創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(137)レオン・メドウ氏とのインタヴュー(6)

    (Mr. Leon Meadow Vice-President, Administrator Copy Dept. DDB

6分間は5分より長く、10分より短い、1時間の10分の1です、読むのは6分。しかしいつか、この道草について60分考えることになります。あるいは6日間…


レオン・メドウ氏とのインタヴュー
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好きな自作は、ベター・ヴィジョン協会とフランス政府観光局(つづき)

メドウ「もう一つの好きな自作---フランス政府観光局のシリーズは、フランスの1959年にやってきて、翌年からスタートしました」

1959年といえば、ちょうど米国VW社がクライアントとなって、VWビートルのキャンペーンによってDDBが注目を集めていたころです。ぼくの米誌---定期購読していたニューヨーカー誌と『ライフ』誌、そのほかは神田神保町古書店で古雑誌の束を買っていました---のうちの『ニューヨーカー』に誌面広告がカラーで載っており、VWビートルの広告とともに切り取るのが夜なべ仕事でした。
テレビ・コマーシャルの存在は、DDBを訪問してメドウ氏をインタヴューするまで知りませんでした。

メドウ「好きな自作は、フランスの歴史的な名所旧跡を扱ったものです。それは、見る人に対していかにも自分もその観光の現場に居合わせているというような感じを起こさせるようにつくりました。
たとえば、カメラベルサイユ宮殿の鏡の間を写して、そして解説が入り、『その昔、マダム・ポンピドーがダンスしたベルサイドの鏡の間を歩いてみてください』とというのです。
それからシャトルへ行き、「かつて偉大な王妃がひざまづいた有名なカテドラルにひざまづく』のです。
そのほかフランスのいろんな名所旧跡が写ってジャンヌ・ダルクの記念像のあと、最後に凱旋門へくる、ということになります。

メドウ氏がもっとも気にいっている自作の一つにあげたフランス政府観光局のTV-CM

アナウンサー「ベルサイユ宮殿の有名な鏡の間であなたの姿をうつしてごらんなさい

−−−そう、マリー・アントワネツトがかつてしたように。

つぎは、かつてネル王妃がひざまづいて祈りをささげたニール大聖堂にも行ってごらんなさい。

ちょっとの距離にあるシノン城へも足をのばしましょう。
フランスを救った聖女ジャンヌ・ダルクの歴史が秘められているところです。

フランスにいらっしゃい。

歴史が生きている国へ」

メドウ「これはとっても美しく編集されていて、視覚に訴えた時、フランスがじつに美しい国であり、さらに、フランスの華麗さの中に、あたかも招待されているかのような形式にしたのです。
しらずしらずのうちに、フランスの雰囲気の中に人を誘い入れるというような形、そのフランスの観光シーズンの中に自分自身も参加してしまう、というような趣向のものでした」

テレビという媒体は、人を現場にいるような錯覚に陥らせる魔力を秘めています。『ニューヨーカー』に載せる雑誌広告は、より知的に---たとえはピントはずれかもしれませんが、常盤新平さんも納得してしまうように語りかけるべきでしょう。

メドウ氏が担当したフランス政府観光局の雑誌広告の例



ようこそ!

コンコルド広場はゴシゴシときれいに洗われて輝いています。4つ星印のレストランのソムリエは、ことしはワインのあたり年になるだろうと言っています。そして田舎からは鵞鳥が丸々と肥っていると報告してきています。ルイ王が去って以来初めて、ベルサイユはキャンドルの灯に輝いています。ルーヴルは26のホールに劇的な古代美術を展示しています。私たちは、絵のように美しいたくさんの城を新しいホテルに改装しました。パリからニースまでの道も花で満たすように計画しています。あなたに美しい旅をしていただくためです。




パリっ子、パリに帰る---もっともふさわしいお客さまを、いま、パリへ−−−
パリは、パリっ子たちが街に戻る秋に生き返ります。レストランやビストロがほんとうに美味しいフランスの味を取り戻すのです。劇場もオペラも花やかに---芸術の秋の開場です。ファッション・シーズンの真っ只中、あらゆるものすべてが真っ盛り。しかも、夏の暑さは去りました。いまこそ、米国人をパリへ送る秋(とき)----パリっ子を知るために---生きている、ざわめいているほんとうのフランスらしさいパリを知らせる時です。



コーヒー1杯で、これだけのすばらしいショーが見られるところが、ほかにありますか?
この次フランスへいらっしゃる時は、旅行者であることを忘れてください。一番手近かなカフェで楽しさをともにしてください(どんなに小さな田舎町でも、きっと1軒はありますから)。
椅子を引いて靴をけとばし、通り過ぎていく世界を観察してください。
1杯のコーヒーで1日中座っていてください(ウェイターは、あなたがコーヒーを飲みにきただけではないということをちゃんと知っています)。
羊乳製チーズでブランデーを飲んでください。コニャックでチーズをちびちびかじってください。
詩か絵葉書を書いてください。真昼間に恋をしてください。
休日のすべてをフラススの舗道のカフェで過ごしてもいいんですよ。コーヒー1杯分の値段で、多くの観光者が一生かかって見るよりもっと多くのものを見ることができます。
舗道のカフェの休暇は、計画するだけでも楽しいものです。

(注:この雑誌広告のコピーは、なんと、かの、メリー・ウェルズ夫人でした。彼女がDDBを去ったあと、メドウ氏が担当したようですね。ウェルズ夫人のことは、ADVERTISING; Wells, Rich, Green And Others Expand - The New York Times)。
(つづく)