創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(441)デラ・フェミナ著『広告界の殺し屋たち』(3)


【用法】私の信条は---製品の利点をアイデアが記憶に残るように伝えるということです(このために新鮮で独創的でなければなりません)。
もし、この世のすべてのルールを破ることでそれができるのなら、私はこれらのルールが破られることを望みます。
自分のクリエイティブ・チームに「写真を上部に置いて、ヘッドラインを次に、それからその下にボディ・コピーを置きなさい」とはいいたくありません。
一方、「そうするな」ともいいたくありません。(「ウィリアム・バーンバック氏、広告の書き方を語る」(5))( )の数字をクリックで全文が読めます。


(chuukyuu補)ルール破りのためのルール破りをすすめているのではないでしょう。最初の1行を補強するための発言なのです。




(原題『真珠湾をくれたすばらしい民族から』)の抜粋

〔黄金の10年間〕---今から振り返って、そう呼ばれている、米国の広告クリエイティブがもっとも燃えていたときの話です。


1969年にアルカ・セルツァーのマイルス薬品はティンカーからDDBへ移ってしまった。
理由はわからない。
みんな口をそろえてジヤック・ティンカー社でのすぐれた仕事をほめたたえていたことは確かである。


自分のクライアントである広告主の不服を言う広告代理店の連中は後を絶たない。
「おれのクライアントは何もやらせてくれないし、何も言わせてくれやしない」


ところが同じ広告主が別の代理店へ行くと、すばらしい広告をつくり出すのだ。


自分たちが、本当はどんなに無能であるかを悟って気がふれるのを防ぐための手段として言っているにすぎない。


「なあ、おれって野郎は無能者なのさ、だから仕事がいつもうまくいきゃあしないのだ」
なんて言い切れる男がいるだろうか?


すぐれた広告は、すぐれた主題があってこそできる。
すぐれた主題があれば、すぐれたキャンペーンができやすい。


航空会社の広告はほとんどがすばらしい。
実際、目的地広告のほとんどはすぐれている。

世界遺産に指定されたマチュ・ピチュを売ったブラニフ航空の広告



マチュ・ピチュの呪い


マチュ・ピチュでは、あなたは招かれざる客です。


インカ族が、未婚女性のかくれ家としてこの町をつくりました。 (これは、原始的なプレイボーイ・クラブのようなものです)。しかも訪問客を寄せつけないように、未知の世界のまっただ中につくったのです。
7,120フィート登ったところに、呪いがあるのです。まず、ジェット機(できれば当社の)でペルーのリマへ飛び、乗り換えてクスコへ。ここで汽車に乗り、ガタゴトゆられて幾つもの山を越え、廃墟のふもとにたどりつきます。
こんどはバス。デコボコ道を走るとホテル。
そこから残る数千フィートは歩いて登ります。頂上まで。
ここは、息もつけないほどの場所です。ここは世の中で最も壮観な場所の一つなのです。しかも魅惑的な---。
これで、なぜ、たくさんの人びとがここにくるかがおわかりになったでしょう。呪いがあるにもかかわらず。

デンマークハムレットの城の夜を謳ったスカンジナビア航空(SAS)の広告



「さあ、魔物たちの夜となった。
墓が大きな口を開き、
地獄はすさまじい毒気をこの世に吐きかける」



デンマークのエルシノアにあるハムレットの城を、夜半に訪れてどらんなさい。そうすれば、銃眼つき胸壁で射程を定め、幽霊や穀人のことを憂うつげに話しているハムレットを見かけるでしょう。
この憂鬱げなデンマークの城が、あなたの趣味にはチトうす気味悪いというのでしたら、コペンハーゲンから1時間とは離れていない距離のところにエルシノアがあることを思い出してください。
エルシノアが古代を偲ばせ、血なまぐさいのと反対に、コペンハーゲンは近代的で華やかです。コペンハーゲンの人と知り合いになれば、ハムレットなんかデンマークにおけるただ一人の憂鬱な人物だ・・・って言いきれるようになるにきまっています。
SASは、ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルス、アンカレッジ、モントリオールから、コベンはーゲン(ストックホルムオスロヘルシンキ、ベルゲン)へ飛んでいきます。春には毎週18便、そして6月1日から毎
週34便も出ていきます。もっと先へ旅を続けたいのでしたら(コベンハーゲンを去りがたい人がほとんどですが)、SASはヨーロッパ内では大西洋を越えるどの航空会社よりもたくさんの市でお役に立ってます。

免税扱いを訴求したジャマイカ政府観光局の広告



彼女の眼から数秒間でも視線をそらすことができたら、あなたは絹の格安品を掘り出すこともできるし、ローライ・フレックスだって買えるかも。


ジャマイカでは、じっと見つめることは失礼にはあたりません。
あなたが出会ったこともないような顔立ちがたくさんあるのですから。初めて見たものというのはさまざまな印象を残しますね。目、ほお骨、肌、唇、髪の毛…それぞれ別の世界に属していたものが、ここではひとつの顔の中に存在しているのです。
あなたは、絹を売る店のカウンターの向こうに、ひとりの娘をごらんになる。そして驚きになるでしょう。あの可愛らしさにはアフリカがずいぶん入っているのかな。中国系でもあるが、インド的でもある。ヨーロッパも相当あるな。でもはっきりとはわかりません。アフリカが中国に、中国がインドに、インドがヨーロッパに、混じり合っていることがあるのです。境界が不明瞭となるまで、国籍が消え失せるのです。そして現れるのは、それらのどの国にも属さない、ジャマイカだけの美しさです。その美しさが最高に現れたケースでは、繊細で、夢のような、この世のものとは思えない美しい美女の出現です。(略)
けれども、もし絹へ目を向けることがおできになりさえすれば、これは「いい買物」ということがお分かりになるはずです。アメリカでお払いになるよりも6割もお安いのです。それから、フランス製ドスキンの手袋、エジプト綿も4割方お安い。
ジャマイカの免税率は、世界でも最高の部類に属しています。シーヴァス・リーガル$5.50、 シーグラムV.O.$2.50、 12年ものジャマイカ・ラム$3.00。プロの演奏家用のジョージ・ヘドレイ手作りのコンガ・ドラム$22.00、ニコン、ツァイス・イコン、ローライ45%オフ。(略)

パリのカフェでの観光をすすめるフランス政府観光局の広告




コーヒー1杯で、これだけのすばらしいショーが見られるところが、ほかにありますか?


この次フランスへいらっしゃる時は、旅行者であることを忘れてください。一番手近かなカフェで楽しさをともにしてください(どんなに小さな田舎町でも、きっと1軒はありますから)。
椅子を引いて靴をけとばし、通り過ぎていく世界を観察してください。
1杯のコーヒーで1日中座っていてください(ウェイターは、あなたがコーヒーを飲みにきただけではないということをちゃんと知っています)。
羊乳製チーズでブランデーを飲んでください。コニャックでチーズをちびちびかじってください。
詩か絵葉書を書いてください。真昼間に恋をしてください。
休日のすべてをフラススの舗道のカフェで過ごしてもいいんですよ。コーヒー1杯分の値段で、多くの観光者が一生かかって見るよりもっと多くのものを見ることができます。
舗道のカフェの休暇は、計画するだけでも楽しいものです。


世界中のロマンチックな土地のことを語り合っている。


タヒチを扱った広告をつくって失敗する人があるだろうか?


最近の韓国航空のすぐれた広告を見たことがあるだろうか?


もちろんアカプルコの海へ若者が断崖から飛びこむのを見せたイースタン航空の広告ほどには良くないかもしれない(昨日の引例参照)。


ジャマイカを扱った広告、あるいはわが国のどの町を扱ったコマーシャルでも、それを台なしにするには無能者にでもならなければだめだ。


どの町でもたいていは何かすぐれたものをひき出すことができるものだ。


航空会社はシカゴが愉快な町でもあるかのようなコマーシャルをつくっている。
シカゴを、3時間過ごしたいと思えるような町に見せられたら、それはすばらしい広告だといえよう。


だが、デトロイトのようなところは、ちょっと骨が折れる。
デトロイトを扱ったコマーシャルですぐれたコマーシャルがあるだろうか?


目的地広告は世界一やさしい技だ。


私がDKG(デルハンティ・カーニット&ゲラー)にいた頃、ポルトガル航空を扱っていた。
飛行機を見せる必要はなかった。
その飛行機の到着先を見せればよかった。
私たちはとても美しい広告をつくり出した。


ポルトガルは広告におあつらえ向きのすばらしい国だったからだ。


だがおもしろいのは、広告界には偉大なる自由主義者がいて、この人たちがつくっている周知の独裁国のための広告もすばらしいという事実である。

広告ともなると政治的信念などは省いてしまう人がいるのだから愉快だ。


わずかな時間であなたをナチ航空で飛ばさせたり、ブードゥー教注・米国南部と西インド請島の黒人間の密教)の身じたくをととのえてハイチヘ飛びたたせようとする人だっているのだから。


広告の質は何を言わなければならないかで変わってくる。


保険の広告だったら簡単だ。
株式の広告をするのもすばらしい。


60秒で写真ができあがるようなポラロイド・カメラの広告も簡単だが、たいへんなのは石けんの広告づくりである。