創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(90)バーンバック氏、広告の書き方を語る(了)

東京コピーライターズ・クラブ編『5人の広告作家』(新光社堂新光社1966.3.25)からの転載。

バーンバック氏、広告の書き方を語る』
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 ものを書くということに対する考え方についてはどうですか? ただ単に製品について書くのですか? その製品の品質に逆らってまでも?
バーンバック 人間が考えていることは、かならずその人の書きものに影響すると私たちは信じています。
ご存じのように、私たちはジョンソン(大統領選挙)キャンペーンを手がけました。信じているからです。私たちは決して反対にまわることはないでしよう。どんなにたくさんのお金を積まれても、私たちはそうしなかったでしょう。

注:この選挙キャンペーンは、VWビートルの広告に惚れたケネディ大統領が生前に、次の大統領選に出馬するときはぜひ頼むということで、民主党との約束ができていたが、あの突発的惨事で、おはちがジョンソンにまわったものの、DDBとしては約束を果たす結果になったらしい。
その後、DDBのある幹部は非公式に、あれは、わが社にしては最低の商品を広告した形になってしまった、きわめて稀な例だ、と笑って打ち明けてくれた。
懲りたDDBは、政治広告は個人で参加するのはいいが、社としてはあつかわないと決めた)。


あなたの信じていることは、もしあなたが深く信じていれば、そしてそのことについてよく知っているならば、たとえあなたが競争相手と同じような技量を持っていなくても必ずうまくいくものなのです。
もし深い信頼と技量の両方を持っていたら、鬼に金棒です。
 バーンバックさん、あなたがこれまでに発表されたたくさんの広告の中で、ご自身のお気に入りはどれですか?
バーンバック そうですね。ご存じのようにオーバックス(衣料中心の百貨店)のキャンペーンをはじめたのは私です。そしてもう17年もこれをやっています。
ですから、これに深い愛情を感じています。たとえば、猫の広告もやりました。どれのことをいっているのか、お分かりと思いますが---。

ジョーンの秘密がわかりましてよ

彼女の話すのをお聞きになったら、あなただってきっと、この人ったら名士録に載るほどの人だなってお思いになってよ。でも、私、彼女の秘密をつかみましたことよ。ご主人が銀行家だろう---ですって? とんでもございません。銀行口座すらありませんわ。それに彼女の住んでいるあの邸宅だって抵当に入っているのよ! 想像できて? それなのにあんなにたくさんの衣装! ええ、もちろん、彼女は着こなし上手ですわ。 でも、ほんとうのところ、ミンクのストールやパリ製のスーヅや、あんなにたくさんの衣装が、ご主人の収入で買えるとお思いになれる? そこなの、私の発見は---ジェーンを尾行しましたのよ、そしたら彼女、オーバックスから出てきましたわ!


 これはコピーライターズ・ホール・オブ・フェイム(『名誉の殿堂』)入りした人たち全部に聞いてきたことなのですが、もしあなたに息子さんがあって、その子がコピーライターの仕事に入りたいといったら、あなたはなんとおっしゃいますか?
バーンバック いま、あなたに申しあげたとまったく同じことをいうでしょうね。