創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(495)ライターは安易に妥協しては駄目 ジョージ・グリビン(2)


20代の中ごろでした。ジェームス・W・ヤング氏『アイデアの作り方』という濃いブルーの表紙のB6サイズの小冊子をリーダーズ・ダイジェスト社からいただきました。主題について思いついたことを5×3カードに書きとめ、それがアイデアに孵化するまでの経過を提案していました。凝りましたねえ。名前入りのまで特製しました(右:縮小写真)。なにしろ、これ用のいろんな容器なんかを伊東屋や文祥堂があつかっていましたからね。5・3はインチ数で、かつての米国の郵便はがきのサイズ---つまり絵はがきの通信スペース。1件1葉の伝達スペース。
もっとも感心したのは、学校で、教授が5×3カードの使い方をまず教えているというくだり。それと、リーガル・パッド(法律用箋と訳されている黄色い横罫の便箋)を使い方を指導していること。リーガル・パッドは米国のコピーライターの原稿用紙でもあります
上記のヤング氏は、ヤング&ルビカム広告代理店の社名になっている一人です。



       ★     ★     ★


 とおっしやると? もっとくわしく説明していただけますか?


グリビン つまり、広告にしろなんにしろ、ものをうまく書くことの中心は、人間にたトする理解、洞察、同感を深めた人だと思うのです。
これは、ライターが生活に安易に妥協しないほうが、グンと深まると思います。
理解の必要、同感の必要を自分で感じれば、その必要を他の人びとの中に見ることができるものです。


 「安易な妥協」とおっしやるのは、経済的な面と心理的な面でのことですか?


グリビン 心理的にです。
もっとも、普通の人の動機になることとは、すこしずれてしまうとは思います。
とても裕福な家庭で大切に育てられた場合には。
貧しいほうが中産階級の家庭で育てられるよりもいいとは思いませんが、中産階級の家庭で育てられるほうが裕福な家庭で育てられるよりもいいと思います。


 だから、あなたの会社のライターに、たまには大衆食堂のチョック・フル・オ
ナッツ・レストランで食事するようにおすすめになるのですね?


グリビン たまにあそこで食事しないとしたら、愚の骨頂ですよ。昼食や夕食に10ドル使わない人がたくさんいることがわかって、ためになるばかりでなく、あそこの料理はとてもおいしいですからね。(笑)


 グリビンさん、あなたのご意見では、広告を書くことは、他のものを書くことと
くらべて、むずかしいですか、むずかしくないですか?


グリビン ひじょうに主観的な答になると思いますが……。
というのは、広告以外のものは、ほとんど書いたことがないからです。
でも、学生時代に新聞に書いていた経験から判断すると、ジャーナリズムよりむずかしい技術だと思いますね、たとえ
ば。しかし、ほんとうにすぐれた新聞ライター……たとえばジミー・レストンのような人……と広告ライターとをくらべると、最高度のジャーナリズムのほうが最高度の広告よりむずかしいでしょうね。

あのような解説を書くにはたとえば……レストンやウォルター・リップマンのような人の仕事には……ある製品を提示するために必要な知識よりも広い知識が必要です。


 もっと知的だとおっしやるのですね?                                            
               
グリビン もっと知的かどうかは知りませんが、コンゴの状勢についてのほうが、缶
入りスープについてよりも多くのことを知らなければいけないことは確かです。

けれども、缶入りスープのために立派な広告を書くということになると、交通事故や強盗事件について書くよりもむずかしいですよ。
交通事件や強盗事件に人びとは興味をもちますからね。
そんな話を読ませるようにするには、才能なんていりませんよ。
いま広告されている多くの製品に人びとの関心を引くには、たいへんな才能が必要です。


 コピーを書くときは簡潔なものにする必要があるということについてはいかがで
すか? 
長いスピーチの原稿より短いスピーチの原稿のほうが書くのに時間がかかる、とだれかがいっていますね。


グリビン もちろん凝縮することは、コピーを書くときのむずかしい点のひとつです。

もっとむずかしいのは、生活経験や読んだことを生かすことだと思います。

自分の知っていることのうち、人びとが興味をもつと思われることを使用して、その共通の場に製品を入れることができるわけです。

このためには、人びとの注意をひくようなヘッドラインやコピーを書くことはもちろん、注意をひくような絵を考えだす能力が必要です。
たとえば広告の絵として一個の石けんを置いただけでは、多くの人びとにその広告を見たいと思わせることはできないでしょう。
もっとおもしろい絵が生まれるようなシチュエーションを考えつかなければいけません。

それにはもちろん、こんなイメージを生むひじょうに特殊な探究心が必要です。


 あなたがおっしやっていることは、ひとつには、広告のコピーライターは広告の
アート面で、ひじょうに積極的な役割を果さなければいけない、ということですか?


グリビン ええ、いつもアート・マンといっしょに働かなければいけません。
雑誌や新聞やポスターのために書いていたころ、私はいつもアーチストといっしょに働いていました。
最高のアーチストの一人はジャック・アンソニイです。
私たちはべつべつに広告をつくったことはありませんでした。
ジャックと私はおなじオフィスにすわって、2人でピクチュア・シチュエーションを考えだし、2人でヘッドラインを書いたものです。


 「コピーを書いていたころ」とおっしやいますが、いまはどのくらいコピーを書
いていらっしやいますか?


グリビン ほとんどありません。


 書いてはいらっしやるわけですね?


グリビン たまに広告のアイデアを考えます。
それから、ときどきヘッドラインをなおしたりします。
ですが、この会社では私にはコピー以外の仕事が多すぎて、私をコピーライターに分類することはできません。


 アイデアを考えることについて、グリビンさん。アイデアを生む技術について多くの本が書かれ、いろいろなことがいわれていますが、これについてなにかご意見がおありですか? 
広告コピーの問題と取りくむときにお使いになるはっきりした技術をおもちですか? (訳・秦 順士) 



明日に、つづく。



       ★     ★     ★

      

『5人の広告作家』の原文をテキストに勉強会をしていたTCCの若手---AWAの会の人びと。

AWAの会のメンバー(当時) 50音順・敬称略)
赤井恒和、秋山晶、秋山好朗、朝倉勇、糸田時夫、岡田耕、柿沼利招、梶原正弘、金内一郎、木本和秀、国枝卓、久保丹、栗田晃、小池一子、小島厚生、清水啓一郎、鈴木康行、田中亨、中島啓雄、西部山敏子、浜本正信、星谷明、八木一郎、吉山晴康、渡辺蔚。(その他の協力者)菊川淳子、高見俊一、滝川嘉子、秦順士

示唆土屋耕一君の[東京コピーライターズクラブ設立への道]←クリック

5人の広告作家』より


バーンバック氏 広告の創り方を語るクリック


インタヴューの末尾につけた解説
バーンバックさんとDDB 西尾 忠久

5人の広告作家』より


ダヴィッド・オグルビー氏のインタビュークリック


>>『調査から導き出されたコピーライター、アートディレクター、TVプロデューサーのための97の心得』