創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(208) DDBのキャスティング部を語る(下)

   DDBキャスティング・ディレクター  ジェニファー・ジョンソン

DDBニュース』1969年6月号に掲載された記事を、『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 誠文堂新光社 1971.11.10 絶版)に収録するため、許可を得て翻訳したものです。 

ニューヨーク中の人を紹介できる

問い「撮影については? 実際に立ち会っていますか?」
ジェニファー「いいえ。本当は撮影に立ち会いたいと思っていますし、そうすれば何かが生みだせるような気もするので、いつも行く予定を立てるのですが、めったに行けません。まったく暇がないのです」
問い「オーディションをする時も、たくさんのうぬぼれ屋たちに『ダメ』と言って処理しているのでしょう? だれもが仕事を得られるわけではないのですから・あなたの処理のテクニックは?」
ジェニファー「人間の数ほどのたくさんの異なった方法でそれらを処理しています。これが俳優の場合には彼自身が自分で理由を見つけますよ。『そうでした、私は背が低すぎると思います』とか、あるいは『私は背が高すぎますね』とか『私は太りすぎていますね』とかね。ですから、俳優は仕事がとれなかったからといって不平はいいません。また、トラブルのあった人は採用しないように心がけています」
問い「オーディションの時、俳優の性格や外見に、あなたはどのくらい影響されますか? たとえば、もし、2人の人物が同程度に立派だったり声がよかったとして、しかも1人のほうが明らかに魅力的だったら、あなたはどうやってそれに対抗しますか?」
ジェニファー「そうですね。私は俳優が本読みをしている間、彼を見ないようにします。たとえ、その人が私を魅了したとしても、それは実際には問題ではありません。なぜって、私は最終決定はしませんから。最終決定をする人びと---アートディレクターとコピーライターは、出来上がったオーディション。テストのみを見て比較します。ですから、この仕事ってすごく職業的なのです。最もすぐれた仕事をする人はだれでも、根本的には使われている人間です」

いいキャスティング・ディレクターになるには---

問い「いいキャスティング・ディレクターになるには何が必要だと思いますか?」
ジェニファー「まず、よい鑑識力を持っていなければならないと思います。そして劇に関して、立派な仕事の意味についての本当の知識を必要とします。これは、なんとかして得なければならぬ何かです。必ずしも出かけて行って学べるというものではありません。
ですから私は、それ以上のことだと思うのですが、人ひげとを連れてくる際の鑑識力と正しい判断でもって、俳優に何ができるのかということを知ろうとすることができるような人物を必要とします。芸術を知ること、つまり、演技の技術やその限界を知ることも必要ですし、俳優が恐怖心を取り除くのを手伝ってやることも必要です。なぜなら、どんな俳優だって臆病になっているものですから。
それから、俳優が本来の彼になれるように手伝ってやろうとすることも必要です。言い換えれば、俳優にできるかぎりの自信と、できるかぎりの機会と、まず、できるかぎりの指導を与えてやろうとすることです。しばしば、人は俳優に『すてきにやれ』『こうであれ』『ああであれ』しかし『面白くあれ』といいます。これが私の寿命を縮めるのです」
問い「あなたは、自分のやっていることが好きですか? 仕事であなたの好きなところはどんなところですか?」
ジェニファー「自分のやっていることを愛しています。時々、愛しすぎているなと思うことがあります。また毎日、寝る前に---だれだってそうでしょうが---いったい今までに何をなし遂げたかしらと反省します。
私は一日中、賭博師か仲人かなんかのように神経をはりつめて電話をかけています。でも私は、たくさんの風変わりな人びととかかわりあっているのです。
この椅子に座っていて、実質上はニューヨークにいるだれにでも---つまり、有名であろうが、これから有名になる人であろうが、あるいは単に才能のある人であろうが---に電話をして紹介することができるということは、全くすばらしいことです。そして、仕事で私の好きなところといえば、人びとに会って、彼らをオーディションすること。なぜなら、私は自分の感情を表現するのを恐れない人が好きですし、俳優とゆうのは、普通の人よりも、偽りのない感情を表現できる人たちだからです」