創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(207) DDBのキャスティング部を語る(上)

   DDBキャスティング・ディレクター  ジェニファー・ジョンソン


DDBニュース』1969年6月号に掲載された記事を、『DDBドキュメント』(ブレーン・ブックス 誠文堂新光社 1971.11.10 絶版)に収録するため、許可を得て翻訳したものです。  

女優からキャスティング・ディレクター

問い「女優として出発したあなたが、キャスティング・ディレクターになったわけは?」
ジェニファー「女優としての仕事を得ることができなかったんですよ! ほんと。じつは、確かに、20ばかのりのテレビ番組、幾つかの夏期用のストック番組に関係し、それからオフ・ブロドウェイで、ある芝居に出ました。公演が終わると、私はFAOシュワルツ(マンハッタンの玩具専門ビル)のおもちゃ売場で働きました。そこにいた時、スクリーン・ジェイムズいる父の友人に呼ばれたのです。その人は、マリオン・ドハーティさんです。父が『クラフト・テレビ劇場』って番組をやっていた時に、そのキャスティング・ディレクターをやっていたのが彼女だつたわけ。
彼女は秘書を探しており、私はFAOシュワルツでの仕事にとてもうんざりしていたので、彼女の秘書しとて働くことにしたのです。そして、すぐに彼女のアシスタントになったのです」
問い「あなたの受けた教育は、女優やキャスティング・ディレクターに何か関係がありますか?」
ジェニファー「はい。私はベネット大学で美術と演劇を専攻し、ニューヨークにきてからは、スクール・オブ・ビジュアル・アーツで、広告と美術の課程を続けました。それから働きながら俳優学校に3年間通いました」
問い「そして、DDBに入社してからもずっと俳優を続けているのですか?」
ジェニファー「でも、私はただ、子どものための教育番組のテレビ・ショーの司会者をやっているだけですよ。それは、実際、途方もないショーなのです。全く新しい考え方に基づいた、すべて即興的なショーです。でも、いいえ、まさか。私はこれらののものを、ほんの面白さのためにだけゆっているのです・劇団クラスで教えましたが、これが最も演劇に近かったといえましょうか」
問い「どこで教えたのですか?」
ジェニファー「ハーレムで。3年ほど前、師範大学に提出するための演劇教科を組み、ベンジュミン・フランクリン高校で教えたのです。1年間教えたんですよ。DDBに入社してからも、自分の意思に従って、夜、教えることをつづけました」

キャスティング・ディレクターの仕事

問いキャスティング・ディレクターの仕事を詳しく話してください」
ジェニファー「そうですね。まず、第一に、演劇界でのすべての新人に通じていなければなりません。劇場へ行ったり、映画に行ったり、テレビを見たりしてね。常に、新しいタレントを捜すわけです」
問いタレント・エージェントを頼りにしないのですか?」
ジェニファー「全く頼りにしていません。タレント・エージェントはだめです。私は、エージェントから送られてくる2 、3人の人、あるいは私に写真を送ってきた人たちに会うため、毎週何日かの朝をとっておこうと試みています。しかし、自分の目を開いているほいが賢明です。たとえすば、この間、FDRドライブ(町名)まで私たちを引きつけた人がいましたっけ。そんなことって、それほどしょっちゅうあるわけではないんですよ。
でも、彼ときたら、ジミー・プレスリンとジャック・グリーンを足して2で割ったような人でした---。体重300ポンドですてきな顔をしていて---それで私は彼に、コマーシャルに興味があるんだったらDDBにこないかって尋ねました。それ以来、彼は、キャスティング・ディレクターとしてジェーン・ギリランドと一緒にDDBのコマーシャルをつくっているんですよ」
問い「ほかには、どんなことを?」
ジェニファー「もちろん、おもに仕事は、コマーシャルのコンテを持っているプロデューサーと打ち合わせることです。彼はそのコンテをキャスティング部長のマーガレト・サラにわたし、マーガレットはそれを私へわたします。
そのあとはプロデューサーと、アートディレクターと、コピーライターに会い、見解を決定したり---、あるいは別案を考えたり---。それから座って、ファイルとか劇場案内とかタレント・エージェントとかをひっくりかえして、だれが適役かを考えます。
案が決まると、プロデューサーやアートディレクター、コピーライターに報告し、オーディションの準備をします。時間があれば、テスト撮影をし、それから適役の人たちを連れてきて、ソニーのビデオ・テープに撮ります。あるいは、それが音声関係やラジオだったら、音声テープに吹き込みます。みんなで円卓を囲み、それを検討し、決定します」
問い「以上をやるのに、普通どのくらい時間がかかりますか?」
ジェニファー「時間と仕事によりけりですね。もしそのコマーシャルが、1週間以内にオン・エアしなければならなかったり、制作しなければならないのだったら、1週間以内でキャスティングします。一方、時間的にそれほど制約がなければ永遠に続けていてもいいわけ---死ぬまで」(つづく