創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

01-23 たった10分間で解決する

パーカー夫人は続けます。
「しかし、これだけではありません。
バーンバックさんに会いたいと思って、彼の居所を探してみると、アートディレクターの部屋で腰をおろしてクリエイティブ・チームの連中と会っている時なぞがあります。
また、ひまな時には、クリエイティブ部門の各部屋に顔を出して、あの仕事はどうだなどとか、この仕事はどうなったかなど、聞き歩いていることもあります。
あの人は、だれがどの仕事を担当しているか正確に知っています。
全部のお得意のすべての原稿のコピーを一語一句覚えています。
つい最近も、6か月前のお得意との打ち合わせで、出席者が発言したことを、バーンバックさんが一語一句正確に覚えていたので、驚きました。
お得意との打ち合わせは、たいへん興味深いものです。
バーンバックさんは、その打ち合わせが何であるかぜんぜん知らずに、ぶらりと入ってきます。
打ち合わせに耳をかたむけ、質問を2〜3しただけで、もう会議の内容を正確に把握してしまいます。
すると、バーンバックさんは司会を受けついで、私たちが1時間もかかって解決できなかったことを、たった10分間で解決しています。
逆に、しぶしぶ作品にOKをくれた日など、私たちは1日中滅入ってしまうんです」(注:『クリティビティ』第6号・山田正治訳 電通刊)

創造的な集団をつくりあげるには、共通の理念(フィロソフィー)とすぐれたリーダーが、まず必要な条件であろう、というのが、この章での私の結論です。
しかし、条件はそれだけではありません。
次章で、創造のやり方を取材してみたいと思います。(第1章 了)