創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

[効果的なコピー作法](6-3)


最初に言っておくのを忘れていました。『ニューヨーク・タイムズ』紙からの引例の広告は、日本の新聞と同サイズで、すべて1ページ広告です。したがって、一昨日の「スーツを買おうとなさるとき、39番サイズを、あなたは何着ぐらい選びだせますか?」にしても、88点の写真の1着1着が柄や襟の形まで読みとれるのです。
きょうの引例図版は、1961.10.15掲載の1ページ広告です。『ニューヨーク・タイムズ』紙といえども地方紙---日本で言う県紙---米国だと州紙かなあ---です。しかも地区版---日本でいう都内版や県版---の広告面もあるでしょうから、商店が1ページ広告が可能なのです。全国媒体は雑誌です。
カフス・ボタンとステッキに時代を感じるじゃないですか。ぼくも、ロンドンのスウェイン&ブリッグ店のステッキを30年前に購入して老後にそなえましたが、いま、目にするのはステッキじゃなく杖ばっかり。


袖の長さは、正しくは、どうあるべき?


袖は、手をあげて笑ったり、物をとろうとして伸ばしたりできなければなりませんし、ご自慢のカフス・ボタンがちらっとのぞく---くらいでなければいけません。短かすぎない程度に長くなければなりません。そしてその逆も然り。つまり、ファッションには袖の長さについての、神聖にして侵すべからざる決まりなんて、ありません。が、私たちバ一ニイズにはあります。あなたのお好きな長さが、正確には、あなたの袖丈だということ。そして当店の調整係は、その正確な長さに直しすために、腕をふるいます。つまるところ、そういうこと。




EXACTRY
HOW LONG
SHOUD YOUR
SLEEVES
BE


Sleeves are recommended for laughing up, pulling things out of, and permitting a peek at a pair of well executed cuff links. They should be long enough so they aren't too short. And vice versa, in short, fashion has no sacred cows about sleeve lengths. We, at Barney's, have one, your sleeves should be exactly as long as you like them. And our fitters go to great lengths to achieve exact length. That's the long and the short of it.

セリング・ポインツの意味


ステピンズ氏は、その解説を「専門家になればなるほど、手のこんだことをするというワナにおちやすい。 そこで、愚直にかえり、読者とライターを単純さで直結することが、しばしば成功するのだ。それが、 広告を叫ばせ、セルするのだ。この広告が、その好例」と結んでいました。
「専門家になればなるほど、手のこんだことをするというワナにおちやすい」という、氏の言葉も、じつは正しくはありません。
ほんとうに専門家なら、もてる技術をフルに使って、手をこますはずです。ただ、一見、手がこんでいないようにみせかけながら---。
バーニイズの広告にしたところで、なかなかに手がこんでいます。専門家でなければ、できない表現でしょう。
「読者とライターを単純さで直結することが、しばしば成功する」ということばはうなづけます。が、これとても「愚直にかえる」からできるのでほありません。単純化というテクニック、つまり、今までに繰り返えし説明してきた、集中のテクニックを使ってこそ、はじめてできるのです。
熱心な読者であるあなたは、すでにマスターされたハズのものですから、詳述することは避けましょう。
むしろ、私は、この広告のよさは、セリング・ポインツの明確さにあると、『ニューヨーク・タイムズ』紙でこの広告を見たときに感じました。


セリング・ポインツとは何か? この用語も<多くの広告人に、不正確に使われています。
S・ウルフ氏は『アドバタイジング・エイジ』誌のコラムで「ジョン・E・ケネディやクロード・ホプキンスなどは、セリング・ポインツを製品知識と規定して考えていた。売り手と買い手の関係において、買い手側に中心をおいた、マーケット知識とか、消費者の欲求とか、読者の関心とかいったものと規定して考えなかった。買い手の関心を高め、買うに足る理由を示すことが重要である。そう、もっとも重要なことである」と書いていました。
要するに。買い手の側に立って考えよというのです。
M・デボー氏はこの考え方をさらに進め、『効果的な広告コピー』の中で、こう述べています。


「すぐれた立証方法が、セリング・ポインツである。」


つまり、セリング・ポインツとは、消費者や読者の立ち場に立って、彼らがその製品またはサービスから受ける利益の根拠を証明するための、製品特質だというのです。
こうした考え方に立って、バーニイズのコピーを再読してみましょう。
セリング・ポインツと思われるものは、


・40の有名ブランドがある
・考えられる限り多くの型とスタイルが揃っている
・それは、32の特小サイズから56の長サイズ、60の肥満サイズである
・それは計算すると、39番の標準サイズが2,000以上もある


といったところでしょう。そして、消費者の利便と思われるものは、


・これだけ多くのものの中から選べる
・ピッタリ体に合ったものが選べる
・柄もスタイルも気に入ったものが選べる
・寸法直しの必要がない


ということになります。


しかも、印象としてほ、セリング・ポインツが心に強く残ります。
すなわち、「私は、この広告のよさは、セリング・ポインツの明確さにある」と先述したのも、ここに理由があるわけです。
そうはいっても、このことがステピンズ氏の「レジスター賞」と結びつくわけではりません。
セリング・ボインツと販売とは、そう簡単に結びつくものではないからです。
たしかに、セリング・ポインツは、他の製品との競争的な長所を示すためには、すごく有効な素材です。
しかし、だからといって、それがすぐに販売と結びつくわけでははありません。
広告主の多くは、ここのところを誤解しています。
広告主というのは競争的な長所というのを、とくに過大評価したがる傾向が、洋の東西を問わず、あるものだそうです。
製品の競争的な長所は、それ自体は、ほとんど力のないものです。素材にすぎません。素材は有効に使用されてこそ、価値と力をもつものです。
有効に使うとほ、どういうことか?
消費者や読者が受ける利便の証明の根拠として使うことです。
誤解のないように強調しておきましょう。製品が備えている特質すべてが、セリング・ポインツにはなるわけではありません。それらの特質のうち、利便に結びつく特長だけがセリング・ポインツなのです。



この項、終わり。明日は「コピー・プラットフォーム」の項


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