創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(725)クロード・ホプキンズ『科学的広告法』こだわり(15)


アンコール!!


反応がすごかったホプキンズの[名言]シリーズ復帰。
月曜〜金曜のウィーク・デイに、あと、10日間ほど、プレゼントします。
 (アド・エンジニアーズのクリエイターには、社内研修用として全文を配信予定)


坂本 登さん訳『科学的広告法』(1966.10.05 誠文堂新光社)より


クロード・ホプキンズの名言(9)


第12章 広告戦略――から



「成功のチャンスをつかもうとするコピーライターは、自分のかかえて
いる問題について余すところなく知識を吸収しなければならない」



「広告は怨恨のない戦争のようなものである。戦争という言葉が気に入ら
なければ、将棋のようなものといってもよい」


「他人の城砦を陥落させ、他人の商売をわが陣営の穀倉にするべく、全力
を傾倒するのが戦いの常道である。そのためには、熟練と知識が必要であ
る。訓練と経験と正しい装備も必要だ。弾薬も必要だ。それも十分に。
また、敵を甘くみてもならない」


「わが情報部の仕事が勝敗のカギを握っている。ディーラーとの同盟も必要
である。さらにわれわれは、わが軍の価値をいやが上にも高めるために、至
妙の戦略を必要とする」


「ネーミングは、最も重要な問題となることがある。当を得たネームは、そ
れ自体が広告になることもよくある。
たとえば、"小麦あられ"(Shredded Wheat)。
"小麦クリーム″(Cream of Wheat)。
"はじき米”(Puffed Rice)。
"はっかチューインガム"(Spearmint Gum)。
"椰子オーブ石鹸”(Palmolive Soap
などのように、ネームを見ただけでどんな商品かがわかるものがそれである」



「これは大きな利点といえよう。このような商品はネームを人目につくように
掲げるだけで広告目的を十分に果たし、大きな成功の要素になった」


「不利なネームもある。
"焼きコーンフレーク"(Toasted Corn Flakes)がその例である。
このほかにも、同業者のために広告してやっているようなネームの商品がたくさ
んある」


「価格もまた重要な問題である。値段が高いと抵抗を生む。商売の領域をせばめ
る傾向もある。しかし、利益を高めるために費やす経費は利益以上の意味をもつ
こともある」


「利益に関して、薄利多売こそ最大の利益をつかむ道だ、とよく言われる。キャ
ンベル・スープ、パーモリーブ石鹸、カロ・シロップ、フォード車などがその代表
例である」


「わずか10%程度の人にしかアピールしないような価格では、販売コストがい
たずらにかさむだけだ」


「商品によっては価格がいくら高くても、さして重大な問題とならないものもあ
る。むしろ高利回りのほうが重要なのである。手足にできるマメの治療薬がその
例で、このような薬の使用者は、どうせたくさん使うのではないから、値段にあ
まり頓着しない。メーカーにしても、大量に製造するものではないから、一品当
りの利幅を大きくとる必要がある」
 

「価格の高いことがかえって客の誘引力となるような商品もある。価格によって
価値判断がなされる。つまり、一般品よりも値段が高いのは一般品よりも高級だ
からだ、とみられるわけである」


「競合についても考慮を払う必要がある。敵はどれくらいいるのか。価格、品質、
主張の上で、どんな対抗手段をとっているか。それに打ち勝つにはどうすればよ
いのか。勝利をおさめたあと、わが陣営から脱走者を出さないためにはどうすれ
ばよいのか。いったい、敵陣はどの程度まで強固なのだろうか」


「分野によっては、ほとんど難攻不落のものもある。
難攻不落とまではいかないにしても、これを落とすにはかなりの努力がいる商品
がある。
新しいヒゲ剃り石鹸がその例で、顧客になれそうな人びとは、ほとんどだれもが
何かしらライバルの石鹸を使用している。しかもその大部分は現在の品でいちお
う満足し、それとは離れられないという人も多い。陥落させるのには相当強力な
アピールが必要になる」


「競合品の愛用者を個人個人の集合とみなし、これこそ敵の商品を愛用している
代表的な敵陣営の人間なのだと考えることが大切である。たとえば、プルマン車
に乗り合わせた一紳士が、彼愛用のヒゲ剃り石鹸を使用していたと仮定しよう。
この紳士の愛用の石鹸をこっちの石鹸に切り替えさすには、いったい話をどうも
っていったらいいものだろうか。たかが一人を……というなかれ。一人の人間を
わが陣営に引き入れることもできないで、数千人を追い回すことは不可能
である」


「別にこれという特長はないのだが……とメーカーは言うかもしれない。良い製
品を造っていることは確かだが、他社の製品よりズバ抜けているというわけでは
ない。商売の分け前にあずかる価値はあっても、よその製品に見られない特色な
どは何もない、というのが理由らしいが、よその会社が主張しなかったことでも、
消費者を印象づけられるものが、必ずといっていいくらい、何かあるはずである。
われわれは、それを発見しなければならないのである。外観に現われた特色を何
か持たねばならないのである。理由がないと、人びとは習慣をやめてはくれない
からなのだ」


「代用品と、それをどう避けるかの問題がある。代用品はしばしば他人の商売を
ごっそり盗み取る。だから最初にプランを立てるさい、この点を十分に考慮する
必要がある」


「ある業種の多くの開拓者が、大きな需要をつくり出す。ところがその基礎に何
らかの欠陥があって、収穫の大きな分け前を失う。それは、この開拓者たちが、
やり方によっては他の追随を許さぬ商品に仕立てられたはずのブランドを、無定
見に考え出し、それだけにたよりきったからなのである」


「ワセリンがそのいい例である。ワセリンは新しい需要を創出し、出発当初の賢
明な予防対策によってこの需要をほとんど独占した。もしこれがワセリンという
名称でなく、別の一般的な名称だったら、売上げ成績に数百万ドルの違いを生じ
ていただろう」


「ジェロー(Jell-o)、ポスタム(Postum)、ビクトローラ(Victrzla)、
コダックKodak)などはみな新造ネームで、製品の特長を表わした。
中には辞書にまで収録された名もある。造られた言葉で、排他的でありながら、
一般的な名称になった良い例である」


「これに反して、ロイヤル・ベーキング・パウダー(Royal Baking Powder)
やトーステッド・コーン・フレークス(Toasted Corn Flakes)などは、
せっかくそれぞれの分野を開拓しながら、代用品から永久に侵略される道を残して
しまった。
ホーリッダス・モルテッド・ミルク(Horlick's Malted Milk)もそうである」


「ディーラーの態度も研究の必要がある」


「小売業者間に、扱い品目を制限し、品種の重複を避け、在庫を減らす傾向が高
まってきたからである。このような傾向が諸君の製品に該当するとしたら、業者
に諸君の製品を仕入れさせるにはどうしたらいいか、業者の反対に会った場合、
それをどう説き伏せられるか……研究すべき問題はたくさんある」


「配給の問題も、決しておろそかにできない重大事である。扱い業者の少ない製品
を広告するのは弾薬の浪費である」


「以上述べた事柄は、アドマン自らが解決しなければならない諸問題のサンプルで
ある。こうしてみると、問題の解決にはいかに幅広い経験が必要であるか、その理
由が納得できたことと思う。わずか一つの見のがしがあっても、クライアントに数
百万ドルの損失を与えることになる」


「戦略に一つでも誤りがあると、キャンペーンの成功は道を絶たれてしまうことに
なりかねない。広告は、やり方しだいで2倍も容易に仕事ができ、費用を2倍も安
上がりにすることができるものである」


広告は、しばしば、非常に簡単のように見える。これぐらいなら私にだってできる、
という人はたくさんいるだろう。じじつ、そう見えるものもたくさんある。しょせん、
広告はその大部分が読者の支持に左右されるものだからである。だが広告の何
たるかを知る者なら、問題は高層ピルを建造するのと同じように容易なことではな
く、しかも問題の多くがその基礎にかかっていることを実感できるのである」