創造と環境

コピーライター西尾忠久による1960年〜70年代アメリカ広告のアーカイブ

02-25 あるペア・チームの実況報告(2)

アクリラン・カーペットの担当コピーライターである(ジュディ)タラー嬢と、アートディレクターの(スツウ)ローゼンワッサー氏による、カーペット販売業者向けの広告制作に関するペア・チーム・プレーの実例です。

アカウント・エグゼキュティブ(取引先責任者)がこのチームに与えた指示は、「どんな会社のアクリル系繊維でも、とにかくアクリル系繊維でつくられたカーペットに共通の利点は、ウールそっくりで、虫に食われないし、アレルギーの原因にならない…ということだ。
しかし、ケムストランド社では、他のどんなアクリル系繊維も真似できない、高度の、そしてより一貫した品質管理基準によっているが、カーペット販売業者やその客には、そこのところが区別できない」といったものでした。
同時に、マーケット事情としては、当時、ケムストランド社ではアクリル系繊維を製造する化学薬品が不足しており、アクリランは市場で品薄気味でした。
アクリランといえば、消費者間での知名度は最も高く、アクリル系繊維の80%を占めている銘柄でした。
したがって、広告のもう一つの目的は、他のアクリル系繊維製品を、アクリランと同じもの、あるいは同じぐらいすぐれたものとして売らないように説き伏せることでもありました。
テラー嬢は「もし、広告の方向がアカウント・エグゼキュティブによって本当に明示されたら、売ろうとする製品に関して最も重要で生き生きとしたメッセージがすぐできます。
そして、ヘッドラインも視覚面に関しても同じことがいえます。
コピーライターやアートディレクターが最初に口にしたことが、解決そのものになる時もよくあります」といっています。
これは、広告創造という、まことに現代的なクリエイションの一面、つまり、目的決定ということの重要性と、それに関係する表現のあり方を暗示した言葉です。
けれど、「アクリラン・カーペットの場合は、そうではなかった」のです。
テラー嬢は、ローゼンワッサー氏の個室で「しばらくの間、広告に関係のないことを、気が抜けたぐらいになるまで話し」合います。
それから本題にはいりました。
「私たちは何をいいたいのか? 高度に品質管理されたアクリル系繊維の最もすばらしいものをつくれます…といいたいのです」
そこで、テラー嬢は次のようなヘッドラインを次々とメモしては、アートディレクターに示しました。ピックアップしてみましょう。
「私たちのアクリル系繊維は最高です」
「私たちは、最高です」
「私たちは、自分自身にキスしたいほど完全です」
「私たちは、完全主義者です」
「私たちは、いつも鼻をカーペットにすりつけ、目は星に向けています」
「あなたは絶対にカーペットの苦情を私どもに持ってくるような目には合いません」

アートディレクターも書き始めました。
「アクリランを敷けば、あなたはすっかりまいってしまいます」
「アクリランのお陰で、あなたは、あなたの客の家の床について気にする必要がなくなります」
「高い規格に達するために一生懸命にやったので、シンボル・マークAが赤くなりました」(注:大きな赤いAとは、アクリランのロゴ)。
「私たちは、アクリランに関しては、運に任せるということはしません」
「私たちは決して幸福だったというわけではありません」
「運に任せるというようなことはしないでください」
「あなただけが、アクリラン・カーペットに関しては、私たちのあてにする運です」
「アクリラン・カーペットに関して運に任せたといえるものが、ただ一つあります。あなたです」
「もしアクリランが品切れになったら、カーペットを売らないでください」
「しんぼうして…」
「アクリランは待つだけの価値があります」
「今日は、カーペットを売らないほうがトクかもしれませんよ」

こう書き進めて、2人は、双方の案の検討を始めます。
この見出しのリストの中から「アクリラン・カーペットに関して運に任せたといえるものが、ただ一つあります。あなたです」と、「今日は、カーペットを売らないほうがトクかもしれませんよ」と、「高い規格に達するために一生懸命にやったので、シンボル・マークAが赤くなりました」を選び出します。
それから、視覚面に関して語り合いました。
「運(チャンス)」を表現するために、ディーラーのポートレート、指を交差させた手、チャンスの輪、ダイス、チャンスの他のシンボル…などが話題になりますが、どれもうまくないということで、タイプ・トリートメント(活字処理)で行くことにします。
「トク」であることを表現するには、アートディレクターのローゼンワッサ氏が「ヘッドラインとコピーのための小さなスペースだけ残して、どこもかも、たくさんのカーペットが紙面全体をおおってしまう」という写真を思いつきました。
「赤いA」の広告の視覚面をどうするか…これは比較的簡単に決まりました。
アクリランのロゴの大きなAだけが赤くなっていればよかろう、というわけです。
2人は、この3点の試案をそれぞれのスーパーバイザーに見せてOKを取ることにしました。アート・スーパバイザーは3点ともOKし、コピー・スーパバイザーは「A」が赤いののほかはよいということでした。
どうしてかと質問すると「便秘みたいだ」という返事でした。
これまであげた例と違うところは、このアクリランのペア・チームには、スーパバイザーのOKを取る過程が加わっていることです。