創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(112)ソニーテレビの広告(13)


この回も8インチのサン・セット。


ところで、拙著『売る』(日本経済新聞社 1971.3.10刊 絶版)の「新しい生活習慣を売る」の項に、こんなことを書いていた。
米国ソニーの最高責任者であった盛田昭夫副社長が直々に広告代理店としてDDBを選んだ。1963年のことである。DDBは当時米国で15,6位の規模の広告代理店だったが、フォルクスワーゲンの広告キャンペーンを成功させて名声を高めていた。盛田さんがDDBに目をつけた理由の一つも、VWの広告に感激したからと。そのことを知った米国VW社の総支配人が盛田副社長とDDBバーンバック社長を昼食に招待して引き合わせた。
盛田さんから直かに聞いたところによると、バーンバック氏との会話はこんなふうに展開したそうである。


バーンバックDDBをより発展させるために幹部会を開いて、見込みクライアントをリストアップしました。そして、日本からはソニーを選びました。DDBソニーに興味をもっています」


盛田氏「いったい、いくらぐらいの年間広告予算で引き受けてくださるのですか?」


バーンバックDDBが現在引き受けている最低年間広告予算は100万ドルです」


盛田氏ソニートランジスタ・テレビとトランジスタ・ラジオで、年間50万ドルの予算しかありません、もちろん、やがて、もっと増えると思っていますが---」 


バーンバックDDBソニーに興味を持っています。よろしい、50万ドルで引き受けましょう」


こうしてDDBソニーを選び、フィリコ(米国の電機会社)を断った。


ソニーの消音装置

朝食を静かに、黙って愉しみたいときには、ソニーのコードを壁のプラグに差し込んで ください。そして完全な静寂がお望みのときは、奥さんを、このソニーへつないでください。新製品です。
イヤホーンつき。太陽光線の遮断スクリーンがついているので、朝のまぶしい光でも画面が光りません。画面の大きさは8インチ(対角線の寸法)。家の中を静かにするのに十分なサイズです。
コーヒー沸かしや、 トースターのコードでブラブが満員なら、充電式電池から電源をとることもできます。(戸外にテレビを持ち出すときは特に便利です)。
でも物事は公平が大切。おしゃべりの主がズボンをはいている男性の場合もあります。あなたが、静かに朝食を摂りたいと思っておいでの奥さまなら---。




The Sony Silencer


If you're a man who craves peace & quiet at breakfast, plug this Sony into the wall. For total silence, plug your wife into this Sony. It's brand new.
It has an earphone. A sunglass screen to cut down the morning glare. And an 8"
picture (measured diagonally). And that's big enough to keep a harem quiet.
If the coffee pot and toaster hog all the outlets, you can run it on a rechargeable battery pack. (Which comes in handy when you want to run it out of the house.)
But fair's fair. Sometimes the talker wears the pants. So---if you're a lady who craves peace & quiet breakfast---.

盛田前会長とバーンバックさんの冥福を祈る。