創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

(19)「女性アートディレクター、DDBを告発する」(2)

社内誌『DDBニュース』1970年4月号に載った記事を、許可をえて『DDBドキュメント』(ブレーンブックス 誠文堂新光社 1970.11.10)翻訳・転載。



女性アートディレクター、DDBを告発する(1)

女性アートディレクター、DDBを告発する

◆「君は女の子だから…」

問い「仕事に関してはどうですか? 偏見にあったことがありますか?」

キャロル「5年前、ほかの代理店で、この仕事をやりはじめたの。
そして、最初にいわれたことは、『君は女の子だから…あとでまたおいで…』よ。
私は何度も行ったわ。そしてついにアシスタントADとして雇ってもらった。うれしかったから、たくさん仕事をやったわ。
でも、ADには昇格させようとはしなかった。だから『どうして私はADになれないんでしようか?』って聞いたら、彼らは言ったのよ…ずうずうしく…『女の子だからさ』って。
そんな調子なのよ。
だからそこをやめてDDBへ来たの。
そして、DDBで初めにいわれたのも『君は女の子だよ』ってことです。
でも、とにかく私は来たのです、一本立ちのADとして…そして、それほどの偏見にはぶつかってないわ」
メイヤ「そのとおりよ。
働いている時には偏見があるわ。
アシスタントADになろうとして、DDBブルペン(新人デザイナーの部署)仲間の男の子たちと競争していた時、いつも女の子だからという理由で、最後まで考えに入れられなかった。
そして男性は仕事の出来ばえよりも、話すことで評価されるんだとわかったわ。
ところが、相手が女の子だと、彼らは彼女のいうことを聞こうともしない傾向があるのよ。
だから仕事の時は虚勢をはらなければならないってわけ」
ジュディ「私もブルペン時代にメイヤと同じ経験をしたわ。
そして、いろんな代理店で入社時の面接で、『さて、君は女の子だから、われわれは、君が逃げ出したり、結婚して退社したり、われわれの投資をフイにしてしまうことを恐れているんだ』といわれました。
バカバカしいわ。
広告の世界って、すごく変わりやすい分野でしょ…男性にとっても女性にとっても。
君は女性だからファッション関係の広告を担当するようにっていわれたの。
これが、私がファッションの仕事から抜けたいって言った時の答えよ。すごくショックだったわ。
だってそれまでの私の仕事には全然ファッション関係のものがなかったのよ。
でも、何も変わりなし…いまだにファッション関係の仕事をしてるわ。とても奇妙なことね」

◆女だからって、ファッションの仕事を押しつけないで

問い「では、あなたたちは、女性はある特定の仕事にいちばん合っているとは思わないのですね? ファッションとか食品のような?」
キャロル「あら、あなた、女性にこだわりすぎてません?」
メイヤDDBのファッション関係のアカウント(お得意)の名をなんでもあげてごらんなさいな。私はみんなやってきてるわ。
でも、女性はファッションと食品のアカウントに自然につかされていると思うわ。
『自然に』というのは、女性は男性にくらべて、それに心を動かされるからよ…ウィンチェスターライフル銃には、女性は心を動かされないもの。
でも、単なるファッションとか食品は退屈ね。女子は男子と同じことができないという意味ではなくってよ。
それはただ、たぶんファッションと食品の仕事は、女の子のほうがやりやすいかも…ということ。
女の子ならよく考える必要がないもの」
ジュディ「私は反対。衣服と食品に共鳴するのは、女の子にとって全く自然かもしれないけど、男の人のやり方のほうが、もっと面白いかもしれないじゃない?
同様に女性は男の人よりも、タイヤ車についてもっと面白い攻め方ができると思うわ。
たとえば、いま私は、モンサントの仕事をしています。
でも、フォルクスワーゲンソニーの仕事もしてきました。私は自分が熱心に取り組んだと思うわ。
私の広告にいい反応があったし、人々も車に女らしい攻め方を使うのはいいことだと思ったわ」
キャロル「クレアロールの仕事を2年半もやってます。

クレアロールの広告
いまでは整髪は60秒です。

こんなにデリケートなブロンドはなかった。


それから、ほかの仕事も幾つかやったわ…あれこれね。
でも、DDBへくる前は、女性向け製品は全然担当しなかった。
電気カミソリとバイタリスと平和部隊とウィスキーといっものだったわ。
女性はファッションの仕事をうまくやれると思うけど、ファッションの仕事のうまい男性も大勢いると思うわけ。
DDBのバート・スタインハウザーがその好例よ。

 バート・スタインハウザー(副社長、アート・グループ・スーパバイザー)

 欲しいのはブラの形? 女の形?

 そっとすべりこんで。


ファッションの仕事に従事したら、そのあとは抜け出して、何かほかのことをするチャンスが与えられるべきだと本当に思うわ」
ダイナ「私は、ファッションの仕事を立派にやってのけたことは何かの間違いだったと思うの。
だって大学では科学とリベラル・アートをうんと勉強したんですもの。
だからそれらが仕事に生かせられたら幸せ。
私には、ファッションに特に適性があるとは思えないもの」
キャロル「ちょっと待って!…どうしてもいいたいことがあるのよ、とても率直に。
多くの女性は落とし穴に落ちるということ。
私もあると時、落とし穴に落ちる自分を発見したのよ。
こうよ…えーと、男性は偏見を持っていて、私にチャンスを与えようとしない…恐ろしいことじゃない?
そして私はそこから脱けだして柵をつくったり、といったようなことをしようとしているの。
私の中のどっかにそうしたところがるのよ。
でも、それをいうのは、意気地なしのいいのがれだと本当に思うわ。
つまり、私たちが一所懸命働いて、それを求めたら…たぶん、もっと一所懸命圃らかなければならないでしょうけど…風潮がこんなだから、私たちはやることができると思うわ。
だったごらんなさい、メリー・ウェルズはやったじゃない。彼女は(DDBにいた)コピーライターだったけど。
彼女はきっとたくさんの偏見に出会ったはずよ。
フィリス・ロビンソン(DDBの創業時からのコピー・チーフ)もきっとたくさんの偏見に出会ったはずよ」

(注:メリー・ウェルズは、DDBをやめた仲間とウェルズ・リッチ・グリーン社を創業し、ブラニフ航空やベンソン&ヘッジズ100煙草の広告で人々をうならせた)。

メリー・ウェルズ(WRG社代表だった)

7色に塗り分けた機体で、「退屈な飛行機はもうたくさん」
女性客室乗務員に制服を多彩に着替えさせて「エア・ストリップ」
(エア・ストリップに機の誘導標識の意味もある)


>>続く