創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-24 あるペア・チームの実況報告(1)

そうした珍妙な見学をするかわりに、パーカー夫人が私に話してくれた次の事例のほうが、よっぽど臨場感をもってペア・チームの会話を伝えてくれます。
それは、オーシャン・スプレーOcean Spray Cranberries, Inc.)のクランベリー・ジュースのテレビ・コマーシャルをつくった時のエピソードです。
「それは『オーシャン・スプレーのクランベリー・ジュースはどんな味か』というテーマを表現化する仕事でした。
絵のほうは、男の人が、このジュースはどんな味かと尋ねられて、それに答えようとしているってところ。
この男の人が、もっと飲みたい。
そこで、こういうわけだからもっと飲みたいんだ…と理由を述べようとする…まあ、そんなふうにつくろうとしました。
ところが、この商品には問題がありました。
というのは、その当時、このジュースの名は、ほとんど知られていませんでした。ユニークな味を持ったジュースでしたが、どんなにユニークな味かということを知っている人は、ごく少なかったんです。
ですから、私たちは、人々に、このジュースはどんな味かという好奇心を起こさせるネライにしようと話し合いました。
私たちというのは、私と、アートディレクターのトウビンさんです。
で、タイトル・ラインは、『オーシャン・スプレーのクランベリー・カクテル・ジュースは……のような味がします』と、何なにのような味というのを『……』として、文字を埋めないで置くことにしました。
こうすることによって、消費者に『どんな味がするんだい?』と思わせ、刺激し、実際に買って飲んでもらえると考えたんです。
この仕事は、急いでいて、時間がありませんでした。
1週間後には電波に乗せることになっていました。
ですから、簡単なセット撮影で済ます必要がありました。
そう、ある日の午後4時に、バーンバックさんに呼ばれて、トウビンさんと私がバーンバックさんの部屋へ行きました。
ある事情で、これまでえのフィルムを中止すること、1週間後には放送できるようにつくること…などを伝えられました。
5時半から、トウビンさんと話し合うことになってたのですが、彼はそのジュースを飲んだことがなくって、私に、『どんな味?』って問いかけました。
私が、『それは、そうね。ちょうど…なんていったらいいかしら? ちょっと説明がしにくいんだなあ…そう、曰くいいがたし』
なんてやっていたら、トウビンさんが『ロール、それをコマーシャルに使おうよ』
つまり、『オーシャン・スプレーのクランベリー・カクテル・ジュースは……のような味がします』ってタイトル・ラインが決まったのが、6時ごろでしたから30分間でできたってわけね。
その時私は、あまりにもあっけなくって、なんか申しわけないような気がしました(笑)。
でも、考えれば考えるほど、これでもいいようにも思えてきちゃって、これで行くことにしました。
それで、さっそく、残業していたアカウント・エグゼキュティブの中から、こちらのイメージに近い人を選んで、セリフを吹き込んでもらい、翌日、撮影してみました。
クライアントもそれでOK、1週間後にテレビに載せることができました。
そしたら、これがアメリカンTVフェスティバルの金賞を取っちゃって…」
この場合は、トウビン氏という、DDBに10数年在籍している大ベテラン・アートディレクターと、やはり10数年働いている大ベテラン・コピーライターのペア・チームです。
次に紹介するのは、もっと若い…それこそDDBにはいったばかりのペア・チームの例です。