創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(497)ライターは安易に妥協しては駄目 ジョージ・グリビン(4)


梅田望夫さん『ウェブ進化論』(ちくま新書) 2006年2月10日に第1刷が発売されています。ぼくが持っているのはその初刷です。新聞広告を見た日に、水道橋ぎわにあった旭屋書店で求めました。翌日が静岡の[鬼平クラス]の講義日だったので、新幹線の往復で読みふけりました。いろいろ目をひらかされましたが、強烈だったのは、「知的資産の公開」などにより「恐竜のしっぽ」現象が実現するという予言と、全員がライターで同時に読み手になるから原稿料は限りなくタダに近づく---という警告でした。
パっと思いついたのが、これを含めて3つのブログでした。これは、タダでの「知的資産の公開」。もっとも、これまでの社会ではタダのものにはあまり価値がないという誤解があったので、いまのところ、さほどありがたがられていませんが、検索でいつでも読めることの簡便さを、いつか喜んでいただけるようになると確信しながら、毎日のアップは1,800件を超えました。


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 企業広告だったのですか?


グリビン Y&Rの自社企業広告です。ハウス・アドです。


新聞をプロモートする最初の広告を書いてルビカムのところへもっていくと、彼はすぐれたスーパバイザーなら必ずしなければいけないことをしました。
なにもいわずに最初から最後まで読んだのです。
途中まで読んで意見を述べたりはしませんでした。
最後まで読んだのです。


それから、こういいました。
「ジョージ、悪くはないが、まずい点がありはしないか考えてみよう」
これはY&Rが人びとに告げる広告だで掲載されることになっている……この広告はニューヨークの新聞に全ページで掲載されることになっている……そして人びとの日常生活のなかで、新聞がどんな意味をもつかを告げるのだ。


しかし私たちが考えなければいけないのは、この新聞の普通の読者ではない。
掲載紙のレポーターがこれを読んで、どんな反応をするかということを考えなければいけないのだ。


レポーターの観点から検討してみよう。
それから発行者の観点から見てみよう。
競合媒体の人たちの観点から見てみよう。
ラジオの関係者や雑誌の関係者はどう思うだろう……どんな反応を示すだろう? 
新聞の株主はどう思うだろう? 
この広告を読む広告人はどう思うだろう? 
これに署名するのはY&Rなのだ。


私たちはこの広告に特殊な反応を示すと思われる人たちのことをすっかり考え、彼らにふさわしい広告かどうか検討しました。


ところで、厳密には彼らにふさわしくはないけれども、いわなければならないことがありました。
しかし、いい加減には扱いませんでした。
いろいろな人たちの反応という点から判断しました。
ライノタイプを扱う人、新聞をトラックで運ぶ人、レポーター、論説委員、競争相手……考えられる関係者をすべてあげ、このようにして広告を検討すれば、完ぺきです。
広告はいちだんとよくなります。


これが、ルビカムの特徴でした。
そして、ここで働いている私たち全員の特徴でもあります
私の上役たち、ホイッチャー組、ウォード組、パトリック組……。
彼らはおなじ教育をしました。


ですから、このような態度は、私たちが広告をつくるときの、いわば第二の天性になっていました。
徹底的に、そして広く深く考えることです。


Y&Rでは、へッドラインをひとつ書いてすますわけにはいきません。

腰をおろしてヘッドラインを10も15も40も書き、そのなかから最高だと思えるものを2つか3つ選び、それから最高のヘッドラインを決定しようとするのです。

しかしスーパバイザーのところへいくと、「そうだな、あまりいいヘッドラインだとはおもわないぜ、グリブ」といわれます。
「ほかにどんなものをつくったかい?」


 つまり徹底的だということが広告のすばらしいライターの特徴だとおっしゃるのですね。
あなたが代理業のコピーライターとメイジャー・エグゼキュティブを兼ねていらっしゃったころに、一流のクリエイティブ・ピープルの特徴だと思われたことがほかにありましたか? 


それを実際にご指摘になれますか?


グリビン ええ、すぐれたライターを特徴づける第一のことは、きまり文句を避けることです。

書くものばかりでなく、会話でもきまり文句を避けるのです。
うなされたようないいまわしは、会話では使わないように注意します。

口にするいいまわしがあれば、ことばづかいに独創性があるはずです。

さもなければいいまわしは使わないでしょう。

すぐれた広告人のもうひとつの特徴は(ライターばかりでなく、広告の制作に関係している人ならだれにでも通用しますが)本をよく読むということでしょう。


 どんなものをお読みになりますか、グリビンさん? 
実際にコピーライターをなさっていたころには、どんなものをお読みになっていらっしゃいましたか?
(訳:秦 順士



明日に、つづく。