創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(219)ディック・リッチ氏とのインタヴュー(2)

      Wells Rich Green 社 共同経営者兼コピー・チーフ(当時)


インタビューの中に、ジャック・ティンカー&パートナーズが話題にでてくる。
DDBからジャック・ティンカー&パートナーズ社へ移ったメリー・ウェルズとディック・リッチ、それにスチュアート・グリーンが加わって、3人が1966年に独立して、WRG社を立ち上げてから、すでに40年以上経過した。メリーは、名誉最高顧問のような席を与えられているらしいが、メリーの経営方針に異を唱えたディック・リッチは、いまはどうしているのか。「もし私たちが謙虚であったら完全だったでしょう」と自称していたが---。

魅力的で、なおかつ売り上げに貢献する広告

リッチ 「2本とも芸術的であり、クリエイティブであり、私自身も楽しんでつくった広告だからです。しかも、 2本とも売り上げをものすごく上げたんですからね。アルカ・セルツァーはこのコマーシャルが出るまで何年間も売り上げ不振で悩んでいたのです。ところがこのコマーシャルが出た年は非常に販売が伸びて、医薬品の業界でのベストセラー商品になったのです。
ベンソン&ヘッジズ100のフィルムは、このタバコを有名銘柄の一つにまでのしあげ、1957年以来、もっとも成功したタバコのコマーシャルにまでなりました」
chuukyuu 「アルカ・セルツァーは、ジャック・ティンカー社時代の作品ですね」
リッチ 「ええ。ジャック・ティンカー社が広告代理店として初めて扱ったアカウソトがこのアル力・セルツァーだったのです。そして入社したばかりの私に担当させたのです」


chuukyuu付記】インタヴューに出てきているジャック・ティンカー社について。『メリー・ウェルズ物語』(日本経済新聞社 1972.1.29)から引用----。


ジャック・ティンカー社とは、メリー(・ウェルズ)、ディック・リッチ、スチュアート・グリーンたち(左の写真)が先週(1966.3.31)まで勤めていたジャック・ティンカー&パートナー広告代理店のことであり、ジャックとはこの代理店の中心人物で有能なクリエイターだが、最近心臓発作に悩まされているジャック・ティンカーその人である。マリオン法皇とは、マッキャン・エリクソン広告代理店やマーショーク広告代理店やジャック・ティンカー社もその傘下に入れ、世界最大の広告代理店グループを組織してその上に君臨している(アカウント畑出身の)マリオン・ハーパーJr.のことである。メリー・ウェルズを給料を2倍にしてドイル・デーン・バーンバックDDB)広告代理店から引きぬいたのもこのマリオン・ハーパーであった。(p36)


ジャック・ティンカー&パートナーズ社は、ただの広告代理店ではなかった。最初は、商品の売り方や広告計画だけを考えだして売り渡してしまういわゆるマーケティングシンクタンク的機関として設立された。1件5万ドル(注:45年前の1,800万円)というのが考案料であった。メリーが参加してから、計画書を売り渡してしまうのは採算上よくない、計画の実行まで引き受けるべきだと主張してそうすることになった(つまり、広告制作と媒体も扱う広告代理店になった)(p19)

DDBのクリエイティブ・ディレクターのボブ・ゲイジ氏が、2008年2月18日にアップした[ボブ・ゲイジについて。そしてボブ・ゲイジとの会話]で、「ジャック・ティンカー&パートナーズも、ホテルの数室の個室にとじこもっている限りでは、あんなにいい仕事はできなかったでしょう。ジャック・ティンカーが広告代理店のような活躍をはじめたのは、ホテルを去ってからです」といっているのは、企画立案機関から広告代理店になったジャック・ティンカー&パートナーズ社のことを指している。


chuukyuu 「そのころの思い出を---」
リッチ 「もう100年も昔のことのようで(笑) ---私はあの仕事をやっている時、無限の喜びを感じていました。というのは、その時までは、医薬品の広告の方法に2種類ありましてね。その1つは非常に醜い広告で売る---しかし売れることは売れるという方法。もう1つは、広告自体は魅力的ではあるけれども、売り上げはさっぱり関係がない広告です。
医薬品メーカーは、実利的な面から、醜い広告だけれども売れるというほうを選んでいたわけです。
私たちが、アルカ・セルツァーによって、魅力的で、想像力豊かなで、クリエイティブな広告で、しかもそれが売り上げに結びつく方法を示した時、クライアントは非常に喜びました。このことが、いま私が思い出せアルカ・セルツァーについての楽しい思い出です」
chuukyuu 「あなたが好きだとおっしゃった、いろんなお腹が出てくるフィルムについてのエピソードも---」
リッチ 「これは、あなたもご存じのように、どんなお腹の人の胃でもアルカ・セルツァーがなおします---というポイントでつくったコマーシャルで、いろんな人のお腹を写したものです。
たいへんな数の、そう、数トンもの絶賛の手紙が来ましたよ。中にはフラダンサーを登場させましたからね---からの抗議文もありましたね。それから、おもしろかったのは、あるご婦人からの手紙で、フィルムの中で野球選手に扮している男は、自分から逃げて数年間も行方をくらましていた夫であるから、住所を教えてくれ---と頼んできたのや、同じくコマーシャルに登場した重量上げ選手の体格がすばらしい、彼の体格の寸法と写真を送ってほしい、ピンナップしたいからという少年からの手紙もありました(笑)」
chuukyuu 「あなたが抜けてからのアルカ・セルツァーの広告についてのご意見を---」
リッチ 「それはカンベンしてください」
chuukyuu 「じゃ、あなたがこの広告代理店をおはじめになってからつくった、ベンソン&ヘッジズ100のフィルムについて---」
リッチ 「これは、クライアントも非常に気にいってくれた広告だつたんですよ。
しかし、広告界の人びとは、最初は、こんなものじゃあ失敗するの決まっているって、バカにして笑いました。結果は逆で、驚異的な売り上げをもたらしたのです」


>>(3)

ベンソン & ヘッジズ100のTV−CM【不利益な点】
フィリップ・モリス社から、著作権侵害の申し立てがあったので、ディック・リッチ氏から貰ったフィルムのYouTube を取り下げました。
代わりに拙著ブレーン別冊『アート派広告代理店---その誕生と成功』(誠文堂新光社 1968.10.15)に収録したコマ割から転載しました。
軽快なバック・ミュージックをお聞きいただけないのが残念です。



新発売ベンソン & ヘッジズ100の不都合な点。
キングサイズより長くって、慣れなくっちゃあ。
ベンソン & ヘッジズは新しいフィルター付
三服、四服、あるいは五服も多く吸えます。
慣れると手放せなくなりますよ。

エレベーターのドアにはさまれたシガレットの先端だけの印刷媒体広告もあったが、いま、手元にないので---。


>>(3)