創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(113)ハワード・ゴーセイジ氏とのインタヴュー(3)

(Mr. Howard Gossage President, Freeman & Gossage inc. Advertising)


「サン・フランシスコのソクラテスとの尊称をたてまつられている偉大なコピーライター---ゴーセイジ氏との対話です。
このインタヴューが、氏を、日本に最初に紹介したのでした。しかし、これによって広告ジャーナリズムが氏に注目した気配はまったくありませんでした。小さいままの規模をまもっていることは、当時の広告ジャーナリズムにとっては、歯牙にもかけない存在だったのですね。
このブログで再登場ねがわなければ、氏の存在は、日本の広告人の念頭からは完全に消えていたことでしょう。大げさにいうと、『みごとなコピーライター』誠文堂新光社 ブレーンシリーズ 1969.7.15)の最大の功績は、氏の記録を残したことかもしれません。DDBの紹介なら、ぼくがやらなければ、ほかの誰かがやったでしょうから。


ハワード・ゴーセイジ氏とのインタヴュー (1) (2)

広告のクリエイティビティとは

chuukyuu 「コピーライターになろうと決心なさった理由をおきかせいただけますか?」


ゴーセイジ「コピーライターになろうなどと決心したことはありませんよ。復員してきて、ある放送局のプロモーション・マネジャーをやっていたんですが、辞めて、1年半ほど、ヨーロッパへ行ってバリの大学に入って大学院課程をやったのです。35歳の手習いでした。
帰ってきて仕事を探すためにある広告代理店へ行ったら、コピーライターの口だけがあいていたのです。『OK』って返事をしましたが、それがぼくにできる唯一の仕事だったのです。ほんとうの話ですよ」


chuukyuu 「若いコピーライターへの忠告を---」


ゴーセイジ「ぼくに言えることは、代理店に入ったらまず、誰も見向きもしていないアカウントを見つけて、受け持つんですね。それがたいへんな勉強になりますよ。誰も『ノー』っていわないんだから---」


これは、これまで、だれも口にしたことのない策でした。たしかに、誰にとっても魅力のないアカウントを受け持って、それを自分のアイデアで飛躍させる---こんな、うまいテを教われたなんて。
これまで取材してきたDDBのみごとなコピーライターたちの発言も有用だけど、そのほとんどはDDBという強い日傘の下にいてこそのものだったような気がしてきました。
氏のこれは、サン・フランシスコという美しい町ではあるけれど、経済規模はニューヨークなどとははるかに劣る地方都市で才能を発揮したコピーライターなればこその、ユニークな着眼点です。


chuukyuu  「コビーライターにとって、最も大切な才能はなんだとお考えでしょう? また、どうすれば訓練できますか?」


ゴーセイジ「考えというほどのものは持ってはいませんが---こうではないかと思うのです。
ほかの人が見ないものを見る---ということです。そう---1人の男が入って来た時、ほかの人びとがぜんぜん見ないものを見ることでしようね。ぼくは、広告に用いられているクリエイティビティというのは、100頭の馬が駆けている時に、シマ馬が1頭混じっていると言える能力だと説明しているんですよ。そして、このシマ馬をどうするか、99頭のシマ馬じゃないほうの馬をどうするかということです。
これがほかの人が見ないものを見るということですし、クリエイティビティだと考えます。しかし、訓練の方法については、わかりません」


この99頭の馬対1頭のゼブラのたとえは、さすがに含蓄に富んでいます。広告のクリエイティブ論としてではなく、すべての分野のクリエイティブ畑の人に通じます。もっともこのブログの目的は、このような個人のクリエイティビティ開発を目指しているのではなく、クリエイティブな環境のあり方の論議を目的としているのですが。


chuukyuu 「いまでも、イーグル・シャツのコピーを書いていらっしゃる?」


ゴーセイジ「ええ。この広告が始まって以来、ぼくがずっと書いています。このアカウントは、8年前にこの代理店に来ました。このシャツは40年間も、広告というものをやったことがなかったのですが、ここへ頼みに来たのです」


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10数年前、広告に背をむけようと決心したとき、切り抜いて置いたイーグル・シャツの色刷りの広告をすべて処分してしまったので、残っているのは『みごとなコピーライター』に収録したこのモノクロに還元したこれだけ。陳謝・自省。




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