創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](10-1)


この文章を発表したのは1963年---46年ほど前です。そのころ、米国の広告クリエイティブ界にマグネチュード8.0級の激震が起きていました。その激震の名は"ungraphic"。
経済界 では、「米国がクシャミをすると日本は風邪をひく」という比喩が常識めいて言われています。広告も経済行為に包含されます。もっとも広告クリエイティブは、心理や習俗をともなった対象が相手なので、ウイルスの活動も弱められるでしょうが---。
とにかく、40数年前の激震を知っておくことは、クリエイターにとって必須のことではないでしょうか。(ネット時代---たしかに、祝電と弔電しか目・耳にしなくなりはしましたが)


第10章 コピーの長さ(10−1)


コピーは長いほうがいいか短かく書いたほうが有効か
---これは、広告のアマチュアだけでなく、長年この仕事を
してきた人の間でもしばしば議論されます。
バカげた議論です。
なぜか? コピーの長短は、たんに形式から論じるものでは
ないからです。
それは、その広告で伝達しなければならない
インフォメーションの量で決めるべきものです。
エスタン・ユニオンの広告がそれを証明します。


無視してごらん


電報を無視するって? できませんよ。だれだって電報を無視しっこありません。あなたの電報は、いつでも即座に注意をうながし---即答を強制します。はっきりした反応がほしかったら、電報をおうちなさい。


1962, 41st ART DIRECTORS CLUB MEDAL
Art Director: Dan Cromer
Designer: Dan Cromer
Copywriter: Jay Folb
Agency: Benton & Bowles, Inc.

一通の手紙


おもしろい手紙を紹介します。
差出人は、ベントン & ボウルズ(Benton & Bowles)広告代理店のコピーライター、J・フォーブ(Jay G Folb)氏です。
氏は、第14回のニューヨークーADC展で金メダルを受賞した広告のコピーを書いた人です。
ウェスタン・ユニオンの電報キャンペーンについての考え方を知らせほしい」という私の要請にたいしての返事です。


第一に、電話とくらべて、電報の最大かつ唯一の利点は、強制的な要素だと、私は判断しました。
だれだって、電報を無視することはできません。
電話だったら秘書に受けさせることもできるのですが---。
つまり、これが、私たちの前提です。
電報は無視されることがない----だとしたら、このアイデアを提示するのに、誌面に電報をそのまま出す以上にドラマチックな表現法があるだろうか、と考えました(電報というものの性質からいって、私たちは、実際にそれを誌面に複製できる、というわけなのです)。
そして最後に、絵柄を完成するにあたっては、私たちは、読者に、私たちのセリング・メッセージが書かれている電報を無視してごらん---と挑戦しました。
それはできないと計算した上でのことですが。
広告のドラマは、製品そのものの中にあるということに着目するのは楽しいことです。
私たちがつくっている広告の急所には、借りもののインタレストや当面の問題以外の、または当面の問題と関係のない細工など、まったくありません。
このキャンペーンのインパクトは、その単純さにあります。
このキャンペーンは、ベントン&ボウルズの広告哲学「ドラマチックに表現された、強く単純なセリング・アイデア(a strong, simple seling idea dramatically presented)」をもっともよく例証したものです。
電報は無視されることがないというのは強いアイデアです。
単純なアイデアです。
そしてこのアイデアを伝達するために、電報そのものを使ったのは、私たちのドラマチックな表現法なのです。


日本デザインセンターで、同僚である(=当時)梶祐輔(コピー・ディレクター)氏と永井一正(アートディレクター)氏が、ベントン & ボウルズ社を訪ねて、この広告のアートディレクターであるD・クロマー氏に会ったとき、氏は「電報そのものを誌面に出す。それではコンセプトがある広告とはいえない。『無視してごらん』というヘッドラインをつけたことによって、この広告がコンセプト・アドになったのだ」と話したそうです。
クロマー氏のこの話は、フォーブ氏の手紙によってよくおわかりになるでしょう。
すなわち、製品そのものの中からアイデアが導き出され、そのアイデアが、コピーとアートが結婚することによって、ベントン & ボウルズ流にいえば、「ドラマチックに表現」された広告になるわけです。
ちなみに、ベントン & ボウルズ社は1962年度の扱い高が全米の代理店中で第9位という代理店です。私のみるところでは、クリエイティブな代理店としては、最大に近いほうです。私はこの社の製作哲学にも注目しています。

NY=ADC展の評


さて、冒頭に掲げた広告のコピーを、もう一度、読んでみましょう。

無視してごらん


電報を無視するって? できませんよ。だれだって電報を無視しっこありません。あなたの電報は、いつでも即座に注意をうながし・・・即答を強制します。はっきりした反応がほしかったら、電報をおうちなさい。


この広告は、1961年7月1日号の『ビジネス・ウイーク』誌をはじめとする、『ニューズ・ウィーク』誌、『タイム』誌などの、いわゆるビジネスマン向けの雑誌に載ったものです。ですから、コピーにも、どことなくビジネスライクな調子があります(電文ですから当然ですが---)。
けれども、ヘッドラインともで、たったの31語という簡潔さの中に、言うべきことを全部言いきっている点、なかなか迫力があります。


この広告が金メダルを受賞したときのNY-ADC展の審査員たちと、『アート・ディレクション』誌の編集者との会話で、


Q.金メダルをとった広告の中には、全然、絵のないものがありますね。アングラフィック(ungraphics)ですか?
もう、絵は不用なのですか?


A.そうとはいえません。私たちは、絵がなくてはならないとしては見なかっただけです。最初に、私たちはメッセージの点で検討し、それから絵を必要とするかどうかを----


A.とにかく、本質的にはアイデアそのもの(the Idea's the thing)ですよ----ウエスタン・ユニオン社の広告をごらんなさい。見かけは美しくないが、おろしいほどのコンセプトですよ----


Q.テクニックは、もう、それほど重要ではないのですか?


A.そうではありません。それは先行するものじゃなくって----アートディレクターはテクニックに精通していて、その向こうにあるものを見ていて----彼は広告人なんですから----彼は本質的には、メッセージを受けとる人たちのことを考えているんですよ。


Q.メダルを受賞した広告やダイレクトメールが効果的な広告かどうかを----どうしたら知ることができる----とお考えですか?


A.スターチ社が、ある広告美術展での最高賞の広告の注目率、精読率、単価当りの注目率のデータを調べたところ、みんなふつうの広告より約40%も高かったと報告しています。


この項、未完。あすへつづく


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