創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(264)ハーブ・ルバーリン氏とのインタヴュー(4)

(アイデア別冊『ルバーリン作品集2冊目』(1988.11.10)に載せたエッセイ。[1冊目のインタヴューで語られつくしているのだけれど20年ぶりに、2冊目のために2、3、書きそえる]のつづき。)右:ハーブ・ルバーリン社のロゴ---社名・街名・番地・郵便番号・電話番号の組み合わせ


ぼくは医薬品関係の扱いが多かった広告代理店サドラー・ヘネシー&ルバーリン(SH&L)社を辞めて、自分のデザイン・スタジオを設立したあとの巨星しか知らない。広告の仕事を3分の1にとどめているわけは、19年前(2008年からいうと39年前)のインタヴューで話してくれているからここで改めては述べないが、SH&L社から巣立ったアートディレクターの名前だけは記しておいてもよかろう。アーロン・バーンズ、シーモアクワスト ボブ・フィオレ、ケーリー・ガーステン、アーウイン・クラスカー、ヘルムート・クローン、ジョージ・ロイス、フレッド・ベイパート、ラリー・ミューラー、サム・スカリ、アーサー・シンガー、バニー・ズロットニク---この中でぼくは、ジョージ・ロイス、シーモアクワスト、ヘルムート・クローン、サム・スカリ、アーロン・バーンズの5氏と面識があり、なんと4人の作品集を編集している。このSH&L社時代のアシスタントたちが口を揃えていっているのは、巨星の仕事の速さだ。トレーシング・ペイパーに書きなぐり、色や大きさや級数を細かく指定した注記がついているのだそうだ。トレペへの下書きのことは旧版のときには知らなかったし、ルバーリン自身もそこまで自分をさらすつもりがなかったのか、送ってきてくれなかったので、こんどの2冊目にだけ、加えることにした。


<<ハーブ・ルバーリン氏とのインタヴュー 目次


広告づくりは好きなんだけどね---


chuukyuu  あなたは「1964年。広告にあきあきして、ハーブ・ルバーリン社というデザイン会社を開く」と履歴書にお書きになっていますが、なぜあきあきされたのですか? あきあきなさった原因は、サドラー・ヘネシー&ルバーリン社時代にあるのですか?


バーリン  私は広告をつくるのは好きですよ。ただし、適当な量を有望な仲間といっしょになら---です。
私がやっている仕事のうち、今でも、その3分の1が印刷媒体とテレビジョンです。デザイナーとクライアントとの間には、あまりにも多くの人が介在しすぎると思います。アカウント・エグゼクティブ(得意先責任者)、リサーチ、マーケテイング、広告代理店の社長、コピーライター、メディア、プロダクションの人びとなどがいますからね。
そこで、私の能力を最高にフルに働かせるには、クライアントと直接交渉をするしかないことを知ったのです。
自分がしようとしていることは、だれよりもこの自分がいちばんよく知っているわけですから、それをクライアントへ伝えるのも、自分がいちばんよくできるはずだということになるわけです。アカウント・エグゼクティブに、私がしようとしていることを伝達するこの能力が欠けているのを何回となく見てきていますからね。
今でもサドラー&ヘネシー社の仕事は、デザイン・コンサルタントをしていますが、このことを感じたのは、サドラ一・ヘネシー&ルバーリン社にいたころです。
広告に見切りをつけたもうひとつの理由は、私は非常にたくさんのデザインの分野のことに関心を持っているので、広告だけに仕事を限ってしまっては、十分の報いが得られないと思ったからです。


chuukyuu  広告のどこがお嫌いなのですか?


バーリン 広告のためにアイデアを生み出すことは好きです。広告のデザインということは第二義的な意味しかなくなってきていると思います。
広告をどうデザインしよう---とはほとんど考えず、広告のためにアイデアを生み出し、ヘッドラインを書くということに考えをほとんど集中します。
私にとって、広告でもっとも興味をそそるのは、よいヘッドラインを書くことです。
今私がつくっている広告のほとんどのヘッドラインやコピーやテーマは私がつくっているといっても言いすぎではないでしょう。
広告で私の嫌いな点を言えば、限りなくありますが、一つには、クリエイティブ・マンとクライアントとの間にたくさんの人が介在するということ、もう一つは、広告がモラル的な見地からいって報いが十分得られないものであるということです。とくに、私が愛用していないものを広告して、そのクライアントがその商品を売るのを助けることなど真っ平ごめんです。だからよくそういうものは排斥してしまいます。そんな広告をするのは米国民にとって有害だと思いますからね。そういう商品のために美しい広告キャンペーンをつくったがために、客がスーパーマーケットへ入っていってその商品を手にしてみたら、ガッカリ---というようなことでは、あなたのクリエイティブな力作も水のアワでしょう? 販売の段階でクライアントがあなたのつくった広告の全目的をだめにしてしまうのです。


chuukyuu DDBのような広告代理店が存在していても、広告の将来に悲観的な見方をなさいますか?


バーリン  広告に関しての考えは、1965年以来完全に改めました。米国の広告はこの10年で、昔よりも何千倍も良くなってきていると思います。これからもどんどん良くなっていきつつあるのだと思います。グラフィック・コミュニケ一ションの中でも最もエキサイティングなフォームです。広告の未来に関しては、全然悲観論を抱いていません。前に広告を悪く言いましたが、私の最も興味を持っている分野であることに変わりはありません。でも、いつもやっているというわけにはいきません。


続く >>



A Protest Poster for American Institute of Graphic Art exhibition.



A contest of Protest Poster for "Avan Garde" Magazine