創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](9-1)


1963年----46年前に書いたものです。
当時、PKL社の株式公開で、マジソン街の有能なクリエイターたちは(あるいは単なる広告人も)、錬金術ともいえるブティックの開店を、たいてい、夢見ていました。
そのことにはさして言及していません。こちらはコピー作法の文章なのです。
そして、医学雑誌でなく門外誌に「花粉症(枯草熱)」の存在を日本に初めて紹介した文章でもあります。


第9章 コピーの強調


強調というのは、一種の力関係です。比較の問題です。
多くのものの中から、一つか二つのことを目立たせよう
という考え方です。極端にいえば、広告そのものが強調
の渦中にあるといえます。
そうはいっても、コピーライターの力で、うまく強調する
方法はあるのです。
何を強調し、どう強調するか---
いま米国で話題の広告代理店PKLが創造した、
アレレストの広告を使って解説。



あなたはこのページのどの辺を見ると、クシャミがでますか?


草には4,000もの種類があります。雑草や木もいれたら、もっともっとの数。そのすべてが春と夏に受粉します(大きな雑草だと5時間に8億もの花粉がつくれるのです)。あなたが枯草熱にかかってしまっていらっしゃったら、もうチャンスはありません。クシャミをしていらっしゃい。さもなくば(お金があったら)大洋を航海していらっしゃい。あるいは(1ドル25セントお持ちなら) 今すぐ、アレレストが飲めます。この新しいアレルギー用錠剤は咳、クシャミ、涙、水鼻、アレルギーでかゆい目を鎮めます。アレレストはアレルギー用、アレルギー専用です。風邪用の錠剤やカプセルで、こう言いきれるものはありません。アレレストはミルウォーキーで「街がクシャミを止めた」と紹介されました。 アレレストを続けてお飲みなさい。 さて、このページを見てください。息を深く吸って--ね。もうクシャミが止まっているでしょう。24錠入り1ドル25セント 48綻入り2ドル25セント
アレルギーにはアレレスト




WHAT PART OF THIS PACE MAKES YOU SNEEZE?


There are over 4000 different grasses. Even more weeds tree. All pollinate in spring and summer(a large ragwood plant can produce 8 billion pollen in 5 hours). If you have hayfaver, you don't have a chance. You sneeze. Or (if you've got money) you take an ocean viyage. Or(if you have $1.25) you can now take Allerest.This new Allergy tablet calms the cough, tne sneeze,the tears, the runny nose, the itchy eye of allergy and only for allergy; no cold tablet or capsule can say the same. Breathe deap. See---you've stopped sneezing . 24 tablets $1.25 48 tablets $2.25 ALLEREST FOR ALLERGY


WHAT ALLEREST HAS: ALLEREST CONTAINS ALLERGY SPECIFICS DOCTORS PRESCRIBE: PHENYLPROPANOLAMINE HYDROCHLORIDE 25 MG: CHLORPHENIRAMINE MALEATE 1 MG. : METHAPYRILENE FUMARATE 5 MG.: CALCIUM ASCORBATE 37.5 MG.
WHAT ALLEREST DOESN'T HAVE: UNLIKE COLD TABLETS AND CAPSULES, ALLEREST CONTAINS NO ASPIRIN OR OTHER ANALGESICS (SOME PEOPLE ARE ALLERGIC TO THEM). NO CAFFEINE. NO BARBITURATES OR OTHER HABIT-FORMING DRUGS.



アレルギーで
お悩みの方へ:
 呼吸と違い、
 クシャミは、
しなくても
  いいもの
 なのですよ


新錠剤アレレストは、アレルギーやアレルギー性の風邪の咳、涙、水鼻、くしゃくしゃ目を鎮めます。アレレストは、枯草熱のクシャミも取り去ります。(効くかって?  あなたがビンボウ草を襟に飾ってみたくなるくらいです!)。 アレレストは、アレルギー用に、アレルギー専用につくりました。風邪用の錠剤やカプセルで、こう言いきれるものはあません。
枯草熱ですか? アレルギー? アレレストをお飲みください。あなたの薬剤師さんがよく説明してくれるはずです。24綻入り1ドル25セント 48錠入り2ドル25セント

アレレストに含有されているもの------
アレレストに含有されていないもの-----
アレルギーとアレルギー性の風邪にはアレレスト




  ALLERGY
 SUFFERERS:
YOU HAVE TO
 BREATHE
   BUT
 YOU DON'T
  HAVE TO
  SNEEZE


A new tablet called Allerest calms the cough, the tears the runny nose, the itchy eye of allergy and allergic colds. Allerest takes the sneeze out of hayfever. (Effective? You may be tempted to wear ragweed as a boutonniere!)
Allerest was created for allergy and only for allergy. Nocold tablet, no cold capsule can say the same. Got hayfever? Got an allergy? Get Allerest. Your druggist will tell you about it. 24 tablets, $1.25. 48 tablets, $2.25


WHAT ALLEST HAS-----
WHAT ALLEST DOSN'T HAVE-----
ALLEST FOR ALLERGY AND ALLERGIC COLDS

PKL社の哲学


この章では、いま、私がもっとも関心をもっているコピーライター---ケーニグ氏のことを書きます。
まず1962年11月号のフォーチュン誌からの引用からはじめましょう。
※"How to get ahead in advertising, and Fortune maybe stay there" by Stephen Mahoney, The Fortune, Nov. 1962


1690年1月:ニューヨーク競馬場の2ドル馬券売場で顔をあわせた2人の若い男が、何かやろうということになり、もう1人の仲間を加えて、無資本で、たった一つの不確かなクライアントを相手に広告代理店をおっはじめた。
代理店の名は、パパート・ケーニグ・ロイス社。
1960年12月:PKL社は、シーグラム(酒)とロンソン(電気カミソリ)など12のクライアントを獲得していた。
1961年12月:約80人の社員と、コンソデイテッド煙草、ゼロックス、NYヘラルド・トリビューン紙などのクライアントがあった。
1962年9月:扱い高1,800万ドル、クライアント25社、社員133名。そしてPKL社は株式を公開した。
株価は7ドルに上がり、創設者たちはそれぞれ100万ドルずつ儲けたことになる。


私は、ケーニグ氏が持ち株の20%を市場に放出し、かつ、残りの持ち株の評価とともで3億6,500万円(当時の換算率1ドル=360円)の資産家になった点にも、もちろん羨望を感じてはいますが、関心を持っているのは、彼の広告哲学のユニークなところです。
PKL社は、代理店創立後わずか2年半たらずで、一挙に全米中の75位の代理店にまでのして『アドバタイジング・エイジ』誌から「シンデレラ・エージェンシー」と呼ばれています。
そして、その発展の理由の大部分が、会長であるパパート氏、社長でありコピーライターであるケーニグ氏、筆頭副社長でありアートディレクターのロイス氏のユニークな創造哲学によるものと思われるのです。
マホニイ氏の表現に従えば、成功の秘密は、「非常に古く原始的な経営方針が用いられている。働いている人がウイットに富んでいる---それだけだ」ということになりますが---。
これは、PKL杜の信条の一つ・・・・・・「大衆の前に、間のぬけた、退屈な広告を見せるのは、明らかに不道徳だ」 ともいいかえられましょう。
1931年生まれのブルックリンっ子のジョージ・ロイス氏は言います。
広告が間ぬけていて退屈かどうかを測る基準は、「私たち自身のよい趣向による。もしアイデアがよいものであり、的確ならば、まず私たち自身が反応するはずだ。そして私たちは、労働者と知識人の両方に通じる直覚的センスをもっている。アイデアが単純であり、知的に設定されているかぎり、基本的には、 この両者は同一のものに反応する」と。
PKL社のもう一つの信条は、「私たちほ公式に頼らない。私たちは製品を研究し、そこでねばり、そして議論なんかしないで広告をつくる」というロイス氏のことばに示されている、クリエイティプなアプローチに関するものです。
「公式」というのは、第7章の「コピーと調査」でご紹介した、オグルビー・ベンソン&メイサー社が信奉しているような、「ヘッドラインは12語以下にすべきだ」「90%の人はボディ・コピーを読まないから、銘柄名をヘッドドラインに入れよ」云々といった種類をさらに敷衍したものでしょう。
事実、ロイス氏は別のところで、


「つくられた広告が悪いのは、つくっている人間が悪いからだ。何にでもルールやきまりを決めよう・・・・といいはる人間だ。私は「能なしのことをいっているのだ。なぜって、才能のある広告人がルールやきまりを決めるのなら、私はいいと思うから。オグルビーほどルールや公式をもっている広告人はいない。でも彼が、広告のガンだというのではないが」


といっています。
私は、PKL社の2つの信条を読んで、「コイツは、ドコカデ読ンダゾ」と思いました。そしてわかりました。DDB社の制作哲学とよく似ているのです。
ケーニグ氏もロイス氏もともにDDB社にいたことのある人たちです。ですからたぶん、その時に身につけたのでしょう。


未完。以下、明日につづく




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【補】ネットの某SNSで、2年前に、製薬会社の研究部門の友人と、一連の[アレレスト]の広告をめぐってやりとりしたコメントを再録し、参考に供します。


友人:べべさんから


アレレスト Allerestは、調べたところクロルフェニラミンと偽エフェドリン
クロルフェニラミンは典型的な抗ヒスタミン薬で、
製品名ポララミンなんかが、日本では有名です。
ごくごく初期の抗ヒスタミン剤で、「眠くなる」という副作用が覿面に出ます。
エフェドリンは鼻づまりの解消に使っていますね。
鼻粘膜の充血・腫脹や気管支の拡張が適応です。


どちらも、一般的な風邪薬や鼻づまりの薬に含まれている成分ですね。


chuukyuuから べべ さんへ


>ごくごく初期の抗ヒスタミン剤
そうでしょうね。40年も前の広告ですから。
で、最新の、眠くならない抗ヒスタミン剤というか
アレルギー薬には、どんなものが調剤されているのでしょう?


友人:べべさんから


調剤、というか、新規の化合物ですね。

基本的に、抗ヒスタミン剤というのは、脳に移行すると眠くなるものなのです。
これはアレルギーに関して体から出るヒスタミンが、同じく神経の覚醒のためにも
使われているからなんですね。アレルギーを抑える目的でヒスタミンを抑えると、
覚醒も抑えられてしまう、と。

血管から脳へ血液が流れる際、脳へ血が行く前に血液脳関門というところがあって、
脳に行ってはまずいような物質は、通常、そこでブロックされます。
ところが、古いタイプの抗ヒスタミン剤は、それを通り抜けてしまうんですね。
で、新型の抗ヒスタミン剤が開発されるわけです。
血液脳関門を通り抜けることの出来ない薬を作れば、
アレルギーの症状は治まるけども、眠くなることはない、と。

ただ、薬局で処方箋なしで買えるものには、配合されていません。
古いタイプの抗ヒスタミン剤は、使用経験も多く、大衆薬として使うことも出来るのですが、
こういった新型の化合物は、まだ大衆薬にして良いのか(処方箋なしで買うようになっても問題ないか)、まあまだ経験がない、というのが実情です。


chuukyuuから べべ さんへ 


またまた、ありがとございました。
いちおう、理解できたつもりです。
大衆薬としては、いまのところは、眠くなっても、まあ、あきらめろ。
そのかわり、症状はおさまるはずと。
つまり、会社を休んで1日か、2日、寝るつもりで服用しろ。
休養が一番---ともいえますね。


未完。以下、明日につづく


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