創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(315) ボルボの広告(9)

エド・マケイブ氏にこの時にした質問は、多くの才能のあるコピーライターとアートディレクターが、〔クリエイティブ・ブティック〕と呼ばれていた小広告代理店がオープンし、それなりに繁盛していたからです。それらの代理店が、その後どうなったかは、無責任ですが、興味の対象をほかへ移したので、知りません。あと、マケイブ氏は、自作の好きな作品を2点あげたのですが、ボルボはその中に入っていなかったので、別の機会に掲出しましょう。一つは、大気汚染反対の市民団体の抗議広告です---そういえば、カール・アリー広告代理店時代、ボルボとSAS(スカンジナビア航空)の広告だけはやらなかったと言ってましたが、どちらも大気汚染のモトだからかな。(冗談)


エド・マケイブ(Edward McCabe)氏とのインタヴュー (3)


コピーライターが自分の代理店を開くには---

chuukyuu「自分の代理店を開くことができるコピーライターには、良いコピーをつくる以外に別の才能が必要ですか? あるとすれば、それはどんな才能でしょう?」
ケイブ氏「それは、あなたが組む人物によって違ってきますね。その人物が仕事の上で十分すぐれたマネジメントの才能を持っているのなら、あなたがそれを持っている必要はないのです。しかし、あなたは、人を上手に使って、その人たちに良い仕事をさせるという才能を持たなければなりません。彼らができないと彼ら自身思っている種類のことをするのを助けてやることもできるでしょう。もしそういう才能を持っていないのでしたら,経験豊富でそういう才能を持った人を雇ったほうがいいでしょう。そしてそういう人間と、経験の浅い人びとから何かをうまくひき出せる、そういう能力を併せ持ったら、その時はほんとうに代理店を開く準備が万端整ったというところでしょう」

この、他人の力をうまく使うことのできる才能というのは、簡単にいえば「動機づけ」のうまい人ということでしょう。それについては、拙著『創造と環境』(ブレーンブックス)をお読みください。

chuukyuu注】『創造と環境』は、当ブログのタイトルでもあり、左掲書は全文を収録しています。


chuukyuu「どこかの代理店に勤めていらっしゃった時と自分の代理店を開いてからでは、広告のつくり方に違いがありますか?」
ケイブ氏「ええ、他の代理店に勤めていた時と比べるとすべての点で満足できませんね。つまり、良い代理店で働けば働くほど、満足していられなくなるということです。
その代理店が良ければ良いほど、自分の仕事にたいして批判的になります。
すぐれた仕事をすることが自分にとって大切になればなるほど、自然、すべてのことを満足することが少なくなっていきます。が良くなれば良くなるほど、それに満足していられなくなるってとこでしょうか」
chuukyuu「コピーライティングの訓練は、どのようになさいましたか?」
ケイブ氏「良い環境のところで働き、良いものでも悪いものでもなんでもピックアップするんですね。それで、自分自身が正しく行動でき、悪いものはとり除くということにおいて十分賢明であることを願うほかありませんね」


良いコピーを書く、あるいは良いコピーライターになるためのコツは、たぶん、ベテラン・ライターの数だけ多種多様にあるのでしょう、こうして、いろんなライターからそれを聞き出しているのも、公式化するためではなく、ヴァラエティがあるということを再確認するためです。


移動型ライターと定住型ライター

chuukyuu「米国では、自分のキャリアが増すとともに、どんどん会社を変わっていくコピーライターと、一つの代理店にじっと長くいていっそう才能を伸ばしていくライターがいるようですが、実際にそういった2つのタイプというものがあるんでしょうか?」
ケイブ氏「確かにおっしゃるように2つのタイプがあります。私は、この2つのタイプの両方を行なっています。自分で代理店を開く前に、ある結論に達したのですよ。一つの代理店にじっといて仕事をつづけてる人のほうが、たぶん暮らしむきがいいというね。
というのは、そういう人はもうすでにたくさんの仕事をしていて、あることを実際に証明してきているからです。会社をどんどん変わっていく人は、自分たちがした良い仕事について大きなことを言えます。しかし彼らは失敗しそうだったから会社を変わったかもしれないのだという可能性を決して認めないのです。失敗した味を知らなければ、成功の味をほんとうに感じることはないのですから、私はそのことを一つの恥だと思いますね。
良くも悪くもない普通の代理店で途中まで出世の道を進んだところだったら、よそのマネジメントがもっとたくさん給料を払うと申し出てきても、そういう状態まできていることですし、断ったというのは、お金を儲けるために飛びまわっているよりも、自分が力を持っていると考えられる場所で働くほうが大切ですからね。
結局のところ、誰もがあなたを雇うことに恐れを感じるでしょう。そしてみんながあなたはすぐに出ていってしまう人間だからと考えているため、株式も分けてくれないでしょう。
飛びまわってばかりいたら、決して利益があがるほどまで、一つの場所に長くいるということができやしませんよ。それで40歳か50歳になってごらんなさい。結局はとるに足りない人物で終わりってことになってしまいます。確かに才能のある人物にはなれますが、結局とるに足ない人物には違いありませんからね」


ボルボのプリント・キャンペーンを検討中のサム・スカリ氏(クリエイティブ・ディレクター)とエド・マケイブ氏(コピ−・ディレクター)


普通、米国の有能なコピーライターが会社を変わる場合は、取締役の地位を約束されるか、担当アカウントから生まれる利益の何パーセントかを約束されると開いています。マケイブ氏がバカらしい移動と呼んでいるのは、後者の場合でしょうか? とにかく、あまりはっきりしない発言でした。


つづく


chuukyuu注】いまのIT産業のクリエイター畑にも似たような状況があるのではないでしょうか。


今は大型車を買う時代では
ありません。
今は小型車を買う時代でも
ありません。
今は両者を兼ね備えた車を
買う時代です。


エネルギー危機のため、多くの人々が先を競って大型車を小型車に切り変えています。
中には危機は去ったとして、今も大型車を買う人もいます。
でも情勢を真に分析している人は、もっと理にかなった投資をしています。
ボルボを買っているのです。
ボルボ144の食は細い方です。人気のあるほとんどの大型車より70%近くも燃費がすぐれています。でも大量の人間と物を飲みこみます。
前部座席には6フィート以上の大人が楽々座れます。後部座席は大人3人。
そして大きなトランクはグレムリンムスタング?を合わせたくらい物が入ります。
それに、ボルボには標準装備がおどろくほどたくさんあります。色ガラス、リア・ウィンドゥ・デフロスター、自由自在に調節のきくバケットシート、燃料噴射装置、4輪パワー・ディスクブレーキ、ホワイトウォール・ラジアルタイヤ。でも以上の装備を積みこんでいても、ボルボは機敏です。最小回転半径はフォルクスワーゲンのかぶと虫より小さいほど。
なのにどうして不都合な大型車と不都合な小型車の中から選ぼうとするのです?
どちらもやめて。ボルボを選びましょう。


媒体『タイム』誌1974年8月号


つづく