創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(775)アメリカのユダヤ人』を読む(25)

 

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権力争い 



 非難を浴びているのはユダヤ人共同体センター運動でない。
今日のユダヤ人生活内部で起こっている大戦争――宗教体制側と非宗教
体制間の権力争い――の一つの兆候なのである。
この争いはユダヤアメリカ人を二分した一世代前の闘争とは様相を異
にしている。
東欧系移民団がドイツ系定住者に挑戦した時には、持てる者対持たざる者
の戦いであった。
古参者には金と権力と社会的名声があり、新参者がそれを欲しがった。
イデオロギー抜きで生活にも同じものを求めた。
今日の争いはイデオロギー面が強い。


 宗教体制側はその考えを、利己的な動機がないかのようなロ調で論じている。
ユダヤ人の若者に、異教徒との結婚や無関心などでユダヤ教に背を向ける傾向
が強くなつているのが心配である。意見を異にする同士でも、この磨粍を食い
止めたいという願いは一つであろう。
問題を解く鍵は教育にある。
若いユダヤ人は宗教教育を受けるほど信者になりやすい。
しかしユダヤ教教育を改良拡張するには大金が必要である。
金はどこから出るのか?
もちろんユダヤ人共同体全体――つまり連合体――からでなければならない。


 つまり宗教体制側は、ユダヤ教宗教教育にもっと金を出せという一見、清浄
で率直な要請をかかげて攻撃に出たのである。
連合体側はこの要請に共感を示したが実践上の困難を指摘した。
例えばニューヨーク連合体の年間予算はほぼ2,400万ドルである。
同市のユダヤ教教育委員会はこの地区のユダヤ教宗教教育を十分に改良するには
1,000万―一1,00万ドルかかる。
それもあくまで推定でしかない。
その金はどこから出るのか?


 この疑問に答えて宗教体制側は、連合体が支援している他の事業―現在ユダヤ
教の存続に貢献していないのに巨額の金をもらっている協会や諸機関の金をまわ
せと言った。


 反対リーグやユダヤ人委員会、そしてユダヤ人会議な「末梢的」と悔蔑的に片
づけられる。
結局、ユダヤアメリカ人共同体にとっての真の危険は、反ユダヤ主義ではなく
して摩粍なのである。
それなのに何の権利があって防衛機関は、宗派を超越した対話の分野に独占的に
押し入ってくるのだ? 
それをするのは食堂の特権ではないか! 
そして例えば州都ボストソ共同体協議会は防衛機関に年間25万ドルもまわすの
に、会堂協議会にはわずか300ドルしかまわさないのはどういうことなのか?
(注1)
地方慈善機関ゼダカの要求を最も直接的に遂行している団体にも攻撃が向けられ
ている。
家庭相談所はなんのために必要なのか? 
ここへやってくるのはほとんどユダヤ人ではない。
ユダヤ人病院も同じである。
利用者の70%は非ユダヤ人である。
老人ホームもそうである。
ユダヤ人共同体には老人ホームの数が以前よりも多くなり、質も良くなった。
だが、連合体には「退化した老ユダヤ人だけに媚びる」権利があるのかというラビ
の質問を封じるわけにはいかない。


 こういったことすべてがユダヤ教宗教教育の名のもとに言われている。
だが、権力争いが真の論争のもとだというはっきりした兆侯がある。
過去10年間に連合体側は教育への配分を増してきた(注2)
昨年、教育方面にまわされた600万ドルは、1955年の58%増である。
学校側の全収入の4分の1に当たる。
後は授業料と個人寄付である。
そしてさらに、大規模な連合体は援助の拡張計画を立てており、特に誰もがその必
要性を認める高校レベルに援助がまわることになっている。
しかし問題は、連合体側が、個々の会堂に属している家庭の男女だけにしか門戸が
開かれていない会堂経営の学校よりは、自治体経営の学校を支援したがっているこ
とである。


 そこで宗教体制側は学問の自由を掲げた。
もし連合体が金を出す場合は、学校を彼ら流のやり方で経営するように要求するだろ
うと、暗に、無神論者である連合体の指導層が、ユダヤ青年の頭に無神論をこっそり
はいりこませるために、自治体経営の学校を利用すると非難した。
これに対して連合体側もいち早く答えを用意した。
同じようなことは、連合体制度ができてまもない頃にも病院や他の諸施設によって言わ
れたが、彼らはいまも完全に彼らなりの方針でやっていると。
だがこうした答えも宗教体制側には通じない。



明日に、つづく。
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