創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(36)VWビートルの広告(8)

VWビートルの広告は、18年間に300点以上も創られたはず。
当初から、写真はほとんどモノクロ。
質素で経済的な車であることを、色彩の面からも訴えるためです。
ほかのすべての車の広告は極彩色のカラーなのに。
例外もあります。
カラーのほうが、いわんとしていることが明確に伝わるときです。
たとえば、いつかもご紹介した、どの部品も取り替え可能…を印象づけたい。



一見で、受け手が了解・納得しますね。

下は、ネライが異なるカラー見開きです。
あなたを極地旅行に誘っているみたいですね。なんと豪勢な!



あなたを両極端へお連れします。

華氏40°の寒冷地から140°の酷熱の地まで。
北極圏の雪原からサハラ砂漠まで。
上の写真の奇妙な形の自動車ほどには、多種多様な気候を征服したものは自動車史上、存在しません。
ガソリン1ドル17セントもするフィンランドでも健闘しています。VWは燃費が少なくてすむのです。
オイルよりもダイヤモンドの原石を入手するほうがやさしいアンゴラでも大ヒットしたVWは、クォート単位ではなく、パイント単位のオイルですむからです。
チリでは、新車のVWは5,000ドルもしているのですよ。技術が信頼されているからです。
お金を払わなければ真水が買えないスーダンでも、売れ行きも第1位の車です。VWは水を必要としませんからね。
そして、昨年約5億9,400万リットルもの不凍液が売れた米国でさえも、不凍液不要の車という言葉が日常語になりました。
何年にもわたって、1,600万台以上ものフォルクスワーゲンが世界中すべての国々で数千kmも走っているのです。
アラバマには、96万km以上も走行しているVWがあります。
それでもまだ、この車を見ることができない人々もいます。その多くは、正直なところ、もっともっと空想的なものを心に描いているのです。
結局、かぶと虫を買うには、まだかなりの勇気がいるんです。
考え方を極端から極端へ走らせる必要がありますからね。


C/W ジョン・ノブル
A/D ロイ・グレイス
"LIFE" 1969.11.14
"LOOK" 1969.12.02



It takes you to extremes.

From 40 below to 140 above.
From the snows of the Arctic to the sands of the Sahara.
No other car model in history has conquered as many strange climates as the strange-looking car shown above.
It dose very well in finland where gasoline costs 66c a gallon. A VW does'nt use much gasoline.
It's a big hit Angola where oil is harder to get than crude diamonds. A VW uses pints of oil instead of quarts.
In Chili, people pay over $5,000 for a new VW because they believe in the way built.
It's the number one car in Sudan where the Sudanese actually have to pay for a glass of fresh water. A VW does'nt use water.
And in the U.S.A., where last year 157 million gallons of antifreeze were sold, the car that dosn't use antifreeze has become a household word.
Over the years, over 16 million Volkswagen have trooped on uncountable number of miles in every country in the world.
There was one VW in Alabama that trooped over 600,000 miles all by itself.
And yet, there are still people who just can't see it. Most of them, quite frankly, picture themselves in something much fancier.
After oil, it still takes a certain amount of courage to buy a bug.
You have to go from one extreme to the other.


C/W John Noble
A/D Roy Grace
"LIFE" 1969.11.14
"LOOK" 1969.12.02


さて、クリエイターに質問:
左の写真、VWビートルから手前の雪には足跡がついてませんね。
フォトグラファーはどうやって撮影場所まで行ったのでしょう?

点検しやすいように、クロース・アップします。



これで、思い出したことがあります。
1978年にパリ郊外アニエールにあったルイ・ヴィトンの工場へ、日本人として始めてカメラをもって取材に入りました。ヴィトン家4代目で次男のクロード工場長が案内してくれました。
ハードなスーツケースや宝石箱用の芯になる板は、フランス東部マルヌ県のポプラで、現地で3年間乾燥、工場で2年間さらに乾燥しているとのこと。
「日本のピアノ・メーカーは、強制乾燥室で短期に乾燥させている」というと、「そんなことをするのは、木を殺すようなものだ」



「耐寒耐熱試験室は?」
「そんなもの必要ない。顧客がアラスカやサファリへ行くときに携帯して、結果を教えてくれるんだ」
いい客と作り手の関係を教わりました。