創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(245)『メリー・ウェルズ物語』(20)

2008年2月25日の当ブログ[故・向井 敏くん、ありがとう]に彼の文章を引いたのは、38年前、DDBやWRGのチョウチンを持つために彼らを紹介したのではなく、当時、米国で起きていた広告クリエイティブの地殻変動を報知するためだったことを分かってもらうためでした。個人の意識変革にとどまらず、組織(環境)にも作用していることを考察するためだったことを。だから、変化の本質だけを執拗に追いました。当時は分かってもらえませんでした。それで、バカバカしくなって、取材をやめました。今になって、やはり正しく紹介していたんだと分かってもらえそうな気がしています(この章の入力には、アド・エンジニアーズの原田さん(コピーライター)・染川さん(コピーライター)・林さん(デザイナー)・稲毛さん(デザイナー)・鍋田さん(デザイナー)のお力を借りています。感謝。)

第6章 もっとセクシーな車を・・・(6)

▼ 「ミスター」をつけて呼ぶ


メリーと初対面の時、たいていの男性はちょっと身構えるという。
タフで利巧で横柄な職業婦人……といった先入観が彼らをそうさせるのであろう。しかし実際のメリーに接すると、彼らはたちまち心の武装を解除してしまう。
メリーは誰に対しても「ミスター」と敬称をつけて話しかけるし相手の話にはていねいに相槌をうつ。
口調もおだやかでしかもためらうところがない。
少女時代の演劇修業で身につけた発声法のたまものであろう。
化粧も薄くほとんど素顔に近いとさえいえる。着ているものもシンプルなデザインの洋服の時が多い。
ついでだから彼女の洋服についてつけ加えておくと、メリー自身が、
「私は洋服のことには、ほんとうのところ興味がないのです。それに、選んだり楽しんだりする時間もありません。でも、いつも人さまの前に出る仕事なものですから、今日風に見えるようにだけは心掛けています」
と告白しているように、自分では買いには出かけない。すべてをバーグドーフ・グッドマンのジョー・ヒューゲス嬢にまかせっぱなしにしている。
もちろん、メリーといえども妻として夫のハーディング・ロレンスの衣類は彼女自身が選ぶようにしているそうである。
また彼女は好きなデザイナーとしてアメリカではビル・ブラス、ドナルド・ブルックス、ルディ・ジャーリッチ、ポーリン・トリゲールなどの名を挙げ、パリではサロン・ローラン、ピエール・カルダンなどのブティックで買うともいっている。
靴はエミリオ・プッチのものがいちばん好きだという。
とにかく、シンプルな洋服姿のメリーに会うと、男性は対決しようとしていた自分を恥じるという。
そしてメリーの特性である頑固なまでに片意地な気性すらチャーミングなものに思えてくるというから不思議だ。

▼主治医を雇ったのだから

アメリカン・モーターズ側に最初のアイデアを説明した時のメリーの態度は、まさに片意地であり魅力的であった。
「お客の全部が、クローム鍍金や500馬力のエンジンだけに関心を示すとは限りません。つまり、私たちがしなければならないことは、競争相手の車よりこっちの車のほうが魅力的であると主張することよりも、私たちが心をこめて車をつくっていることを示すことです」
そう言ってから、メリーはシンボル・マークを変えることを提案した。
そのマークというのはAMという文字を円で囲んだデザインのもので、ほんの数カ月前に、チャピン会長がすべての印刷物や看板類に使用するように命令したばかりであった。
メリーは主張した。
「マークなんてものは『大メーカーがここにいますよ』と叫んでいるように思われるだけです。
アメリカン・モーターズというすてきな名前があるというのに、なぜ、わかりにくいマークなんかを使わねばならないのですか?」
チャピン会長は「なぜって……1年半も使ってきたことだし……」とつまりながら答えた。
メリーは冷ややかに、
「チャピンさん。私たちは新しいアメリカン・モーターズからのメッセージを人々に伝えようとしているのですよ。彼らに、今までと同じ広告と思われては困るのです。もちろん、あなたは私たちに『絶対に使え』と命令なさることもできます。しかし、そうなさることは、コマーシャルから魅力を奪い去ってしまうことになるのですよ、チャピンさん」
結局チャピン会長はメリーの提案をのまざるを得なかった。
「わかりました。私たちはあなた方を主治医のつもりで雇ったのだから、今後一切、くちばしをはさまないようにしましょう」
確かに広告代理店を雇うことは主治医を雇うようなものだ。主治医に対して、「先生、この処方箋は私の好みに合いませんな」と反対する患者はいない。
しかし広告代理店に対しては「そのアイデアは私の好みに合わない」という広告主が多い。
もちろん、一方的に広告主の横暴ときめつけるわけにはいかない。
広告界には医師のような資格試験がないので、きのうまでアイスクリームを売っていた男が「きょうから広告屋だ」と自称することもできるのだから……。
しかし、メリーのようにすぐれた実績を持ち、しかもアイデアに富んだ広告人を雇った場合には、その言葉を主治医の言葉と同じように採用したほうが賢明というものである。


続く >>

アメリカン・モーターズが輸入販売した小型大衆車【グレムリン



車を1台買える余裕のある方なら、グレムリン2台持てます。


1970年4月1日 輸入大衆車についてのお知らせ。
アメリカン・モーターズ社が、アメリカ車になかったグレムリンを輸入します。
2人がけ1,879ドル。4人がけ1,959ドル。
グレムリンの燃費はでどのアメ車よりもすぐれています。満タンだと500マイル走行。オイル交換は6000マイルごと。タイヤ交換は2万4000マイルごと。
バンパーからバンパーはフォルクスワーゲンより2インチと半分長いだけ。 でも、回転半径はVWより3フィート短い。 グレムリンのほかにだれが駐車のラクな車を作りえましょうか。
このサイズの車に関しては、クレムリンは高速道路での走行は順調そのもの(中略)。
アメリカにドライブの新しい楽しみをもたらします。




If you can afford a car you can afford two Gremlins.


Until April 1, 1970, only an impported economy car could make that statement.
Then Amclican Motors introduced the Gremlin. And America had a car priced to compete with the imports. The two-passenger Gremlin lists for $1,879, the four-passenger for $1,959.
The Gremlin gets the best mileage of any car made in America. It goes about 500 miles on a tank of gas. It normally goes 6,000 miles between oil changes, 24,000 behveen lube jobs.
From bumper to bumper, it's just 2.1/2 inches longer than a Volkswagen. Yet its turning circle
is 3 feet less than VW's. Which makes the Gremlin about the easiest car in the world to park and handle.
For a car this size, the Gremlin does surprisingly well on expressways. It is 10 inches wider
7 inches lower and 765 pounds heavier than a VW, which means a smoother more stable ride. And its 128 hpengine goes from 0 to 6O in 15.3 seconds.
Aside from all these practical advantages. the Gremlin gives you something no imported economy car could ever offer.
The fun of driving the new American car.