創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(62)『かぶと虫の図版100選』テキスト(7)


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VWの広告の文体は、『未亡人』をつくることで決まった

ダイナ・ショアが突如としてフェアモントいちごに変わってしまういきさつこそ、まさにクリエイティビティ(創造性)そのものといえる。
そこのところを、ある人は霊感と呼び、またある人は孵化と名づけている。
しかし、なんと呼ぼうと、原理的には、二つ以上の既存のものの異なった組み合わせである。
クローン氏は、フェアモントいちごとVWを組み合わせてしまったのである。「これはこれだけでも大きな違いです」とクローン氏自身がいっているように、たいへんな発見である。


クローン「ぼくは伝統的なレイアウトAを採用しました。これは普通、よく使われているものです。

紙面の2/3が写真、1/3がコピー・プロック、その間にヘッドラインを入れて、コピーは3段組みというレイアウトです。

ぼくは写真を変えました。回りにごたごたとものを置かずに、一切、飾り気なしで車の写真だけを見せました。

ほかに少し変えたことは、コピーをセリフ(ひげ)のある字体でなく、サンセリフ体で組んだことです」

問い「あなたの前には、だれもそういうことはやらなかったのですか?」

クローン「このレイアウトでは誰もやりませんでした。エディトリアル風でサンセリフを使うというのはね」

VWの広告が持っている魔力は、すでに多くの人びとによつて解剖されている。たとえば、アド・エイジ誌(1963.2.4号)の「VWの広告が出るたびに、引用しないでおくことは困難なほどだ。そして、一つ一つが、お互いに非常によく似ているのだから驚くに値する。さらに驚くべきは、VWの広告が、すばらしいアート、珍しいレイアウト、気のきいた見出しや本文などに際立っているのではないということだ」という一文に代表されるように、それは、外見にあるのではなくって、他の製品とは異なった主張をしているからである---と結論するのが普通である。
それはそのとおりなのだが、クローン氏の言葉にもあるように、広告の外見を異ならせるための十分の努力が払われていることにも注意すべきだ---と最近、ぼくは思い始めた。

次のクローン氏自身の言葉は、その点を十分に語っている。

クローンVWビートルの最初の広告をつくる時、実際にカミソリの刃を使って切り、《未亡人》(日本でいうクワタ)をつくり、それをコピー・ブロックに貼りこんで、コピー担当のジュリアン・ケーニグに示して、こうなるように書いてくれと頼みました。
コピー・ブロックが四角く固まってしまうのを、意識的に避けたのです。
2つに分けられると感じた文章は、そのことをジュリアンに言って、もう一つの段落をつくりました。
コピーの組み方を、ガートルード・スタイン風(米国の女流詩人)に見せたかったのです。このレイアウトは、現実に、新しいコピーの組み方に影響をおよぼしました。

図:ガートルード風とグレイ・マッス
ガートルード風文字組み見本

グレイ・マスの組見本
 
のちに、バーンバックさんが《主語・動詞・目的語》と呼んだ、あのコピーの書き方です」

確かに、VWの広告の文体は簡潔で力強く、それまでの饒舌で装飾過剰だった広告とは、まるで異なる。そこのところを、バーンバックさんも、「VWの広告で、レイアウトは非常にシンプルでわかりやすく、清潔です。活字はクラシックで、装飾的でなく、広告文の文体は機能的で直截です。主語・動詞・目的語です」とあとで解説している。
しかし、あとでならどうともいえる。肝心なのは、制作の過程である。クローン氏たちがどう考えながらキャンペーンを組み立てたかである。


VWビートルの雑誌広告は、節約、正直、経済的---などを言外に訴求するために単色広告が主だが、カラーのほうが印象的な主題もある。


うへッ!

なんともはや、恐ろしいフォルクスワーゲンの写真です。
私たちじゃありません。
私たちは、めったにかぶと虫を見切り市に出したりしません。それは、たぶん、私たちにはそういったシステムが理解できないからかも知れません。
新車同然の車を残品見切り市にかけたりする気持ちがわかりません。
毎年売れ残りの車が出るのなら、そんなにたくさん造らなければいいじゃないですか、ね?
まだまだ新車と呼べるというのに、なぜ価格はどんどん下がって行ってしまうのでしょう?
先週買ったばかりの車の改訂値段を見なければならないオーナーはどんな感じがするのでしょうね?
形がどんどん変わって行くのに、ディーラーはどうやって部品を手元に揃えたらいいのでしょう?
どうやったら修理工は自分のしていることを覚えていられるのでしょう?
まったく混乱してしまいます。
私たちは、遅れているのか進んでいるのか、どっちかでしょうね。




Ugh.

This is an awful picture of a Volkswagen.
It's just not us.
We don't go in much for trading bees or sales jamborees or cssorted powwows.
Maybe it's because we don't quite understand the system.
We've never figured out why they run clearance sales on brand new cars.
If there are cars left over every year,why make so many in the first place?
And how come the price goes down, even though the cars are still brand new? How does the poof guy who bought one last week feel about this week's prices?
How can a dealer keep enough parts on hand when they all keep changing?
How can a mechanic keep track of what he's doing?
It's all very confusing.
Either we're way behind thetimes. Or way ahead.


>>(8)に続く。