[効果的なコピー作法](6-1)
ぼくは学校を出てすぐに、関西の電機メーカーの宣伝部に配属されました。家電店向けのPR誌の編集をしばらく担当、やがてコピーライター・トレイニーを兼ねるようになりました。会社に上申して、コピー・ライティングの勉強をすることに。
講師は、当時『プリンターズ・インク』誌の翻訳・アレンジ版を発行なさっていた松本善之助さん、テキストはM. De Voe準教授の『Effective Advertising Copy』(原書)でした。
それから、3年ほど勤務した東京を離れたくなくて---というのは、余暇に江戸の研究をしたかったのです---本社転勤を機に退職、日本デザインセンターにコピー・チーフとして入れていただきました。ここの図書室で目にしたのが定期購読中の『ニューヨーク・タイムズ』紙です。
同社に在職中に本稿を書いたので、資料としてバーニイズを使わせていただけました。図書室の有能な司書であったミズ小栗に謝辞を呈します。
第6章 セリング・ポインツ
私たちは、「セリング・ポインツ」ということばをよく使います。
が、それを正しい意味で使っている場合は意外に少ないようです。
「セリング・ポインツ」とは、
製品特質のなかで、
製品利便の支えとなるもののことです。
その技術に8つあります。
いってみれば、
買うに足る理由の証明材料です。
では、この「セリング・ポインツ」を
コピーのなかでどう生かすか---この章で明らかにします。
スーツを買おうとなさるとき、
39番サイズを、
あなたは何着ぐらい、
選びだせますか?
あるいは、こういいかえてもいいでしょう。あなたは、選びぬいて最後にそのスーツになさったのですか? それとも寸法直しをなさいましたか? バーニイズでなら、40の有名ブランドの中から---多いでしょう--- また、考えられる限り多くの型とスタイル--- 32の特小サイズから56の長サイズ、60の肥満サイズ---の中からお選びいただけます。たとえば、あなたが39番の標準サイズをお召しなら、そしてお求めになる店がバーニイなら、上の質問の答えがおわかりになって満足なさるハズです。つまり、計算していくと843! ですから、39番のロング、39番のショート、特ロング、特ショート、肥満型、ずんぐり型、特ずんぐり型、のっぽ肥満型---と、合計2,000以上の39番サイズがあるわけです。
HOW MANY SIZE 39's
CAN YOU CHOOSE FROM
WNEN YOU SHOP
FOR A SUIT?
Or, to put it another way, did you select your suit - or did you settle for it? At Barney's, you choose from over 40 famaous brands - not just a few - and in the widest imaginable variety of models and style and sizes - from 32 extra sort, to 56 long to 60 portly. If, for example, you wear a 39 regular - and the store where you shop happens to be Barney's - you'll be please to know the answer to our leading question. At last count, 843! And then there are 39 longs, 39 shorts, extra longs, extra shorts, portlies, short portlies, extra-short portlies, long portlies - over 2,000 size 39's in all.
■ レジスター賞
『プリンターズ・インク Printers Ink』誌(1962年7月20日号)で常連寄稿家のハル・ステピンズ氏は、上掲の広告についてこういっています。
ニューヨーク・アートディレクターズ・クラブはこの広告に、例の気どった賞を与えようなどとは、とうていすまいと、私は思う。だが、私なら確信をもって、この広告のクリエイターたちに、ただ一つきりしかない広告賞を贈るだろう。すなわち、レジスター賞を。
まったく、だれの目にも了解できるほどのプリミティブなコンセプトとできばえ、余計な飾りもなければ、お世辞もない。ただ、こう訊いているだけ。
「スーツを買おうとなさるとき、39番サイズを、あなたは何着ぐらい選びだせますか?」(以下、ボディ・コピーを全文引用)
紳士服の小売店は、ニューヨークのような大きな都会では、とくに競争がはげしい。だが、スーツを買う計算づくの男にとって、この1ページ広告は、金持ちの当惑こ似たものを感じさせる。少なくとも、彼に「出かけてみようか」という気にさせる。そしてそれこそ、バーニイにとっては、大いに成功の助けとなるものだ---ほかの店とてご同様。
われわれは、専門家になればなるほど、手のこんだことをするというワナにおちやすい。そこで、愚直にかえり、読者とライターを単純さで直結することが、しばしば成功するのだ。それが、広告を叫はせ、セルするのだ。この広告がその好例。
さて、問題の広告は、1962年5月21日の『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載されたもので、コピーは、ステピンス氏によって全文引用されています。このコピーを書いたのは、モーガル・ウイリアムズ&セイラー広告代理店の制作部長であるセス・D・トピアス氏です。
同氏はここ数年来、バーニイのコピーを書いています。氏からの手紙によると、バーニイの新聞広告の基ポリシーは、「店内がすばらしく完備していること、そして他店よりもうんと利便を提供することを客に簡単に思い出させること」であるということです。
また、同店は「自分たちの知る限りでは、世界一大きい紳士服,少年服の店」だと。
(この項未完。以下、明日へつづく)