創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(255)『メリー・ウェルズ物語』(了)

こうして38年ぶりに作品倉庫を探してみて、1部の広告プルーフやTV-CMが行方不明になっているのにあらためて驚きました。億近い自腹の金と、10年という時間を注ぎこんで収集・記録した資料ですから---。
そうはいっても、自分が「もう外国の広告にはかかりあわない」と30数年前に決めて、管理を怠ったせいでもあり、あちこちに寄贈してしまっていたのも原因の一つなので、自業自得です。完全な形で紹介できなくて申し訳ありませんでした。まあ、無料ブログということで、ご容赦ください。

第7章 100万ドルのボーナス(了)

▼名前はジョーンズ

デラ・フェミナが『広告界の殺し屋たち』で、100万ドル・キャンペーンについて「すぐれたキャンペーンとしてのすべての要素をそなえている。おもしろいし、すてきなコマーシャルも暗示するし---」と書いていた。
WRGがつくったTV-CMは、乗客、従業員の双方に語りかけているようにつくられている。というのは、100万ドルのボーナスは、乗からの投票によって決められるからである。
その投票用紙はTWAのカウンターで客が受け取るボーディング・カード(搭乗券)入れに印刷されている。
そこには1.予約サービス 2.搭乗待ち時間 3.機内でのサービス 4.機内食の質 5.到着後のサービス---の5つのチェック欄があり、旅客はそれぞれのサービス段階で幸福にされたらOK、「不幸」だったら「NO」と記入し、かつわかればサービス賞に推薦する従業員名も書くように依頼している。
このキャンペーンの内容を表現した1本のコマーシャルをご紹介しよう。

空港TWAビルにタクシーで乗りつけた中年客に、スカイキャップ(荷物運び人)がにこやかに話しかける。
「どちらまで?」
「シカゴ」
「お疲れでしょう」
「いや、タクシーできたから---」
「いえ、お疲れのはずです。さあ、私の肩に---」
とまるで客を抱きかかえるようにし、もう一方の手にスーツケースを持ってカウンターへ導く。
その間も「私はジョーンズです」と自分を売り込む。
チェック・イン係が、
「お名前は?」
「ジョーンズ---いや、テーラーです」
と言いなおす。
この間にスカイ・キャップは案内係の女性に車椅子を用意させ、強引に客を座らせて、搭乗ゲートまでは知らせる。驚く客に、しつこく、
「ジョーンズをお忘れなく。J、O、N、E、S---ジョーンズですよ」
と叫ぶ。


Youtube


画面は底抜けに明るい笑顔のジョーンズの大仰な動作で、いささかサービスの押し売り気味だが、それで爆笑を誘っている。
メリーの着眼もそこにあって、
「乗客は自分が大切に扱われるのだから、悪い気がするはずがありません」
と記者団に強調した。

chuukyuuからのメッセージ】 『メリー・ウェルズ物語』を終わります。
ご愛読、深謝。