創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(375)ケイス・ヒストリー〔アメリカン航空〕


1966年10月に刊行した『ブレーン別冊』のムック本『繁栄を確約する広告代理店DDB』(誠文堂新光社)のアメリカン航空の作品例を集めたセクションに、【アメリカン航空解説】と題したこんな文章を載せています。資料をどうやって入手したのか、いまとなっては思いだせませんが、たぶん、アメリカン航空DDBからもらったのでしょう。
マーケット・ファクトとして再録しておきます。


アメリカン航空解説
1964年に米国では120番目の広告予算を使う広告主にのし上がったアメリカン航空が、DDBのアカウントになったのは1961年です。 当時、ELALイスラエル航空の仕事を離れたビル・トウビン副社長がアート・スーパバイジングを、コピー・チーフのデイヴ・ライダー氏がコピーを担当し、雑誌では企業広告を、新聞では西海岸への便の多いことを訴えていました。
1961年当時のことだと思います、同航空が代理店を物色しているとの情報をキャッチしたある大代理店が、同航空社長の実兄を高給をもって副社長に迎え、莫大なプレゼンテーション費をかけてデモンストレイションをかけました。ところが、同航空の社長は、「ビジネスはビジネス」と公言して、その代理店を退け、DDBを選んだというのです。
その大代理店の幹部のひとりから聞いた話ですから、たぶん、本当のことでしょう。
1964年の同航空の広告費は、前年比26%強増しの903万ドル強。もっとも、この年の売上げも前年比11.5%増、利益は69.8%も飛躍した記録的な年でした。
1965年でもこの傾向は続き、上半期だけみますと、旅客数で1964年同期の12%増の543万4,195人。営業マイル数でいえば、米国内線では第2位の航空会社です。
機上での楽しみ、地上でのスーパー・サービスという業界の風潮に歩調を合わせて、同航空も、1964年には旅客に各種サービスを提供することになりました。機内でのシャンペン・サービスは、かなり米国人の間でも話題になっているらしく、「ロスからニューヨークまでAAに乗った」と言ったら、多くの米国人が片目をつむって、「シャンペンが出たろう?」と私にききました。ソニーとの提携による機内テレビ、アストロビジョンもけっこう楽しめました。
業務サービスとしては、手荷物制限を40ポンドに上げたり、家族料金割引を大きくしたり、割引き日数を延長したりしています。それらをテレビ・雑誌・新聞でキャンペーンしていますが、中でも1965年から開始されたサクソン氏のイラストレイションを使った戦略的イメージ・キャンペーンがたいへん話題になっています。DDB側は、アート・スーパバイジングにボブ・ゲイジ先任副社長自らがのり出したもので、サクソン氏によると、ゲイジという人は、「正しく評価するのに、2、3ヵ月かかった」が「たいへんくつろいだ、気のおけないシンプルな人なので、彼のすばやい理解力と計算器のような正確な選択が、仕事をやりやすくし、最高の仕事ができるようにしている」ということです。
したがって、ゲイジ氏とサクソン氏のコンビになるイメージ・キャンペーンは、TVコマーシャルにまで発展しています。
この戦略的キャンペーンのほかには、戦術的なねらいうちとして、たとえばニューヨーク=サンフランシスコ間の優位などがとりあげられ、また、別のキャンペーンでは、動機促進とでもいう、たまに空の旅を楽しむ人びと向けのものを用意しています。
1965年の広告予算は1,000万ドル。この年から貨物広告がDDBからバスフォード社へ移りました。


3人3様


ビル・トウビン氏の創造哲学
デザインの新しさは、紙面に描かれた線や点にデザインのトリックではなく、世界そのものの反映だと、私は思います。
デザインは、言葉や音楽や新しい建築物や交通---美しいものやそうでないもの---政治的動乱の中からさえ、霊感を受けて生まれてこなければならないと思います。
その意味でのキャンペーンとは、キャンペーンがつくられた時期にはどんなヴィジュアル・テクニックがポピュラーであろうと、そんなことには目もくれないで、アイデアをちゃんと伝えることにのみ、創造性を集中したものであると思います。


ビル・トウビン氏のアート・ディレクション


アストロジェットが、幸せな理由(わけ)は?


私たちが航空業務の最も熟練した整備部門によって、いつも彼らに細心の注意をはらってやているからです。アメリカン・エアラインのアストロジェット機は、1時間滞空につき5人時の整備を受けす。
たとえば、飛行には必ず2回「巡回点検」を受けます。
毎日1回「一時点検」を受けます。
55〜60時間の滞空後には、66人時を要する「サービス・チェック」を受けます。
毎月一度は60-70人がかかりきりで約600人を要する「定期検査」を受けます。
少なくとも飛行1,200時間ごとには、エンジンは完全にバラバラにされ、どんな小さな部品ひとつまでも検査されます。
さらに、飛行5,000時間後には、機体は完全に分解され、最初の飛行のときよりももっと進んだものにつくりあげられます。
旅なれた方は、どなたもアメリカン・エアラインをお選びになります。なぜなら。その方たちは私たち設備と、それに注意をはらう私たちのやり方がお好きだからです。




Why are Astrojets so happy?


Because they get such metriculous care from one of the most expert maintenance departments in the flying business. For every hour in the air American's Astrojets receive a minimum of 5 man-hours of maintenance on the ground. For instance.
Before every fiight they get two "walk around" inspections.
After 55-60 hours in the air, they are given a " service check" which takes 66 man hours.
Once a month they receive a "period check" that involves between 60 and 70 people, takes as many as 600 man hours.
At least 1,200 hours their engines are completely stripped down and every single part inspected.
And after 5,000 hours, the airplanes are taken entirely apart and made even more advanced than on their first flight.
Experenced travellers chose American Airline because they like our equipment and the way we take care of it.


この写真のどこに飛行機がいるか、お分かりになりますか?


雲のむこうです。正確に言えば、シカゴから189海里はなれたところです。なぜそんなに正確に言えるかって? わがアストロジェット機の機長がそう言っています。彼の推測の数字ではありません。彼のいう189海里という答は、わがアメリカン航空が採用した装置によるものです。この装置は、DME(距離測定装置)と呼ばれ、地上の信号所から200マイル離れたところから、院読み取りができます。どんなに篤い雲がさえぎっても機長はただダイヤルを見るだけで、自分がいま目的地からどのくらいの地点にあるかを知ることができます。
FAAが、このDMEをすべてのジェット航空会社で採用するようにと要請したことは、興味のあることです。わがアストロジェットは、とっくにその装置を使っていたのです。
もちろん、あなたがアストろじェットに乗られるときは、わが旅行代理者は、あなたに最適の便をdMEと同じ速さでお知らせする装置をもっています。もちろん、天和ももりでいます。それとも、あなたご自身でアメリカン航空へお電話していただけますか。




Can you guess where the Astrojet is in this picture?


The Astrojet is behind the cloud bank at J·5 --- exactly 189 nautical miles from Chicago.
How can we be so sure? Because that's where the Astrojet captain says he is.
And he isn't guessing.
His "189 nautical miles" comes from a new device now in use on every Astrojet
we fly. This device is called OME (for Distance Measuring Equipment). It gives your caotain continuou~distance readings\ from ground positions along your route.
DME sends out radio pulses from the Astrojet to a ground beacon. This beacon
can be as far away as 200 miles. The beacon automatically transmits a return pulse the instant it receives one.
A special DME circuit on the Astrojet instantly converts the time between sending and receiving a pulse into nautical miles.
No matter how cloudy it is, yo-ur Astrojet captain need only glance at the dial to find out how far he is from virtually any destination.
It might interest you to know that the FAA has set a deadline requiring all jet airliners to use DME. But Astrojets have always had this extra navigation aid.
Of course, when it comes to locating the right Astrojet for you, your travel agent has a device that's almost as fast as DME--and it has a dial. too. Or you can call American Airlines yourself.


トウビン氏のヴィジュアライズの基底には、ユーモアがありますね。
「アストロジェット機は幸せ」は、よくまあ、機体が微笑しているように見えるカメラ・アングルを見つけたな---と驚きます。長年、ELALイスラエル航空を手がけていた経験の賜物でしようか。
「この写真のどこに---」は、子どものような悪戯精神が発揮されています。読み手は、回答を読んで、「やられた!」と、大人っぽい快感をおぼえるでしょう。


関連記事:
>>ビル・トウビン氏のスピーチ「あまりにも無秩序な」


ボブ・ゲイジ氏の創造哲学

趣味のよさというものは、移ろいやすいものです。
ある環境ではよい趣味であっても、他の環境に置かれれば、悪趣味にされてしまうこともあります。
また、趣味は時間的なものによっても左右されます。朝にはよい趣味であったものが晩には悪趣味にみなされてしまいます。
ですからアートディレクターは、自分の趣味に自己満足をいだいてはいけないのです。それはその人の創造性を弱めてしまいます。自分のグラフィック・デザインが無趣味的で受身的になってしまいます。また、その時受け入れられたよい趣味だけにかぎっていると、アートディレクターは間が抜けるだけでなく、その安全だという気持ちがヴァイタリティとオリジナリティの最大の邪魔ものになるのです。

advertising layout

Good taste is a volatile thing. What is good taste in one set of circumstances may be bad
taste in another. Taste is even affected by the hands on the clock. Good taste in the morning call bebad taste at night. An art director should therefore, never be self conscious about his taste. It can paralyyze his creativeness. He can live in such fear of offending as to become sterile and passive in his graphic efforts. And, this to me is a greater sin than to be guilty~ of an occasional lapse of manners. Working within the confines of accepted good taste may make an art director feel safe, but that very
feeling of safety may be his greatest obstacle to vitality and originality. If he is to contribute to the growth of graphic communications, he must break through this prison of convention and express himself freely. Good taste can (and often does) make bad advertising.


ボブ・ゲイジ氏のアート・ディレクション


わが社のスチュワーデスは盗まれっぱなしです。


わが社のほとんどのスチュワーデスは、2年とたたないうちに、辞めて、ほかの男性のもとに走って行ってしまうのです。
驚くほうがどうかしているんですね、きっと。だって、5時間半もほほえみを浮かべていられる若い女性なんて、そうザラにはいませんからね。
申し上げるまでもないことですが、124人もの人たちが夕食に何を食べたがっているかを覚えていられる細君をみつけることもね(その上、お望みとあれば、気象現況やジェット機のことについてもお話しできるんですよ、彼女は---)。
でも、私たちが問題にしているのは、 こういったことではありません。問題はどういう女性を私たちが雇っているか、です。美人というだけではダメなんです。いいえ、それが重要じゃないと申し上げるわけじゃありませんよ。ただ美人というだけでは十分じゃないってことなんです。
つまり、私たちが求めているのは、そう、親しみのある女性です。
あなたが、彼女たちはすべての乗客に親しくしすぎるとおっしゃるのはムリといものです。
ご自分だけ---をお望みなら、スチュワーデス養成所時代の彼女をおさらいになるんですね。




People keep stealing our stewardesses.


Within 2 years, most of our stewardesses will leave us for other men.
This isn't surprising. A girl who can smile for 5 hours and half is hard to find.
Not to mention a wife who can remember what 124 people want for dinner. (And tell you all about meteorology and jets, if that's what you're looking for in a woman.)
But these things aren't what brought on our problem. It's the kind of girl we hire. Being beautiful isn't enough. We don't mean it isn't important. We iust mean it isn't enough.
So if there's one thing we look for, it's girls who like people.
And you can't do that and then tell them not to like people too much.
All you can do is put a new wing on your stewardess college to keep up with the demand.


「アリスじゃないじゃないか!」


そう、彼女はアリスじゃありません。アリスは辞めたんです。
彼女が同乗する路線の〔ご常連の方々に〕とって、彼女がいないことが、どんなに悲しいことか---ご同情申し上げます。
アリスときたら、一度ご同乗なさったあなたのお顔を、次にお乗りなるまで覚えていたんですからね。三度目はお名前までも---。
こうなれば、サッカリン入りのコーヒーを出されても、あなたはご満足なさったわけです。
アリスはどうしたのか、ですって?
お知りになりたい? 彼女は、お客さまのひとりと結婚したんです。
じつのところ、私たちが養成したスチュワーデスのほとんどが、お客さまと結婚してしまうのですよ。
(わが社のスチュワーデスときたら、2年ともたないんですからね)。
アリス嬢がいないとしても、私たちをそんなふうに見ないでください。
(ドリーか、ノーラか「可愛い赤毛のナントカちゃん」がいなかったとしても)。
彼女たちをどんどん引っこ抜いておいて、一方では飛行機の中で出会いたいなんて、ちょっと---ね。




"You're not Alice."


No, that isn't Alice.
Alice isn't with us anymore.
And we understand the "regulars" on her night aren't very happy about it.
After you flew with Alice once, she remembered your face the next time.
And your name the next time.
And that you liked your coffee with saceharin after that.
And what happened to Alice?
Well, if you must know, one of you married her.
In fact, one or another of you has married practically every stewardess we've ever had.
(It' got to the point now where we can't keep girls more than 2 years.)
So don't look at us that way if you happen to miss Alice.
(Or Doreen or Nora or "that little Miss Whoozis with the red hair.")
You can't go on removing these girls from the premises and still expect tofind them on the airplane.

サクソン氏の1コマ漫画は、『ニューヨーカー』誌でおなじみでした。ですから、このシリーズを目にしたときには、「やったッね!」と快哉するとともに、「ゲイジ氏もさすが---」とおもいました。つづいて、サクソン氏のゲイジ氏の人物観を読んで、ゲイジ氏の仕事ぶりが想像できました。深い包容力、先へ先へと考えを飛躍させていく現状懐疑、問題点をピックアップする理解力---などなど。
DDBを設立するにあたって、バーンバックさんが、アートディレクターに、すでに出来上がってしまっているポール・ランド氏でなく、ゲイジ氏を選んだわけも、おぼろげながらわかってきました。


関連記事:
>>ボブ・ゲイジについて。そしてボブ・ゲイジとの会話(5)
>>ボブ・ゲイジ氏「私は、広告が好きだ」


ヘルムート・クローン氏のアート・ディレクション


What's the score on fan-jets?


ファン・ジェットの所有機数は?


アメリカン航空のファン・ジェットのお話】

このごろでは、ファン・ジェットのことがかなり話題ににのぼるようです。別に驚きはしませんが。
ファン・ジェットは、普通のジェットより力が30%増しなのです。
より早く離陸し、より早く上昇します。
(ファン・ジェットは普通のジェットの2倍の空気をとり、2倍の力で機体を推進させます)。
ファン・ジェットのことで、も一つ。アメリカン航空ではわざわざファン・ジェットと指定なさらなくていいのです。
全米に24ある航空会社で、全機ファン・ジェットにしているのは、2社だけです。
1社はウェスタン。
もう1社がアメリカン(わが社は、ファン・ジェットをアストロ・ジェットと呼んでいます)。
上の図は、3大航空会社のファン・ジェットの所有機数を示しています。
これを見ていただけば、どの航空会社にすれば、いつもファン・ジェットで飛べるかおわかりになりますね。
(図の注:左=ユナイテッド、中=TWA、右=アメリカン)


The fan-jet climb: 30% faster than ordinary jets.

ファン・ジェットは普通のジェットより、30%早く上昇します。


アメリカン航空のファン・ジェットのお話】

これであなたは高度30,000フィートを飛べるはずです。
普通のジェットは23,000フィート。いまやファン・ジェットはこの標準を破り、独走態勢です。
しかも普通の飛行機より30%も余分の力がでます(ファン・ジェット・エンジンは普通のジェットの2倍の空気をとり、2倍の推力で機体を推進します)。
あたがファン・ジェットで空の旅をなさるということは、別の意味もあります。ファン・ジェット機アメリカン以外では、それほど数多くは、まだ、就航していないのです。 (以下省略)


0.1mmの誤差も容赦しない---って感じを受けませんか?
熟考の末に決めたフォーマットを守っていく---自分の信条を守ることを自分に課す---いうなれば、米国広告界のハードボイルドを実現したアートディレクターと呼びたいと思ってきました。
ま、この人にも軟化するときもあるので安心しましたが---ええ、ガールフレンドと会話しているとき。


関連記事:
>>ヘルムート・クローン氏とのインタビュー「レイアウトを語る」


chuukyuuアナウンス】
最新編著の新書[クルマの広告]は、12月10日に配本予定ときまりました。
カヴァーと帯A案の写真です。

帯を取り去ると、ビートルの下には、”Nobody's perfect" の文字がでてきます。