並べるものだなあ」とケイベツまじりに嘆息したものでした。
ところが、30代前半からT美大で「広告コンセプト」のクラスをもって、配布したものに、M・デボー準教授のこのリストもありました。「学生時代のいまは役に立つまいが、卒業してから確認したくなるときがくるはずだから、保存しておきなさい」
まあ、確認しなければならないときって、滅多にきませんが、お守りといっしょで、持っていれば安心できるようなものといっておきましょう。少なくとも、手前ミソの自慢話よりはマシでしょう。


第10章 コピーの長さ(10-4)


忘れてごらん


電報の内容を忘れたって? 妙ですね。商売熱心な花屋さんが、
ほかの町へ電報で注文を送る理由もここにあるのです。
電報は早く着き、氏名・住所・注意書き、そして値段が
ちゃんと文章になっています。はっきりした反応がほしかったら、電報をおうちなさい。

長いコピー


「あなたはこんな英語の誤りを冒していませんか?」というメール・オーダーの伝説的広告の作者であるシュワプ氏(Victor Schwab)は、『広告コピー入門』(共訳)の中でも「今日の大衆製品の広告と、ほんの2,3年前のものとをくらべてみても、コピーがしだいに長くなっている、という顕著な傾向を発見されるだろう」と指摘しています。
シュワブ氏は、シュワプ・ビーティ & ポ−タ−代理店の前社長で、主としてメール・オ−ダーのコピーを40年間も書いてきた人です。
その道ではたしかにベテランですが、コピーの新しい傾向といったことになると、さすがにオールド・タイマーといった感じがいなめません(注:他人のことをどうこういう資格はなくなりましたが---)。
私のみるかぎりでは、最近(40数年前)、コピーが長くなる傾向にあるとは思えません。
もちろん、長いコピーもあります。
が、短かいコピーだって数多くあります。傾向的にいえば、コピーの長短よりも、絵と結びついたコピーが多くなったということのほうが目につきます。


しかし、長いコピーが許されるケースというM・デボー氏の説を、ついでだから紹介しておきましょう。


(1) その広告が、工業用製品に属するとき
(2) その広告が、買い回り品や特選品に属するとき
(3) その製品が、技術的か機械的なものであるとき
(4) その製品が、新しいタイプのものであるとか、それの利便や特徴をそのマーケットに「教育」しなければならないとき
(5) その広告が、非常に特殊なブランドに属するとき
(6) その製品が、高価格なとき
(7) その広告が、雑誌に掲載されるとき
(8) その広告が、ダイレクトメールのような長いコピー形式のものになるとき
(9) 広告主の目的が、初期需要を築くことにあるとき
(10) そのコピーが、直接的行動を目的としているとき
(11) その会社が,セールスマンやディラーをもっていないとき
(12) その広告主が、良質の問いあわせを求めているとき
(13) そのコピーが現在その製品を使用していない人びとをネラっているとき
(14) 新しい会社が、非常に競争的なマーケットにブランドを売りこむとき


第5章の「コピーの流れ」で、


スルスルと読ませる----これが「コピーの流れ」です。
読者に負担をかけないで、興味を持続させながら読みつづけさせるテクニックです。
スルスルと読ませるためには、 リーダビリティに関係する要因、たとえば、活字の大きさや種類(タイプ・フェイス) とか、1行の長さ、 インキの色といった基礎的なものもありますが、ここで問題にしたいのは主として、読みつづけさすためにはコピーをどう書くかという点に限定します。


といって、8つのテクニックを紹介しています。


じつは、長いコピーを書くためには、あの章をもう一度読み返していただきたいのです。
それと、グラフィック処理に関係したことも知っておかなければなりません。
たとえば、段落を短かくしたり、こまめにサブ・ヘッドを入れたり、コピーをブロックに分けて散らしたりするテクニックです。
と同時に、アートディレクターと協力して、活字の大きさを決めたり、ホワイト・スペースをとったり、太字にすることばを決めたり、ボーダーで囲んだりします。
そうしたことは、アートディレクターの仕事だといって澄ましていてはいけません。
きちんと注文して、リーダビリティを高める努力をすべきです。


私の場合、一つの段落は、5行以内に収めています。
また、太字を指定したり、号上げを希望する文字は赤エンピツを使っています。
ついでですから書いておきますと、製品名、会社名が途中で改行にならないように、文章そのものを変えることもしばしばですし、1つの単語が行替えになる場合も、文章の方を加減して、なるべく「ベンケイガナ ギナタヲ」式にならないように、細心の注意を払っています.
(つまり、1行15字とか、1行17字とかをコピーライターである私が決定してから、コピーを書くこが多いのです。1行15字で書いたもの、アートディレクターが1行16字に変更したい場合には、コピーライターの私の了解を得てもらいます。その場合、私自身の手で1行16字に改めて書き直します)。


補:製品名、企業名が行変えによって割れるのを、日本デザインセンターで某自動車メーカーの広告をいっしょにやったアートディレクターの故・田中一光さんは、とくに嫌いましたね。


明日は、長短談義の項です。


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