創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(246)『メリー・ウェルズ物語』(21)

]衝撃的だった「不公平な比較]キャンペーンは、そういつまでも続けられるものではない。衝撃力が弱まってくるし、読み手のほうでも飽きてくる。むずかしいのは、次の手である。その一つ---レイアウトでは「不公平な比較」の印象を持続しながら、「公平な比較]へ移行していったお手並みも、なかなかのものでありました。その1例を文末に掲出。 (この章の入力には、アド・エンジニアーズの安田さん(コピーライター)・浅利さん(コピーライター)・桑島さん(デザイナー)・小林さん(プロデューサー)のお力を借りています。感謝)

第6章 もっとセクシーな車を・・・(了)

ロールスロイスと比べる


アンバサダーという高級車にクーラーを標準装備することを、メリーはアメリカン・モーターズに進言した。
メリーのいい分によると、アンバサダーは同社では最高級の車であるにもかかわらず、外観を飾りたてたシボレーやフォードのような普及車とほとんど見分けがつかなくなっているというのである。
アメリカン・モーターズの首脳陣は即座にメリーの意見に同意した。
WRGが考えだした新アンバサダーのコマーシャルは、ロールスロイスキャデラックとの間にアンバサダーが駐車するというものであった。
メリーはこう説明した。
「アンバサダーがどのメーカーのどの車にとってかわるものであるかを明確に示すのです」
印刷媒体の広告では『ロールスロイスとアンバサダーの不公平な比較』(図版)という見出しで、「クーラーが標準装備になっているアンバサダー。
同値段クラスのシボレー・インペラやフォード・ギャラクシーでは比べものになりません。
私たちが比較の対象に選んだのはロールスロイスのシルバーシャドー4ドア・サルーン
申し上げるまでもなく19,600ドルのシルバーシャドーは非のうちどころのないできです。
2,918ドルのアンバサダーがロールスロイスと同じ部品でつくられているなどとはおこがましくて、とてもいえません。
しかし、ロールスロイスもアンバサダーと同様、クーラーが標準装備。
類似点はこれだけではありません……」
と、リクライニング・シート、ユニット構造のボディが同じだとか、天井はロールスロイスよりもキャデラックのほうが高く、そのキャデラックよりもアンバサダーのほうがもっと高い……などと主張する。
そして「何といっても、ロールスロイスは誰でもが買えるという車ではありませんからね」としめくくる。
ロールスロイスのシルバーシャドーはオーナー・ドライバーの多いアメリカ向けにつくられた話題のパーソナルカーであるが、2万ドル(約700万円)近い値段のためにさすがのアメリカ人でもよほどでなければ手が出ない。
その最高級車と3,000ドル(約100万円)弱のアンバサダーを比べたのだから、この広告は評判になった。(円対ドル換算率は、取材当時の固定相場1ドル=360円のまま)


もう一方では、世界の経済車として知られている「かぶと虫」フォルクスワーゲンを引きあいに出して「この国に入ってくる外車勢に対抗した唯一の(米)国産車ランブラー」と、ここでも「不公平な比較」をしてみせた広告(図版)など、まさに手あたり次第……としかいいようのない自由自在さであった。


【chuukyuu注】VWとランブラーを比較した広告は、当ブログ[6分間の道草]『かぶと虫の図版100選』テキスト(13)参照。
※chuukyuuが「悪戯(いたずら)」を仕掛けました。どうぞ、(13)をクリックして苦笑なさってみてください。

▼アイデアの勝利

WRGのこの「不公平な比較」キャンペーンの成果はどうであったかというと、ものすごい注目を集めた。
ここに、ある統計がある。
テレビ・コマーシャルの衝撃力(注目率と記憶度)を示したものである。

フォルクスワーゲン  620
アメリカン・モーターズ  580
プリムス  351
<乗用車平均>  243
ダッジ  243
フォード  165
シボレー    90


というわけで、アメリカン・モーターズのキャンペーンの衝撃力は圧倒的だ。

シボレーの6倍以上、フォードの約4倍。
ということは、シボレーの6分の1、フォードの4分の1の広告予算であっても十分に太刀打ちできるということである。
これがアイデアの強さというものだ。
ほとんどの広告の教科書は、アイデアの衝撃力を抜かして書かれている。
なぜかというと、広告の教科書を書くような人にはアイデアの貧弱な人が多く、したがって、その効き目に自信がないので、最も大切な章を飛ばしてしまうのである。
イデアの効果に言及していない広告の教科書なんて「クリープのはいってないコーヒーみたい」だ。
ところで、アイデアの強さはわかったが、アメリカン・モーターズの車は実際に売れたのかね……とお聞きになりたい方にお教えする。
メリーに頼むまでのアメリカン・モーターズ市場占有率は3%だった。
ところが、メリーのキャンペーンが始まると、それが5%近くまで上昇したのである。
つまり、現実に販売が伸びたのである。メリーは勝ったのだ。
そして、フォードのアイアコーカ副社長の予言は外れたのである。
勝利を得たメリーは、いつまでも「不公平な比較」にこだわってはいなかった。
1970年にはいると、チャピン会長を登場させた署名入り広告(図版)をプランした。
それは、『私は、車に不相応なお金を払うことを喜んでいる人はいないと思います』というチャピン会長の言葉を見出しに使ったもので、
「金融逼迫の今日、アメリカン・モーターズは相変わらずの価値ある車をつくって売上げを伸ばしています。たとえばホーネットは、競争相手がコンパクトカーには装備できなかったものをそなえています。
トップ・セリングのコンパクトと比較しても、ホーネットのほうがホィールベースが長く、前後の輪間距離も広く、馬力もあります。
グラブボックスやカウンターバランスのフードといったつまらない部分は手を抜いて、顧客からは感謝されています。
トップセリングのコンパクトではV8エンジンや4ドアのものは入手できませんね。
そこで私たちは、ホーネットによりぜいたくな仕様に変えうるフレキシビリティを与えました。
さらにまた私たちは、ぜいたくという観点から普及車市場を調べて、いわれているぜいたくさが単に上っ面だけのものだということも確かめました。
ぜいたくさを主張している場合、絶対に欠かせない必要部分をけちっていないかどうか……」
といった調子で、アンバサダー、ジャベリン、レベル、AMXなどの全車種に言及し、
「車をご覧になる時に注意すべき点はアイデアです。
イデアならどなたにも見られるはずです。
イデアこそが価値です。
今日では、アイデアの意味が以前にもまして重くなっています。
私は、車に不相応なお金を払うことを喜んでいる人はいないと思います」
と結んでいる。
「アイデアこそが価値」とは、まさにメリーらしい言葉だ。
そう、メリーを中心とするウェルズ・リッチ・グリーン社が、ニューヨーク市に1,000社近くもある広告代理店の中でも際立った存在として認められているのも「アイデア」があるからである。
ところで、アイデアとは何であろう。
それは、人々の心に新鮮な興味を起こさせるものだ。
それは、一つのものを他のものと違ったものに見せる工夫だ。
ある人は、アイデアとは在来のものの2つ以上の異なった組み合わせである……と定義づけている。
この定義づけは、アイデアのつくり方を示しているが、アイデアの価値については語っていない。
だからぼくは、先述のように説明した方がいいと思うのである。
(この章 了) 敬称略

自社製品同士の【公平な比較


ロマンスの花を咲かせるときはジャべリンに乗って、結婚したらレベルに乗り替える人がいます。

美しいボディ、優秀なメカニックを備えているのが、私たちのジャベリンです。
レベルだって同じです。それは美しい外観を見ただけではわからない良さが、実際に乗っていただけばわかるのです。
乗ってみようと思うならレベルです。レベルはきっとあなたの心を強くとらえることでしょう。
そして、#1 圧縮ピストンリングには普通使われているクローム・リングのかわりにモりプデン・リングが使われているという具合にこまかいところまで美しい仕上げが施されています。
この高価な「驚異の摩耗防止装置」は、シリンダーの壁のいたみをやわらげ、しかもリング交換費用を節約します。
レベルの電圧調整器はトランジスター化されていますですからソリッド・ステートです。故障が起きても部品をパラすための、高い修理代に頭を痛めることはありません。
前車輪のショックアブソーバはうまくできていて、 どろ道、デコポコ道,、石の多い道でも大丈夫、ぶつけて高い修理代など払う必要はありません。
レベルはコイル抵抗装置付ですから、冷えたエソジンもすぐにかかります.バッテリの浪費を防ぎます。
私たちは、この美しい車から騒音を追放しようと、戦車のようにボディとフレームを一つにまとめました。
レベルには、車体をガタガタにするボディ・ボルトがありません。
レベルはも どの車よりも車内がゆったりしています(5,600ドルもするインペリアルにだって負けません)。
もしあなたが奥さんやお子さんをお持ちなら、考えてもいい車です。
普通のファミリー・カーを買おうかとお迷いにならないで、 レベルにお決めになったったらいかがですか?
私たちがお届けするレベルは、単なるファミリー・カーじゃないのですよ。
あまりお高くない値段で。大きなきれいな車が手に入れられるって点もお忘れなく。


予告:
あすからは、第8章 化粧品は「ラブ」の2文字