創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(748)[創造行為の四段階説](3)

 

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国内Y&Rの社長であったステファン・フランクフルト氏が
1962年11月4日に東部地区AAAA年次大会で行ったスピーチより


創造行為の四段階説 (3)


 第三段階「練金術段階」(「賢者の石」の粉末をるつぼに入れて卑金属を金銀に変ずること)

 これは、意識的な過程です。
もうすでにわかっているものを投影して、問題解決を手中におさめる方向にもって行く過程です。
これまでは不合理な方法でやってきたのです(非合理ではありませんので)。ここまでくるとも
う書類を広げたり、私信を書いたり、株式ブローカーを急報で呼んだりしてはおれません。


 勘を有効に働かせ、意識的にかつ合理的に焦点を問題に合わせて行かなければならないので
す。


 この業界には「遅滞」と考えられるものはがまんできない人がたくさんいます。
実際は、この最もがまんできない人こそ「遅滞する人」であるのです。
クリエイティブな人種は、大体において、この「遅滞する人」です。
自分でも認められることでしょう(私は例外三文文士ですが)。
もちろん、この部屋の中にもたくさんいらっしゃることでしょう(注・遅滞すなわち時間盗人です)。


私はそう思いません。
問題やインフォメーションを摂取して、その重要な要素を消化するという過程は、
決して遅滞であるとは考えません。
この過程で一生懸命やったということを証明するようなことは、なんら紙面には
表われません。
だから、 「ただ時間を盗んでいる」と考えてしまうのですが、そうではありません。
この期間に表現方法を醗酵させているのです。


 モデスのコマーシャルにしても、 「これだ」と思うまで長い間醗酵させていまし
た。


「行き詰まった時にはどうしますか?」というビル・バーンバック氏の質問に対して
答えます。
「その間題の回りを歩き回ります。
見つめます。
それについて話します。
散歩に出ます。
その問題のことは忘れてしまいます。
家へ帰って子供たちと遊びます。
映画を見ます。


 問題に関して組織的にタックルする錬金術段階までは、あなたの考えたり観察した
りしたことは、なんら問題解決に関連があるようには見えませんでしたが、ここに至
って、頭は、関連性を捜し始めます。
捜索を局限し始めます。
ここに男と少年との区別があるのです。


このクリエイティブ段階には、鍛錬が必要です。
それは苦しいものです。
訓練された自己を総適用して「何か」を紙面に表現して行かなければなりません。
私たちは、常に不調、好調にみまわれます。
イデアがないし、これからもなかなか出そうにもない表現方法をやり始めた時に壁
にあたります。
この壁を取り除くには、焦点を局限することです。
眼鏡など必要のないライターを知っていますが、彼女は一対の眼鏡を持っていて、すば
らしい広告を見つけると、かけて読んでいます。
そして、自分でも紙面に「何か」を表現しようとする時にも眼鏡をかけます。
もちろん視力になんら関係はなく、彼女のいうところによると、 「眼鏡の可視範囲外の
ものを皆閉め出してしまうのに便利」なんだそうです。


アートディレクターにも、 「さて描き始めるか」という時になりますと、その仕事と関係
のないものをオフィスからすっかり片づけてしまうという人を知っています。


クリエイティブ過程の初期においては、すべてを見、すべてを聞くことが重要でしたが、
「何か」を紙面に表現し始めたら、妨害になるものはなるべく見ないように、聞かないよう
にすることが大切です。
私なんかは、電話機は、シャット・オフ・ボタンを押してしまいます。
だから全く邪魔されません。
ここで「夜の仕事は引き合うか」「朝、昼、晩、いつがいちばんすぐれた作品ができるか」
という問に対して答えましょう。


私は、 「しなければならない時、そして、それが要求されている時」いちばんすぐれた作品
をつくれます。
リチャード・ロジャースだったと思いますが、作曲する時、 「ねばならない時に、うまい曲
ができます」といっています。


何か今までいってきた反対のことをいっているようですが、そうではありません。
この四段階説では、数日、数週間、あるいは、ほとんどまれですが、数カ月かかることもあれば、
この四サイクルが、圧縮されて数時間、1時間、そして数分で、循環してしまうこともある
のです。

頭脳は、驚くべきスピードで、数々のハードルを飛び越せる能力を持っています。
そして圧力がかかり、アドレナリンが働いていれば、解決は早くできます。
もちろん、このアートディレクターやライターが、経験、タレント、直観力の備わった職業意識
に徹していれば、のことです。
多くのクリエイティブ人種が、最初に出てきたアイデアが最もすぐれていて使用しうるアイデ
アであるということに驚きを感じるものです。
しかし、この「最初に出てきたアイデア」は、真空状態からは決して生まれるものではあり
ません。
前もって蓄積されていた「知識の井戸」からのメッセンジャーが持ってくるのです。
「朝、昼、晩、いつがいちばんよい作品ができるか?」ということに戻れば、いつだろうと関係ない
のです。
いったんやり始めたら中止したくありません。
そしてアイデアが浮かんできたら、時間がいつであろうとすぐとりかかることです。
この四段階説は一つ一つここからここまでが、この段階、というふうに区別できるものでは
ありません。前半の二つが相伴って働いたり、時には、三段階同時に進行する場合もあります。


明日に、つづく。


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