創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(89)バーンバック氏、広告の書き方を語る(6)

東京コピーライターズ・クラブ編『5人の広告作家』誠文堂新光社1966.3.25)からの転載。

バーンバック氏、広告の書き方を語る』
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 恐らく、誰でも、ある時期に人や事件によって影響されるものと思いますが、あなたはコピーライターとしての人生で、なにかそんなことがおありですか?
バーンバック ええ、それは、もう、たくさん。私はむかし、音楽の学生でした。そしてすばらしい個性をもった音楽の先生をもちました。長じてその先生の手ほどきをうけるようになって、自分のものの見方というものを形作るようになりました。
あなたもお分かりのように、あなたは今まであなたの上にふりかかってきたことの結果として生じたものがあなたなのです。
だから、ここで、どれが大きな影響を与えたというようなことは私にはできません。それは、これらすべてのものの総合なのですから。
さらにいいたいのは、広告をつくるうえでの成功でもっとも重要な要素は、製品そのものだということです。このことを十分にいう機会が、これまであまり、なかったように思います。あるいは十分に強調することもできなかったようにおもいます。
というのは、すぐれた広告キャンペーンは悪い製品をより早く失墜させると考えているからです。 それがよくない製品であるということを、すぐれた広告によって人びとがどんどん知ってしまうようになるからです。
重要なことのすべては、私たちが広告代理店としてクライアントといっしょにその製品をよくしようと、改良点を見つけ、大衆に欲しい気持ちを起こさせるような方法を捜し、製品に付け加えるものやチェンジを探しているわけは、製品そのものが決め手だからです。

(注:DDBは40年前に製品の改良点やこんな製品があったらいいという提案をするスタイリング部を創設している)。

なぜなら、あながそれを持っている時は、あなたが大衆にほかで買うことができないものを売ろうとしていることになるのです。
そこでいま、その利点を伝えるのに非常にうまいやり方を加えるならば、あなたはゲームに勝つことになります。
でも、あなたの腕がどんなにすばらしくとも、ない利点をつくりだすことはできないのです。そしてもしあなたがそれをつくりだせば、たとえそれが手品のしかけにすぎなくても、いずれは落ちてしまうのです。
ですから、私たちは、広告の手品で自分をごまかそうとは決して思いません。
魔法は製品の中にあるのです。
だから、私たちはクライアントが大切だとおもうのです。
私たちがよいクライアントをもっているということは、ほんとうに幸せなことだといつも思います。

ここへ、VWビートルのこの広告が挿入されている。


不良品

このVWは船積みされませんでした。車体の1ヶ所のクロームがはがれ、しみになっているので取替えなければならないからです。およそ目につくことがないと思われほどのものですが---クルト・クローナーという検査員が発見したのです。
当社のウルフスブルグの工場では、3,389人が一つの作業にあたっています。VWを生産工程ごとに検査するために、です(日産3,000台のVWがつくられています。だから、車より検査員のほうが多いのです)。
あらゆるショック・アブソーバーがテストされます(抜き取り検査ではダメなのです)。
ウィンドーシールドも全車が検査されます。何台ものVWが、とうてい肉眼では見えないような外装のかすり疵のために不合格となりました。
最終検査がまたすごい! VWの検査員は1台ずつ車検台まで走らせていって、189のチェック・ポイントを引っぱり回し、自動ブレーキスタンドへ向けて放ちます。それで50台に1台のVWに対して”No"をいうのです。
この細部にわたる準備が他の車よりもVWを長持ちさせ、維持費を少なくさせるのです。
(中古VWが他の車に比べて高価なわけもこれです)。
私たちは不良品をもぎとります。
あなたはお値打ち品をどうぞ。




Lemon

This Volkswagen missed the boat.
The chrome strip on the glove compartment is blemished and must be replaced. Chances are you wouldn't have noticed it; Inspector Kurt Kroner did.
There are 3,389 men at our Wolfsburg factory with only one job: to inspect Volkswagens at each stage of production. (3000 Volkswagens are produced daily; there are more inspectors than cars.)
Every shock absorber is tested (spot checking won't do), every windshield is scanned.
VWs have been rejected for surface scratches barely visible to the eye.
Final inspection is really something! VW inspectors run each car off the line onto the Funktionsprufstand (car test stand), tote up 189 check points, gun ahead to the automatic brake stand, and say "no" to one VW out of fifty.
This preoccupation with detail means the VW lasts longer and requires less maintenance, by and large, than other cars. (It also means a used VW depreciates less than any other car.)
We pluck the lemons; you get the plums.




(注:「不良品」というヘッドラインにきまった秘話と、「不良品」をDDBが自社の哲学を語る広告に引いた例は、 ■[6分間の道草](81)『かぶと虫の図版100選』テキスト(了)

 もうこの質問にはお答えになったのですが、もう少し質問させてください。とくにこれまですばらしい成功をおさめているような人びとは、たんにその製品が嫌いだからとということで、ある種の製品について書きたがらないことがままあるものですが、あなたもどの製品について、こんなことをお感じになっていらっしゃいますか?
バーンバック ええ、ご存じでしょうが---
 たばこですか?
バーンバック たばこの広告はやりません。

(注: バーンバック氏自身は50年も前から、たばこは百害あって一利なしと考えて、DDBでは広告を扱わないし、自分も吸わないが、社員が吸うことは禁じていない。しかし、幹部たちは吸わない人が多い。
ぼくはその頃は吸っていたので、取材するたびに恥ずかしかった。いまは禁煙して23年になる)。