創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(212) ボブ・ゲイジについて。そしてボブ・ゲイジとの会話(4)

   『CA(Communication Arts)』誌 1966年 Vol.2より

DDBの場合、バーンバックさんという精神的な支柱になるボスがいることはもちろんだが、ほんとうのところは、クライアントの方から頼んでくるから、意志が通せるんだとわかっていても、周囲に刺激しあえる仲間がいるから、お互いに伸びるし、実力以上のものが出せるのかも---と、つい、思ってしまう。広告の質をあげるのはクリエイターの責任もあるが、依頼主の責任のほうが多いんじゃないのかなぁ。

ゲイジのTV−CM論


ゲイジがTVのことを話すと、印刷媒体にもTV-CMにも同じ個性を与えるべきだという確信には、同じように強いものをもっている。
「広告代理店は最近まで印刷媒体とTVの間にはっきりした線を引いてきました。形式的に、いつも、一人の人が印刷媒体を手がけ、もう一人の人がTV-CMを創っていたのです。DDBではそれは愚かしいことと考えられています」
「TV-CMにも印刷媒体で見られるものと同じバイタリティに同じアイデアを使います。ただ媒体の違いがあるだけです。その媒体のフィーリングを捉えてしまえば、クリエイティブ人種ならどんな媒体でも使いこなせます。印刷媒体のアートディレクターにとって、TV-CMは、ただもう一つほかの特性(小道具)を差し出しているだけです」
「コピーライターからADにもなれるとか、ADもコピーライターになれるとか、そんなことまで私は言うつもりはありません。DDBでは、コピーライターもアートディレクターも「広告制作者 アド・メーカー」と呼んでいるのです。

TV-CMのアートデイレクターのゲイジの見方


TVではボブ・ゲイジは、小さな輪の中で働いているように見える。ボブは、ポラロイドとアメリカン航空の仕事を、アンガー&エリオットのマイク・エリオットとマイケル・ネビアとやり、クラッカー・ジャックとジャマイカ観光局の仕事をローズ・マクウッドのアーネスト・キャパロスとやり、アキュトロン時計とポラロイドの仕事をテレビ・ビデオのジャックス・レテリエールとやっている。音楽はミッチ・リーと一緒に担当している。


ここで、マイク・エリオットが登場。


「ボブ・ゲイジと何年にもわたって一緒に仕事をしていれば、彼がどれだけTVに対して尽くしてきてかおわかりになると思います。ボブは、ルール・ブックは窓から投げ捨ててしまいました。ボブは自分が欲っしているものを知っていたのです。そしてこの媒体にそれを表現させてしまったのです」


「ボブは、TVはモーション・ピクチャー(活動写真)であるという伝説を破りました。ぼくたちは、取り決めと制限のある動作をもつスチール写真を使っています。TVでモーション・ピクチャーを真似するのはやめてしまいました。今では、映画がTVを真似ています」


「ゲイジは、どのアイデアでも自分のものに固執するということはありません。ボブは、自分のはっきりしたアイデアをもって現われはしますが、それを補強するものがあれば、すぐに取りいれます。もちろん、それはボブの赤ん坊はありますが、赤ん坊の手足はボブのものではないのです」


「ボブは一緒に働くのにすばらしい男です。‘もの静か’でめったに叫ばず、それでいて一つのアイデアを追求するという点においては、確固たる人なのです。そしてボブは、撮影をいつ止め、いつまで続けるかということを知っています。ボブの才能は、編集の時にもっともよく表われます。ボブには、どれをカットし、どういうふうに編集するかということに対する一種のセンスがあるのです」


「ボブがなしとげたことを見ると、あなたはきっと、彼が傲慢なエクゼクティブのように振舞い始めるのではないかって思われるでしょうが、ボブはまったく始めたころと同じ彼なのです。ボブの強みは、そのシンプルさです。ボブはすべてのものをシンプルにします。そして信じ得るものに---」


「ボブは、彼が使うキャストに、人間になれ、俳優になるなと強います。撮影中に誰かが鼻をほじれば、それがゲイジにとっては、いいことなのです」


TV CF for Burlington Mid-Length Socks


chuukyuuの感想】シンプルということでいうと、このTV-CMほど、シンプルなのは少ない。言葉がなくても、意図が完全に伝わるのだから。
国際TV−CMコンクールで、審査員を引きつけるのは、言葉ぬきで了解できることもその一つかと思う。


chuukyuu補足】末尾の織物のパターンは、バーリントンという企業が、織物メーカーだったため、ファッション素材を提供するだけだったので、米国でも最大級の織物メーカーという消費者の認識が極端に薄かったので、織物メーカーといイメージをすべてのCMにトレーラーしたわけです。
日本でも、従業員採用に島根県辺りに行くと、明星ラーメンのほうが東レの何倍もの企業と思われていたといいます。