創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(104)ポーラ・グリーン夫人とのインタヴュー(3)

(DDB, Vice President, Management Creative Supervisor)

当時の米国の第一級のコピーヘライターたちの考え方を聞きだすには、会話の形でしか記録できなかった。
『みごとなコピーライター』(誠文堂新光社 ブレーンシリーズ 1969.7.15)と続編『劇的なコピーライター』 (同 1971.3.10)は、あわせて24人のコピーライターとのインタビューで成り立っている。


日本のコピーライターの地位をすこしでもあげておければという気持ちから、ニューヨークをはじめサンフランシスコまで取材してまとめた。
収録したうち5人はすでに紹介ずみ。ポーラ・グリーン夫人は6人目(もっとも、この順番にはなんの企みもない)。
ポーラ・グリーン夫人とのインタヴュー(1) (2)

アカウント・ウーマンになりたかった(つづき)


chuukyuu 「ご主人が再び学校へ入学され、あなたも再びお勤めになったのですが、そこは?」


グリーン「今度は、セブンティーン誌のセールス・プロモーションのほうに入りました。
入ってしばらく経って、その雑誌のプロモーション・マネジャーになってしまいました。雑誌の宣伝のためいろんなパンフレット類や広告の文章などをディレクティングしながら書くことになりました。
そして、そこでの仕事にも飽きてきたころに、たまたまある広告代理店にいた友人から、自分のところへ来ないか、とても面白いから、と誘われ、それじゃあ行こうかしらという気になったんです」


chuukyuu「その代理店は?」


グリーン「ガンビナーというところ。で、それが最後で、そのあと、DDBに来ることになったわけなんですけれど、要するに、わたしのキャリアは、雑誌社と広告代理店の両方をあちこち移動していたといえますね。
ここでちょっとつけ加えますと、わたしがDDBに来る前にいたガンビナー代理店では、アカウントのほうの仕事をしていました。アシスタント・アカウント・エグゼクティブをやっていました。もちろんコピーのほうもやっていましたが、いろいろなことをやっていたんです。コピー、それからアカウントのほう、そのほかのコンタクトのようなこともね。
ですから、DDBに来ないかというネッド・ドイル(Ned Doyle)さんからの話があった時には、わたしは「アカウントのほうはどうかしら?」と言ったの。そしたらドイルさんは「それはちょっとね。やっぱり、あなたはコピーのほうが向いてるんじゃないかな」と言うんで、それでロビンソン夫人に会うことになったの。でも、その当時、アカウント・ウーマンというのはいなかったので、わたしはそちらのほうでやってもいいなと思ったんですよ」


このグリーン夫人の発言には、ちょっと驚きました。というのは、日本では、コピーライターにアカウントマンになれ---というと、たいていの場合、嫌がられるからです。
(もちろん、コピーライターがクライアントと直接に接触して、方針を確認したり、作品の説明をすることはしょっちゅうですが)。

コピーライターという職業の魅力


しかしグリーン夫人は、エイビス・レンタカーをはじめとする数々のすぐれた広告を手がけたのですから、やっぱりドイル氏の見たとおり、コピーライターになったよかったのではないでしょうか。
そこで、言葉を変えて、次のように質問してみました。


chuukyuu「あなたは、なぜコピーライティングという仕事をずっと続けていらっしゃいますが、コピーライターという職業の魅力は?」


グリーン「とにかく、好きなんです。いま自分の持っているバックグラウンドとか、経験でもってわたしがつけるであろうような職業、その中でもいろんな意味で最も報われることの多い職業だからです。
この仕事は、一般の人生、またビジネスのいろいろな面に、直接、非常に興味深く接触させてくれます。この仕事のクリエイティブな面を通じて現代のアートの世界の、最も生き生きとして、興味深い面に触れることができます。
たとえば、グラフィック、映画、音楽、演劇、才能のあるいろいろな人たち、たとえば俳優さん、カメラマン、ディレクターなどとの接触です。ですからある意味では、生きているフィルムメーキングに関係しますから、現在、最も生き生きとしているアートじゃないかと思います。
もう一つの面、広告っていうのは、物を売るためのものですから、いま物を売る、ということのためにクリエイティブであるわけですから、当然この仕事は、ビジネスの最もエキサイティングな面にいつも接触するわけですね。
大会社の重役といった人たちと、新しいアイデアのことを話したり、流通の問題だとかマーケティングのことなどをいろいろ話し合う機会があります。そして、売り込みのためには、どういうものが必要であるということが要求されます。
ですから、こういう仕事をしていますと、ビジネスに対する直感、またそれと同時に、クリエイティブな面に関する直感、このふ2つが要求されます。
本当に、この仕事ほど、わたしを米国の生活のありとあらゆる面に接触させるものは、ちょっとほかにはないんじゃないかしら。とくにアーティスティックなひとつの説得というもの、それから、米国におけるビジネスというもの、この両方に対するセンスを同時に要求する---こういう職業は、ほかにはなかなかないと思うの。
あるひとつのアイデアをつくる時には、もちろん、ビジネスのことを考えなきゃあなりませんし、マーケティングがどうなっているかという経済ばかりじゃなくって、もっといっそう広い目でこの国の社会ということを、全体から考えていかなきゃなりません。
ちょっとしたひとつのキャンペーンが、社会的に非常に大きな影響をもつことがあります。ですから、毎日働いている社会の重要な現象に、これほど密接に接触させる職業を、いまちょっとほかに、わたしには考えあたりません。そういうわけで、わたしはこの仕事が好きです」

ポーラ・グリーン夫人の名前を広告界に残すことになったエイビス・シリーズだが、この作品が彼女の手になったものかどうかは未詳。


Will success spoil Avis?


成功はエイビスを
スポイルするのでしょうか?

ローマ帝国になにが起きたのか)

わが社の幹部役員の一人(彼自身、自分のことだと承知しています)はこのごろ、週末に3連休を取っています。
ボートの購入を計画してのが数名。
従業員専用の駐車場に停めてある、スポーツカー3台とインペリアル2台がここから見えます。
もっと一所懸命にやった結果がこれ?!
これでは、わが社の先行きが心配にもなります。
会社が大きくなるにつれて非能率になり、人間味を失ってしまうのはよくある話です。
わが社が1位になったら、満タンじゃない、ワイパーもまともには働かないプリマスをお渡しすることになるのでしょうか?
笑顔も、営業用のつくり笑いになるのでしょうか?
成功は私たちをスポイルするのでしょうか? そうなるかもしれませんね。
そうなったら、ちゃんとやってる2位の会社をお探しください。

              (訳:浅利奨吾 & chuukyuu)


ポーラ・グリーン夫人との、もう一つのインタヴュー記録。
いわゆる「DDBルック」を語る(1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (了)


これまでにアーカイブしたエイビス・キャンペーン
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